絵作りへのアプローチ





今日はちょっといつもと違った試みをしてみる。
一枚を撮るためにどういうアプローチをしているのかという解説だ。

アンリ・カルティエ・ブレッソンに写真のアドバイスを頼むと、「自分の作品とそれを撮った時のコンタクトシート(ベタ焼き)(写したフィルムの1コマ目から最後のコマまで印画紙の上に置き、焼いたもの)を持ってきなさい。私が見たコンタクトシートの内容に関しては誰にも話さないと約束するから」と言われたらしい。
LAの写真学校時代も作品提出時にはコンタクトシートを添える決まりがあった。
作品そのものを見るより、コンタクトシートを見た方が何か良くて、何がいけなかったのかを指導しやすいからだ。
コンタクトシートには撮影者の思想が見える、と言っても決して言い過ぎではない。
撮影者が見つけた被写体に対してどんなアプローチをとったのかという形跡を辿る行為は、撮影者のモノの捉え方、考え方を視覚的に辿る行為でもある。
だからこそ、ブレッソンは見たコンタクトシートに関して他言しないと約束したのだろう。

自分の写真の善し悪しを考えるとき、選んだ写真を見るよりも、そこにたどり着いた過程を見る方が役立つ。
もし1、2枚撮って終わっているようであればそれは詰めが甘いというものだ。
もちろん一瞬で決まる写真もあるが、自分が欲しいイメージをものにするまで徹底的に追い込む姿勢が大切だと思う。
その習慣があってこそ、一瞬の一枚がある。
そしてその一枚は決してラッキー写真ではない。


僕のブログは写真LOVEの人たちが大勢見てくれているので、たまにはこういう企画もいいだろう。

本日の材料となる写真は前回アップした「アクンデックの生活」からだ。
組み写真としてかなり反省すべき点があるものだったが、それだからこそ振り返りたい。




ジュースを飲み、クッキーを食べながらアクンデックと話をしている時はカメラは脇に置いておいた。
話もせずにパチパチ撮りはじめるのは失礼。

やがて2歳の坊やの泣き声が2階から聞こえた。
僕も一緒に2階に上がる。
カーテンが閉まっているため部屋の中は真っ暗。

2階の部屋をさっと見渡した。ここで何か撮らなければ、と思う。
ベイビーベッドから坊やを抱きかかえようとするアクンデック。








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(写真1)1/10 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








ベイピーベッドでなく坊やを撮りたかったが、、、、逃す。
(失敗作を見せる寛大な心、ああ感動)


オーストラリアでは普通夫婦のベッドルームと子供の部屋は別だ。
それが赤ん坊だとしても違う部屋で一人で寝かせる。
この部屋はベイビーベッドと彼女のベッドが一緒だ。
それを表現したかったが、窓からの明かりは直接すぎたし、絵的にも説明的というだけでどうも収まりが悪い。
彼女、カーテンを開けた。
僕はISOを400に下げた。








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(写真2)1/40 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








頭の中は作戦変更を命じている。
その位置に突っ立っていちゃいい写真は撮れない。
僕は窓の光が二人にきれいに当たる方向へ移動し、坊やをお腹の上に乗せるアクンデックをまずは一枚撮る。








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(写真3)1/40 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








いつもそうだ、まず反射的に一枚撮る。
被写体の動きが何か変わったらとにかくシャッターを切る。
そして、その後冷静に考える、どうすればいい絵になるのかを。
パッとこの状況を見て印象的なことは二つ、彼女たちの肌、木目のクローゼット、ベッドカバー、ブラウン系の暖色で統一されていること。このイメージを崩すべきでない。
被写体の後ろにいい光が回っていることも見逃してはいけない。
その光のおかげで被写体の影の輪郭が浮き上がる、これを利用すべきだということ。
シャッタースピードをあげて彼らを出来るだけ黒く締める。
構図を右にずらしドアの奥の黒い影を入れた方が足下のごちゃごちゃを入れるより整理されると判断。
これで顔の肌の黒い色とドアの影の黒の3つの黒が絵の中に並ぶことになる。
これを撮った時点で手応えを感じる。








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(写真4)1/60 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








つづいてさらに構図を探す。
延ばした腕と笑顔。
だが、この笑顔は完全に第三者である僕の存在を見る者に意識させてしまう。
笑顔なので露出を少し明るくする。








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(写真5)1/30 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








あくびが寝起きを感じさせるが彼女の見えない顔が絵の中で大きすぎる割合を占め、悪い意味で目立つ。








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(写真6)1/30 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








これは写真を撮る時の鉄則だが、横位置を撮ったら必ず縦位置の写真も撮っておく、いいか悪いかは別として。写真は全ての作業においていかに保険をかけておくかがポイント。
撮らずに写真が残らないより、撮っておいたおかげで助かった、という思いに救われることが何度もある。
太陽に雲がかかったのか、部屋の光が少なくなった気がしたので少しだけシャッタースピードを遅くする。
かなり遅いシャッタースピードを使っているのは僕がカメラをほとんどベッドに置くようにして撮影しているため手振れのリスクが低いからだ。
僕は手振れに強いフォトグラファーではないのでどうカメラを安定させるかにはいつも気を使う。
キャノンの5Dや7DならもっとISOを上げるだろうが僕の40Dの高感度はあまり信用していない。








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(写真7)1/25 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








彼女が体勢を変えたので、僕も構図を変える。








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(写真8)1/25 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








ベッドに一瞬うつぶせになる彼女。
この一瞬で同じ部屋の同じ被写体に関わらず、まったく違ったムードの絵が出来る。
こういう一瞬を逃してはいけない。
影の方へと彼女の顔が移動したので彼女の露出は暗くなるが、こういう時はがちゃがちゃ設定をいじらず、まずは撮る!
この写真も手応えを感じる。








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(写真9)1/25 f4.0 ISO400  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








前回アップしたストーリーで使ったのはこの写真9だ。
写真として好きなのは写真4だったが、僕が彼女の家を訪れて感じた少しけだるい雰囲気はこの写真9の方が合っていると思った。
ここで写真4を選んでいたら、たった1枚写真が違うだけなのにストーリー全体が与える印象は変わっていたと思う。
写真は撮る時よりも選ぶ時の作業の方が苦しい。
この作業を間違うと全ての苦労が台無しになる。
何を思い、何を感じて撮っているのかというクリアーな考え方が無いと選ぶ段階で正しい選択が出来ない。
どんなタイプの写真でも、自分が撮った写真に対する説明を求められたときハッキリと答えられない写真は出るところへ出ようとする時、通用しない。



一階に戻った彼女は坊やのためにミルクの準備を始めた。
子供を持つ女性をその家で撮るとき、炊事、掃除洗濯の場面はぜひ押さえておきたいシーンだ。
キッチンは泣けるほど暗い。
でも、フラッシュは使いたくない。
ISOを再び640に上げた。
白い壁に窓の光が当たっているのでこの状況も被写体の影の部分のエッジを引き立たせることが出来る。
下から上を見上げるように撮り、白い壁に浮き上がる彼女をシンプルに撮る手もあったが、ここはやはり生活感をいれたい。
電子レンジ、炊飯器、お湯を沸かすポット、そういったごちゃごちゃしたものをフレームに入れたいが、ごちゃごちゃが目立つ絵にはしたくない。
ごちゃごちゃを最低限に押さえるため暗い露出で彼女が若干シルエットになるような作戦で行くことにする。
レンズを向けると彼女はポーズをとった。
それがいけない訳でもないし、そういう写真も撮っておく必要はあるが、この一連のシーンでカメラ目線はまずい。
僕が頭の中で写真を撮りながら作り上げようとするストーリーに反するからだ。
カメラ目線といえば、この坊や僕をよっぽど怪しく思ったのか、それともストロボの光で泣かされたことをまだ怒っているのか、僕の顔を見つめたまま眼をそらさない。カメラ目線はダメなんだってば!








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(写真10)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)









鍋やお皿をキッチンで洗う姿こそ、主婦の哀愁ってもんだ。








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(写真11)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








そこでまた坊やが登場!
おい、おい、坊や、頼むよ、ここは主婦の哀愁って場面だから、お願いあっちへ行って。
今回はこの坊やの写真を使わなかったが、もし仮にこのシーンでアクンデックと坊やの写真を使うとしたら、僕はこの坊やがハッキリと写っている写真13は使わない。
なぜなら、このシーンは主婦の哀愁であって、坊やは脇役だからだ。

この絵(写真12、13)の中で坊やが占める割合は少ないが、主役の彼女の視線が無く、坊やの視線があるというだけで写真を見る者の視線が坊やの方へ引きつけられるのがわかるだろうか?
それだけ、人の視線の力は強いのだ。
写真を選ぶ時はそういうことにも注意しなければいけない。








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(写真12)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








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(写真13)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








本来なら坊やと彼女のツーショットはベッドのシーンで(ベッドシーン?)充分なのだが、このシーンの写真も使ってしまった。
自分で写真を組むとき、捨てきれないのが僕の欠点。
坊やを抱くアクンデックのこの2枚。








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(写真14)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








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(写真15)1/40 f4.0 ISO640  17mm (EF-S 17-55mm f2.8 IS USM)








写真的には写真14の方が完成度が高いが、ベッドのシーンのツーショットと重なる雰囲気があるので、ここは暗い室内で微かに見えるアクンデックの笑顔をいれた。
これでこの暗い室内での物語に少し明るさと救いが出る。








こんな調子で全て解説していくとキリがないのでこの辺で止めにする。
もしあなたが雑誌の編集者としてこれらの写真を受けとったなら、どの写真を使いストーリーを組んだだろうか?


自分の写真にデータまで付けて解説したのはブログはじまって以来はじめてのことだ。
今日アップした写真はすべて100%の撮って出し。
露出もトリミングも何も手をつけていない。
RAWからJPEGに変えただけ。
なので今回アップした写真と比べると前回の写真は現像段階で少し手を入れてあるのが分かるはず。(全てではないが)
見てくれた皆さんにとって面白かったかどうかはわからないが、少なくても僕はちょっと楽しんでしまった。
僕の写真はさっさ、さっさとお気軽に撮っているように見える、とよく言われる。
実は自分で言うのもなんだが、お気軽に撮っているように見せかけて(この見せかけるところが大事)数秒間の瞬間瞬間に様々なことを考えているのだ。
(撮影の時はさすがの僕もエッチなことは考える余裕なし)

写真はほんの少しのことで全然違うイメージが出来てしまう。
その瞬間、何を感じ、何を考えたか、これがいち早くカメラに伝わらないといけない。
(できてないけど、、、)
そして全体の流れの中で今撮っているのはどういう部分に位置するのか分かっていないとダメだ。
写真は真実を伝えるというが、そんなの嘘っぱち。
撮り手がどの瞬間のどこをどう切り取るか、それに全てがかかっている。
なので皆さん、フォトグラファーの言うことは信用しないようにしましょう。
(僕だけは信用していいのよぉ〜)

写真ってほんと〜に難し〜ですよねぇ。(水野晴郎の口調でお願いします)
それではみなさん、さよなら、さよなら。(淀川長治でお願いします)


















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by somashiona | 2009-10-01 23:37 | 人・ストーリー

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