ヨハンのおもてなし



アヘンケシの取材は主にタスマニア北部で行なった。
タスマニア北部には僕の友人ヨハンおじいさんが住んでいる。
そういえば彼としばらく会っていない。
取材先と少し離れた町だがせっかくなのでヨハンの家で一泊させてもらおうと彼に電話した。
しかし、3日間何度電話しても話し中。
何かあったのではないか?と不安が胸の中に広がった。
シェフィールドに住む彼の友人、たった一人の身内である今ドイツに住んでいる一人娘、思えば彼に関わる人たちの連絡先を誰一人と僕は知らない。
イヤな想像が頭に浮かぶたび、僕は目をつぶってそれを振り払う。
そして4日目にようやく彼が電話に出た。
「どうしたんだよ、心配したんだよ!」とちょっとムキになって僕が言うと「いやいやすまんのぉ、受話器が1週間ほど外れておったみたいなんじゃ」と電話の向こうでケラケラと笑い声をたてる。
その声と輪唱するようにスイスの民謡が受話器の向こうから聞こえてくる。






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第一回目のアヘンケシの撮影を終え、ヨハンの住む家へ向かった。
ひとしきりお互いの近況を報告し合うともう夕食の時間。
「何か夕食をご馳走するから外へでよう」と言ってはみたものの、この小さな町は日が沈むとお店の看板も同時に降りる。
ヨハンは「わしが美味いもんを作ってあげるから心配するんじゃない」と食事の準備を始める。
とても失礼な話だが、正直言って僕はヨハンの作るものがまったく口に合わない。
僕はとても食いしん坊で、よほどのことがない限りどんなものでも美味しいと思って食べれる人間だ。
しかも運動系の部活動をやっている思春期の少年なみにもの凄い量を食べる。
そんな僕なのだがヨハンの作るものだけはどうしてもダメなのだ。
彼のクリエイティブな食材のコンビネーションと味付けは僕の想像を絶するからだろう。
僕が美味しいものを作ると言ってもヨハンは毎回絶対に譲らない。






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人参を切りはじめるヨハン、そのスピードから予測するに食事にありつけるのはまだまだ先の話だろう。
あんぐりと口を開け彼を見つめているとナイフを振り回しながらヨハン流のパフォーマンスがはじまる。
そうなるとさらにディナーの時間が遅くなりそうなので、僕はキッチンを離れ車に戻って機材の整理をはじめる。






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家に戻るとヨハンは一人で黙々と夕食を作っていた。
きっと毎日こんなふうに一人で夕食を作っているのだ。
一人でキッチンを動くヨハンはタングステン光で出来る影のようであり、鍋から吹き出す蒸気のようだ。
そこに存在しているのに手で掴める感触がない。
年老いて、一人きりで生きるというのはどういう気分なんだろう。
おじいちゃんが死んでから一人で気丈に生きていたおばあちゃん、父が亡くなってから一人暮らしをする僕の母親、そして今一人で生きる自分自身の未来を考えた。
ヨハンの家は前回訪れた時より孤独の濃度が確実に濃くなっている。
老いていくというのは一体どういうことなんだろう、、、。
彼の家で完全に思考の世界に入ってしまった僕だったが、気がつくとヨハンも思考の世界に入っていた。






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笑顔で彼に近づいて「顔写真撮るからいい顔してよ、ヨハン」と言うとすぐにいつもの笑顔が戻る。






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ヨハン、目をつぶる。何か企んでいる証拠だ。






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突然、くしゃおじさん(知らないよねぇ〜)の顔になる。






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そして手の中に隠していたものを素早く口に入れる。






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ヨハン、とぼけたってダメだよ。
入れ歯の芸はぜぇ〜んぜん斬新じゃないよ。













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by somashiona | 2009-05-01 21:26 | 人・ストーリー

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