相原さん、フォトキナへの道 最終回




一連の撮影を終え、僕たちは再びブルームへ戻った。
いよいよ満月の夜だ。
まだ外が明るが月への階段を撮るためベストポジションを確保し、三脚3本に3台のカメラをセットし、暗くなるのを相原さんと僕はじっと待つ。
本格的なカメラを3台も海に向けて並べ、おまけに首からも数台のカメラをぶら下げている僕たちはハッキリ言って目立つ。
変わった人間を見ても驚かないオージーたちが、記者会見でもはじまるのでは、と僕たちの周りに集まってくる。
相原さんは本気モードに入っているので(金剛力士様)半径3メートル以内に近寄った多くのオージーたちは本能で危険を察知し、それ以上は距離を詰めないが、なかにはやはり空気の読めないおばさんなどがいて、大胆にも三脚の上のカメラに触り、ファインダーを覗こうとする。
すると相原さん思いっきり日本語で「だめだー、触らないで!」と吠える。
日本語の分からないおばさんには黒い顔をした国籍不明の大男が「ダァ〜ッ、ダダダー、デェー!!!」と吠えているようにしか聞こえないだろが、それでも恐ろしいには変わりなく、すぐに尻尾を巻いて逃げていく。
しかし、そんなふうに周りの人間を追い払っているのにも限界があった。
月への階段が海面に出来る時間になる頃にはこんな小さな街のどこから人が湧き出て来るのか、辺り一面が東京の朝の地下鉄ホーム並みの人だかりになった。
僕は周りの人がカメラや三脚に触れないよう人間ポプラ並木になっていたが、それでも防げない邪魔者もいる。
(人だらけの空間で3本も三脚を立て、怖い顔をしている僕と相原さんこそが周りの観光客にとってはたまらなく迷惑な邪魔者に違いないが、、、)
ティーンエイジャーの男子が撮影中の三脚に触りはじめた。
それに気づいた相原さんは今にもその子に殴り掛かりそうな勢いだったので、僕がその子にキツく注意した。
僕に何か言い返そうと思ったその男の子、相原さんの殺気に気づき、すぐに相原さんに背を向け、地面に体育の座り方で座った。
一人の少年が危なく一命を取りとめた瞬間だ。

人ごみの中で相原さんは美しい月への階段をものにした。
この瞬間、今回の撮影の95%は終了したと言っていいだろう。
ブルームのレンタカー屋で遅ればせながらランドクルーザーを手に入れ、(ニッサンを返す時は新車と思えるくらいピカピカに磨いた。もちろん舗装以外の道を走ったことがバレないように)さらに撮影を行い、再びパースへ戻った。
僕たちはパースから北へ250kmのピナクルズへ向かった。
ここが今回の撮影の最終地点。
ここも不思議な場所だった。
砂丘のような場所にニョキニョキと突き出た岩、と思ったらこれは木の化石らしい。
ここにUFOが着陸しても違和感のない風景だ。
僕は毎日宇宙人みたいな人と寝起きを共にしていたのでどんな生命体と遭遇してももう驚きはしなかったろうけど。

朝から晩まで2日間ここで撮影をした。
僕もここが最後だったので少しだけコンデジでピナクルズの風景を撮った。
太陽が完全に沈みきったとき、「これで撮影は全て終了です」と相原さんがいい僕たちは固く握手をした。
このとき、胸に込み上げるものがあったが、それは皆さんも理解してくれるだろう。
僕ですら全力を出し切ったと思えたのだから、このときの相原さんの気持ちはかなりの満足感があったのでは。
それとも、現像のあがりを見るまではやはり達成感のようなものは沸き上がらないのか?
このときはやり遂げたことがただ、ただ嬉しくて相原さんの立場でものを考える余裕はなかった。

写真を撮るにはもうわずかしか残されていない光で僕と相原さんは一緒に記念撮影をし、その夜は二人だけの打ち上げディナーということで豪勢にロブスターを食べた。
もちろん、僕たちにとってそれは格別の味だった。

この時の写真がたくさん使われたドイツでのフォトキナは大成功だった。
これが相原さんの写真家としてのキャリアに特別な意味をもたらしたのは間違いないだろう。
僕も貴重な経験をさせてもらった。
相原さんには心から感謝したい。

皆さん、こういうプロセスを経て相原写真は写真展で飾られ、写真集に収められるのです。
なので彼のプリントと対面する時は3回お辞儀してから見るようにしましょう。


今回の「相原さん、フォトキナへの道」シリーズをアップしたのは、どSの人たちからのアリソンの話を書けと脅されたからというのも理由の一つではあるが、僕としては相原さんの長年の夢が実現した写真絵本「ちいさないのち」に捧げるエントリーだ。
この本には僕の名前も記されていると相原さんに言われた。
嬉しい話だ。


5話からなる長い話に付き合ってくれてありがとう!
「タスマニアで生きる人たち」しばらくノンビリ更新に戻ります。
アリソンの顔は皆さん一人一人の想像力におまかせします。(笑)












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眼だけで敵を打ち倒すことが出るのは極真空手の創始者マス大山と相原さんだけ
押忍!








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インド洋の朝
海の色、空の色、光、空気、インド洋には全てにおいてうっすらとオブラートで包まれたような柔らかさがある








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写真だけ見せられて、ここは火星ですと言われたら、納得しちゃいそう








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僕は何も悪いことやってません、本当です、信じてください
悪いのは相原さんの人相です








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これが木だったって、どういうこと?
こんなふうに木が化石化して残るのはとても珍しいことらしい








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完全に入っちゃっている時の相原さん








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キムタクや渡辺謙が演技でする撮影のカッコよさとは次元が違うだろ!
どうだ、全世界の女性たちよ、男の本当のカッコよさに気づくのだ!
どうだ!








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撮っても、撮ってもキリがないほど被写体があるピナクルズだが、撮るべき時間帯は一日の中でもほんの数十分だ
もちろんその一番美味しい時間帯は必死で相原さんのアシストをしているので、僕は撮れないけど








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どうだ、惚れたか!どうだぁ〜〜〜〜!








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この夕日を見たとき、ああ、ついに全てが終わってしまうのか、と思った
身も心もヘロヘロだったが、写真を愛する僕にとって最高の現場にいつまでもどっぷりと漬かっていたいという気持ちが少し僕を切ない思いにさせた








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ピナクルズにさようなら、西オーストラリアにさようならだ








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打ち上げのディナーで食べた海の幸
第一話の飛行機から撮った写真が2006年7月9日
そしてこの写真が2006年7月24日
あっという間だった












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(冗談です。心の綺麗な方、真に受けないでください)

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by somashiona | 2009-11-10 15:22 | 人・ストーリー

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