新聞ポートレイトができるまで






新聞に掲載される一枚を撮るためにどれだけ追い込むか。
これが今日のお題目。

シドニーの新聞社からタスマニア在住の作家デイヴィッド・オーウェン氏のポートレイトを撮るよう依頼される。
新しい本を出版したらしく、そのブックレヴューで使う写真だ。
仕事でポートレイトを依頼されたときに最初に僕がやることはその人についての情報をできるかぎり収集すること。
撮影の時は会話のキャッチボールが大切なので、話のきっかけをいくつか用意しておくとコミュニケーションがスムースになるし、グーグルのイメージ検索で事前に被写体の顔が分かると絵作りのイメージもしやすい。
グーグルで見つけたデイヴィッドさんの写真は鋭い眼光のものが多く、笑顔の写真は一つも見つけれなかった。
彼はとても魅力的な顔をしていると思った。
彼が今回出版した本「シャーク」は、サメが長い間人々から敵視され続けた故に今は絶滅の危機に瀕している、というような真面目な内容だが、それだけに今回のポートレイトではなにかジョークを盛り込みたかった。
新聞写真ではあるが、少しでもそこにクスッと笑ってしまう部分やお茶目な要素を盛り込みたいと思った。
しかし、こういうことばかりは本人に直接会ってみないと何が出来るか分からない。
お茶目な要素などとんでもない、と怒りだす人だってたくさんいるのだ。
実際そういう人もたくさん写してきた。
幸いなことにデイヴィッドさんは僕のやりたいことに賛同してくれたし、いい写真を作るための努力を惜しみなくしてくれた。

「シャーク」という本の紹介なので彼のポートレイトには海や水にまつわるものがやはり必要だろうと最初に思った。
最初に頭に浮かんだイメージは大切にすべき。
彼の自宅付近で撮影することになっていたが幸い彼の自宅は海のすぐそばだった。
撮影の1時間前にロケハンをした結果近くにあった桟橋以外の場所は撮影地として考えられなかった。
ここでの写真がこの日一番大切な写真になるだろう。

彼の家にお邪魔してすぐに撮影を始めた。
新聞の仕事を依頼されたときは使用するワンカットのために6枚から12枚の写真をすべてキャプション付きで送る。
キャプションはフォトショップのインフォメーションの中にアサイメント名、いつ、どこで、だれが、どうした、と撮影者の名前を必ず書き込み、jpegでピクセル数は小さくせず圧縮で1MB程度の重さにし、1枚ずつ分けて送る。
このやり方はどの新聞社、どの通信社でも暗黙のルールのようだ。
写真を縦で使うのか、横で使うのか、大きく使うのか、小さく使うのか、売り出されるまで僕にはまったくわからない。
だから、どんなパターンでも対応できるような写真を撮っておかなければならない。
選ぶ人に出来るだけたくさんのチョイスを与えるのだ。
家の中では1、2カ所で撮ろうと決めていた。








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僕は人を撮りはじめるときほとんどの場合「笑わないでください。でも目に力をください」とはじめる。
初対面の相手から「じゃあ笑ってくださいねぇ」とか言われても普通は自然な笑顔など作れる訳がない。プロのモデルじゃないのだし。
「笑わないでください」と言っておきながら笑えることを僕は言い続ける。
被写体になってくれている人が思わず笑ってしまいそうになると「ダメ、ダメ、こらえて、真剣な顔が欲しいんですから」などとやっているうちに距離がだんだんと近づいてくる。
折りたたみ式の小さなライトスタンドにキャノンのスピードライトを1灯付け、傘を使って光をディフューズする。
こういう取材でいつも持ち歩くライトスタンドManfrotto 001JBは僕のような仕事をするフォトグラファーの必需品だ。とても小さいのだが高く伸ばせるし、安定性もある。
ライトを使って撮っているときも、自然光の美しさを忘れてはいけない。








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本の紹介と作者、芸がないなと思っても定番の写真は必ずおさえておくべきだ。
















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会話を進めながら撮っていくうちに被写体が少しずつ素に近づく。
念のためにモノクロも撮っておく。
オーストラリアの新聞はカラー印刷のページでもモノクロが写真として効果的であればファッション雑誌のようにモノクロ写真を使う。
彼の背景には奥様が描いた絵を使わせてもらった。
そうすることによって彼にとっても奥様にとっても意味のある写真になるだろう。

最初の部屋の撮影で出来ることはやり尽くし、家の中の他のロケーションを探しているとき奥様が「この棚にはこの本を書くために彼が集めた資料が詰まっているのよ」と言った一言に僕は反応した。
開けてもらって中を見たとたん、ここが第二のロケーションだ、と思った。








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次はあらかじめロケハンをしておいた桟橋。
ちょうど夕暮れ時でかなり強い西日がほぼ真後ろから差し込んでいる。
普通に写せば被写体は適正露出で背景がかなりオーバー、これじゃわざわざ桟橋に来た意味がない。
背景が適正露出なら、もちろん被写体は真っ黒だ。
スピードライトをカメラに付けてフィルライトとして使うが写真自体のインパクトに欠ける。
ここに来る前にディヴィッドさんの息子さんが子供の頃に遊んでいたサメの人形を見つけたので持ってきてもらった。
彼のポケットに僕が入れると彼はにやりと笑った。








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この桟橋の写真、ちょっと作り込む必要があると思った。
メディアで写真を使うとき、自然な状態の写真はかえって不自然に見えるときがあると僕は時々思う。
徹底的に作り込まれた広告写真であふれる世の中、自然な状況の写真はインパクトがないだけでなく、不快にすら見える時がある。
ここは作り込んだ方が面白いと僕は思った。
彼の左後方から差し込む西日が本当に強い。
この西日と対角線上の彼の右側にスピードライトを置いて撮影したかったが、桟橋が狭くてライトスタンドを立てられない。
仕方がないので彼の正面に三脚を立てそれにトランスミッター付きのカメラを設置する。
僕が右手にスピードライトを持ち、その腕を伸ばして彼に向かって光を飛ばす。
シャッターレリーズを持ってこなかったのでカメラのタイマーを使う。
ところが、何度光を飛ばしても被写体は真っ暗。
ISO200のF8.0、この距離から光が届かないはずがない、、、?
スピートライトをTTLにして使っていたので正面から当たる強い西日をスピードライト側が読み込んでしまい発光量を自動的に抑えてしまっているのだ。
しょうがないのでスピードライトを西日の対角線上ではなく、被写体の少し手前に持ってきて光を飛ばした。
これは僕の作りたかった光ではなかったが、撮影の時間がかなり長くなってしまったのでこれ以上もたもたしたくなかった。
後で冷静に考えてみると、スピードライトをTTLではなく、マニュアル発光にすれば簡単に解決した問題なのだが、本番の撮影では被写体の心の模様と絵作りに神経を集中しているのでテクニカル的なことに頭がまわらない時がある。
こういうことは僕にとって未だに大きな課題の一つだ。








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さて、あなただったらどの写真を選んだだろうか?
















実際に新聞で使われたのは、、、、。








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かなり大きな写真で使ってくれた。
このようにして、新聞で掲載される一枚ができあがるという、長い、長いお話でした。



















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by somashiona | 2010-02-13 22:11 | 仕事

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