イーリング・セール



ベンドー、ストラッパー、オークショニアー、トレイナー、ジョッキー、バイアー、エイジェント、、、、いったい僕が何の話をしているかこの単語から想像つくだろうか?

昨年末依頼された仕事のひとつにイーリング・セール(yearling sale)の撮影があった。
電話の向こうでイーリングという言葉を聞いたときは何のことやらさっぱり分からなかったが、競馬の世界でイーリングとは生まれた翌年の1月1日から一年未満の馬のことらしい。
イーリング・セールとはその馬のオークションのことなのだ。
「この世界のことを知っているか?」と聞かれた時、まったく知識のない世界だったので「ええ、少しは」みたいなフォトグラファーがよく使うハッタリを言う勇気はさすがになかった。
そこで最低限知っておくべきテクニカルターム(専門用語)を素直に教えてもらった時に聞いたのがベンドー(売り主)、ストラッパー(競走馬の手入れをする人)、オークショニアー(競売人)といった言葉だった。
この仕事をやっていて面白いのは知らない世界に触れることが出来ること。
でも、知らない世界を知っている人に見せる写真を撮るのはやはり難しいことだ。


仕事の現場はタスマニアの北の都、ロンセストンだ。
ホバートから車で3時間くらいの距離。
この日は新しく買ったレンズ2本をはじめて仕事で使う日でもあった。
知らない世界、新しいレンズと不安材料を二つ抱えての仕事だった。
オークションの会場に到着し、仕事を依頼された会社の責任者と軽くミーティングし、撮影をはじめてすぐにちょっとした問題が発生した。
そこにいた人たちの立場や関係がまったく見えないのだ。
誰が売りたい人か、誰が買いたい人か、誰が馬の面倒を見て、どの馬が今回のオークションの目玉なのかといったことが僕にはまったく見えてこないのだ。
写真は眼に映る光景を絵になるようにデザインするだけでは説得力が出ない。
その場に流れる力関係や感情の動き、そして何よりその場を見ていない人に端的にその場のことを説明できるようなストーリーがそこにないと面白くも何ともない。
この日僕が与えられた時間は5時間。
5時間でギャラを払うお客さんが満足する写真をものにしないといけない。
こういうときは闇雲に撮らず、まずはじっくりと観察するに限る。
落ち着け、落ち着くんだ、と自分に言い聞かし、目の前で繰り広げられる光景を客観視できるよう努める。

オージーたちはどんな分野の仕事でも割と常に笑顔だが、このオークション会場はピリピリとした空気で包まれていた。
お金と時間と愛情を注ぎ育て上げた愛馬たちに値段がつく日。
その値段も半端な金額ではない。






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ストラッパーたちが自分たちの馬の手綱をひき、バイアーたちの前を歩かせる。
僕にはどの馬もまったく同じに見えるのだがもの凄い金額を出し将来勝てる馬、いい種馬になれる馬を選ぶ人たちの眼はとても厳しい。






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毛並み、歩き方、筋肉のつき方、目星をつけた馬をあらゆる角度から観察する。






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オークションの会場脇には大きなパビリオンが二つあり、その中ではバイヤーたちの前に姿を見せる前の馬たちが控え、ストラッパーたちが彼らの身体を丹念にブラッシングしている。






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少しでも高い値段で売れるよう願う一方で、毎日接してきた可愛い馬たちをお嫁に出す親の心境だろう。






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ほとんどのストラッパーたちたちは無言で馬たちと会話しているようだった。












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オークション会場へ戻ると競りがどんどん白熱してきていた。






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オークションは競売人の力量で提示金額が左右されるらしい。
バイヤーの物欲を煽るトークを畳み掛けるように会場一杯に響かせる。






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競売人の横には馬を出展しているベンドーたちがいる。
その表情はまるで胃潰瘍を患っている患者さんのようだ。
実際胃の痛い思いをしてオークションの成り行きを眺めているに違いない。

バイヤーたちが手を上げる瞬間を撮ろうとするのだが僕は一度としてその瞬間をファインダーに収めることが出来なかった。
彼らのジェスチャーを手を上げるのではなく、指を一本あげるかどうかくらいの小さな動きだ。
その一瞬を競売人たちは見逃さないのだから、プロというのは凄いものだと思う。






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仕事で使う前に何度か練習したつもりだが、やはり買ったばかりのレンズは手に馴染まない。
いつも使っているレンズとほんの少しの違いなのだが、そのほんの少しに致命的遅れが出てしまう。
多くのいい瞬間を逃してしまった。
手振れ補正機能付きのレンズをはじめて使ったが、動く被写体をいつも狙う僕にとってこの機能はあまり効果を発揮しないということが分かった。
買う前に考えるべきだった。

反省すべきことが多い撮影だったが、収めた写真をクライアントはとても喜んでくれた。
次回はオークションでなく競馬を撮ってみたい。
タスマニア最大の競馬はこのオークションの数日後に同じロンセストンで開催されるロンセストン・カップだ。
美しい女性たちがドレスアップしてその美を競う。
それを見るため多くの若い男性がロンセストン・カップに訪れるらしい。
ロンセストン・カップを撮りたい僕の動機もどちらかといえば馬よりドレスアップした女性たちかもしれない。












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by somashiona | 2009-04-11 17:32 | 仕事

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