職人さんは早起き




どうしても終わらせなければいけない仕事が朝の4時にやっと終わった。
這いずるようにベッドに潜り込んだとたん深い眠りに落ちる。
ノンレム睡眠からレム睡眠に移行する、まさに一番幸福な時間、100枚くらい重ねたフライパンが一気にキッチンのタイルに落ち、そこら中に散らばるような音で僕がベッドから跳ね起きた。
泥棒が入ったのだと思い、僕はベッドの周りに何か武器になるものがないか探した。写真のライトに使うライトスタンドがベッドルームに一本立っている。
そのスタンドの先にはベースボールキャップが冗談のように掛かっている。
ベッドからそっと抜け出し、ライトスタンドを両手に握って静かに、静かにキッチンへと向かった。
そしてトイレの横を通り過ぎようとしたとき、バン!バン!バン!ともの凄い音がして僕は不意にしっぽを踏まれた猫のようにギャーと悲鳴を上げて飛び上がった。
次の瞬間天井から男たちの笑い声が聞こえた。
僕は何がなんだか分からず裸足のまま家の外へ飛び出した。
屋根の上にはショートパンツをはいた筋肉ムキムキの男たちが3人しゃがみ込み、金槌を持ってなぜだか笑いあっている。

「エクスキューズ ミー!あんたたちいったい僕んちの屋根の上で何やってんだ!?」
僕はかなり怒っていた。

するとトイ・ストーリーのバス・ライトイヤーのような顔をした男がゆっくりとした動作で立ち上がり、やはりバス・ライトイヤーがやるように両手の拳を腰に当て「グッドモーニング サー、今日もいい天気だねぇ」と片方の眉毛をつり上げ自信たっぷりの表情で言ったが、背中に翼はなかった。

「僕は天気のことなんて聞いてないよ!そこでいったい何をやってるのかって聞いてるんだ!」僕が明らかに怒った声を張り上げていたので他の二人も立ち上がった。
テンガロンハットを被っていなかったがもう一人の男はまるでトイ・ストーリーのウッディのようで、一番年上に見える残りの一人はミスターポテトヘッドに似ていなくもなかった。
ポテトヘッドのおじさんがグローブをはいたままの手で口ひげを触りながら僕に言った「あんたんところ天井から雨漏りしてたろ。今日から屋根を全て張り替えるんだよ。大家から聞いていなかったのかい?」

「なんだよそれ、ぜんぜん聞いていないよ、そんなこと!で、あんたたち、そのばんばん屋根を叩く作業は何時間くらい続くのさ?」どもう怒りが収まらない。
後で食べようと冷蔵庫の中に残しておいたケーキを誰かに食べられてしまった時と、安らかな睡眠の途中で起こされた人は、それがたとえダライ・ラマであっても不機嫌になるだろう。

「何時間じゃないよ、あんた。3日は続くよ、天気にもよるけどね」バス・ライトイヤーがまた腰に拳を当て僕に言った。
僕は彼の背中から電池を抜いてやりたい気持ちでいっぱいになった。

怒ったままキッチンに行き、水道水をコップ一杯飲んだ。
キッチンテーブルの時計は朝7時半を指していた。
ベッドに入ってから10分か15分くらいだと思っていたのにもう3時間以上寝ていたのだ。
それにしてもまだ7時半、寝ている人は僕以外にもいるだろう。

この話を友人たちにすると皆笑ってこう言った。
「オーストラリアではね、外で働く人たち、例えば大工さんとか、庭師とか、窓の掃除をする人職人さんたちのことだけど、だいたい朝の7時半くらいから仕事を始めるのが普通なんだよ。そして午後4時くらいにその日の仕事を終え、パブに行ってビールをいっぱい引っ掛けてから家に帰るんだ」

「朝の7時半から物音を立てたら周りの人たちの迷惑でしょう?」どもう納得がいかない僕。

「いや、それがこっちでは普通だから誰も文句なんて言わないさ」と友人。

結局屋根の修理は5日間続き、あまりの勢いで屋根を叩くものだから僕の家の中は天井の塗装がはがれ落ち家中ざらざら。
家の周りは引き抜いた古い釘、手元から転げ落ちた新しい釘、修理の材料が入っていたであろうビニール袋や段ボール箱、タバコの吸い殻、そして彼らが飲んだコーラの缶が散乱していた。
いつになっても彼らがその残骸を回収する気配はなく、同じ建物に住む隣近所の人にこれをどうするのかと聞くと、彼らは不思議そうな顔をして「どうするって、私たちが掃除するのよ」と答える。
タスマニアでは職人さんたちはとても忙しく、彼らに何か文句を言うとまともな仕事をしてもらえないので仕事を頼む方は職人さんを怒らせないように気を配る。
オーストラリアに住んでからもう7年以上経つが、こういう感覚にはまだどうしてもなじめない。










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写真は僕の部屋の窓から見えた職人さん。
僕の眠りをぶち壊したトイ・ストーリーの一味ではありません。








本日の登場人物




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バス・ライトイヤー氏(左)とウッディ氏(右)








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ミスターポテトヘッド氏








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by somashiona | 2010-04-11 23:06 | デジタル

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