撮れなかったは負け戦:2008年、馳星周編





2008年の夏、僕は小説家、馳星周さんの家を訪れた。
ブログを通して馳さんとコメントを交わすようになって以来、日本を訪れた時は彼を撮りたいと思っていた。
帰国する前にかなりビビりながら、馳さんにその願いを打ち明けてみた。
「泣けるくらいかっちょいい家族写真撮ってくれるならOKです」と返事をもらった。


僕は基本的にどんな撮影でも緊張する。
仕事でもプライベートでも。
それが人物撮影だとなおさらだ。
ビビりながら現場に向かい、今回はもう絶体絶命だ、と感じる時もあるが、そんな時はいつも天から写真の神様が降りて来てくれて、クライアントが満足するに十分な写真を撮らせてくれる。
心の中でいつも「今回もラッキーだった、、、」と呟き、冷や汗を拭うのだ。
だが、ラッキーじゃないときもある。
今回の話は、いわゆる失敗談だ。



馳さんの本はもう何冊も読んでいるので頭の中での彼のイメージはワルテルのとーちゃんではなく、暗黒街を綱渡りをしながら生きる一匹狼。
会った途端に理由もなく殴られるのではないかという不安を胸に馳さんに教えられた駅を降りると、笑顔の馳さんがそこにいた。

普通ならここでリラックスするところだが、この日の僕はカチンコチンに固まっていた。
なんせ何日も前から「泣けるくらいかっちょいい写真を撮るんだ」「誰も撮ったことのない馳さんを撮るんだ」「馳さんでも撮れないようなワルテルとソーラを撮るんだ」「もう一度マナブちゃんに会いたい、と奥さんがおねだりするくらい美しい夫婦のポートレイトを撮るんだ」と呪文のように自分に言い聞かせていたのでプレッシャーでオシッコが漏れそうだった。

ブログ界のアイドル、ワルテルとソーラに対面する瞬間がとうとうやって来た。
仕事で芸能人やスポーツ選手、政治家などの有名人に会ってもほとんど心が揺れることはないが、ワルテルとソーラの姿を見た時は心拍数が一気に上がった。
両手を広げてワルテルとソーラに駆け寄った。
テレビや映画ではスローモーションで表現されるであろう大切なシーン。
し、しかし、あ、あれ〜っ、ワルテルは素通り、ソーラは伏し目がちに僕を避けて逃げていった。








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あ、あれぇ〜〜、ど〜ちて?
「とーちゃんからマナブちぃ〜の話は聞いているよ」とか「わたし、黒い箱を持ってるおじさんをみるとうれしくなるの」みたいなセリフを期待していたのにぃ〜!
馬鹿げた話に聞こえるかもしれないが、馳さんのブログを見続けてた僕は当たり前のことのようにワルテルとソーラがあのブログの調子で話すものだと思っていた。
いや、犬が話すわけはないのだけど、馳さんのブログで彼らが話すことを聞き続けていたせいで、彼らが話すのがどこか当たり前のことのように思っていた。

僕は被写体とコミュニケーションがとれないと思うような写真が撮れないタイプ。
馳さんにドッグランに連れて行ってもらったが、犬たちとどうやって接していいか分からないし、彼らは猛スピードで走り回るし、周りにいる人たちの顔が写らないように注意しなくちゃいけなし、、、馳さんでも撮れないようなワルテルとソーラの写真どころか、普通の写真が撮れず顔は引きつり、心の中は号泣のあまりナイヤガラの滝状態だった。
周りの犬たちからも、「何しに来たんだこいつ」みたいな顔で見られたり、無視されたりで、写真を撮るのをいったんヤメることにした。








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馳さんがワルテルや他の犬たちの写真を撮るのを眺めた。
さすが、犬たちの心や動きを読みつくしている。
いつも何気なく見ている馳さんのドックランの写真、実際その場でやってみるととてもあんなふうには撮れない。
プロレスのリングサイドでメキシカンプロレス、ルチャリブレを撮るようなものだ。
ワルテルやソーラだけでなく、他の犬たちを見つめる馳さんの眼が優しい。
愛おしさが伝わってくる。
ワルテルやソーラは馳さんやかーちゃんに大切にされて幸せだけど、馳さんたちもまたワルテルやソーラから幸せにしてもらっているんだということがよくわかる。
そんな気持ちにひたっていると突然「おりゃーっ、ワルテルー、何やってんだー!」という地獄のエンマ様のような馳さんの声が地響きとともに聞こえ、怖くてオシッコちびりそうになる。








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この日の撮影は降参した。
こんなんじゃ撮れっこないと思った。
夜、馳さんや奥様、そして奥様のお友達とBBQをした。
火のおこし方を見て、みんな都会っこなんだ〜、と僕はクスッと笑った。
面白い話をたくさんして、ベッドに入った3秒後に眠りに落ちた。









翌日、僕はまたもや朝からカチコチ。
いや、いや、僕の坊やの話でなく、心が。
泣けるくらいかっちょいい写真を撮る最後の日だ。
「馳さんでも撮れないようなワルテルとソーラ案」は先日インポッシブルだと悟ったので、ワルテルやソーラたちに対する馳さんの心を写すことに気持ちを集中しようと決めた。
仕事で難しい撮影をこなさなくてはいけない時の50倍は緊張していた。
どうしてこんなにテンパッてるのか自分でもよく分からない。








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朝の散歩、ここが勝負だ、ここで永遠の写真を撮るんだー!
幸せを撮るんだー!愛を撮るんだー!

ごちん!ごろごろごろ〜、、、。

いや〜な音とともにカメラのボディが突然軽くなった、、、。

足下を見るとアスファルトに僕のCanon EF 28-70mm f/2.8 L USMが黒いプラスティックの破片とともに転がっている。

ひえぇ〜〜〜〜っ!

なんでボディからレンズが落ちるのぉ〜〜〜〜!

実はこの夏、カメラのホールディングの方法を実験的に変えていた。
新しいホールディングの方法は指先がレンズの脱着ボタンに触れるのだ。
緊張のあまり、ホールディングする指に普段の50倍の力が入り、レンズの脱着ボタンを思いっきり押していたようだ。
レンズ交換中でもないのにカメラからレンズを落とすなんて、長いフォトグラファー生活ではじめての体験。

呆然とする僕の目の前に音もなく忍び寄った馳さんが、今まで見た中で一番嬉しそうな顔をして僕にレンズを向け、カシャ、カシャとシャッターを切りまくっている
まるでダイアナ妃を追いかけ回していた人たちのように。
馳さん、一番いい顔をしているのに、僕はシャッターチャンスを逃してしまった、、、。
なんだかわからないけど、馳さん本当に嬉しそう、、、。
正真正銘の「どS」。








レストランでおいしい朝食を待つ間、馳さんの足下に眼をやると椅子の下にカメラが置いてある。
こういう何気ないカメラの置き方で、普段どれだけカメラを持ち歩き写真を撮っているのかが分かる。
食事をする時はテーブルの上ではなく椅子の下が一番安全だ。
海外ならカメラのストラップを椅子の足に通す。
会話をしている時も馳さんの手はワルテルやソーラに常に触れているし、なんども彼らにアイコンタクトを送る。
世間一般の男たちは恋人にだってこんなに優しくなれないだろう。(僕はなれるけど)(バシッ!ごめんなさい)








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馳さんの家に戻ると料理好きの馳さんが手際よく野菜たっぷりの料理をはじめた。
うわ〜、美味そう!でも、さっきレストランで美味しいもの食べたばかりだから、こんなにたくさん食べれるかなぁ〜、と思ったらワルテルとソーラの朝ご飯だった。
マジで〜、僕が普段食べているものの50倍ぜーたくー!








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ワルテルとソーラの手足をきれいに拭いてあげる馳さん。
このとき、馳さんと向き合うワルテルとソーラから話し声が聞こえていた。
そう、ブログでいつも話しているように。
音にはなっていないけど、たしかに馳さんと彼らは話し合っていた。
僕が感動して見ていると、「とーちゃんはいつもこうしてくれるのなの」とソーラが僕に話しかけてくれた気がした。








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馳さんが仕事をはじめる時間だ。








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馳さんの葉巻コレクションルームを見せてもらう。
ここに入ると小説の世界の馳さんに素早く変身。
というか、仕事をすると言った時から顔つきが変わりはじめていた。
今回の撮影で、どうしても、どうしても撮りたい一枚があった。
それは仕事場の馳さんだ。
僕はプロフェッショナルな人が仕事をする時の顔が好きだ。
仕事場はその人の肉体の一部になるし、その時の顔はとても多くのことを語る。
かつて木村伊衛兵や土門拳などの巨匠たちは一流の画家や小説家を仕事場で撮っている。
こういう写真は光がどうとか、フィルターがどうとか、そんなことはどうでもいい。
いつもそこで、そうしているであろう的写真が撮れればそれでいいのだ。
あの素晴らしい作品たちはこの場所でこんなふうにパソコンに向かう馳さんから生み出されるのだ。
僕はそれを切り取れたことにカチンコチンだったとはいえ、感動してしまった。








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このあと、馳さん、奥様、ワルテル、ソーラ、豪華メンバーでファミリーポートレイトを撮った。
馳さんが世界中で一番大切にしているものが、僕の目の前の約2平方メールの中にある。
そういうものを僕は撮らせてもらっているのだ。
このブログでは載せられないけど、温かな写真が撮れた気がした。
今回の一連の写真の中で唯一手応えのあった写真だった。

今でこそ、仕事場を見れて感動したとか、手応えのある写真だったとか言っているが、あの時は馳さんの家を出て、東京行きの新幹線の中で田沢湖と支笏湖を合わせたくらい深く落ち込んだ。
どうしてあんなに緊張したんだ、撮ろうと思っていた写真の3%くらいしか撮れなかった、泣けるほどかちょいい写真はどうなったんだ、レンズけちょん、けちょんじゃないか、、、しばらく引きずるほど落ち込み、おまけに撮った写真の自信無さのせいで馳さんにしばらく写真を送れずにいたほどだ。(ごめんなさいでした)
まさに「撮れなかった」は負け戦

馳さんと過ごしたときの写真を今回久しぶりに見た。
真面目な話、長い間、トラウマのせいで見れなかった。
しかし、思ったことがある、貴重な写真を撮ってるじゃん、と。
(今だからそう思える)

そういうことを言っているからナルシストと呼ばれてしまうのかもね〜〜〜!








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by somashiona | 2009-10-18 23:39 | 人・ストーリー

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