オーストラリア散髪事情




誰しも生理的に受け付けられないことが一つや二つあると思う。
例えば代表的なところでは、黒板に爪を立ててキィ〜ッと引っ掻くあの音や、マジックペンで何か書く時のあのキュ、キュという音を聞くと山海塾のダンサーのように身をくねらせてしまうという人。
タートルネックのセーター、マフラー、麦わら帽子の紐、恋人の唇など、どんなものでも首筋にまつわるものは苦手という人。
鉛筆、ナイフ、針、アイスピッカーなど鋭利なものの先端を見ると縮みあがる人。
鶏の皮にある毛穴を見ると貧血を起こす人。
人それぞれ弱点がある。
ここだけの話だが、僕の弱点はチョコレートに付いたままの銀紙を噛み締めてしまった時のあの感覚、お弁当の中のおかず仕切ったアルミホイルを噛み締めてしまった時のあの感覚、それが耐えられない。
考えただけでも体をくねくねさせてしまう。
そしてもう一つ、子供の頃から超苦手なのが髪を切るときスプレーでシュ、シュと髪に水を吹きかけられることだ。
その水が耳の後ろやもみあげの横を流れて、首筋に達したときにはもう白目をむきそうになる。
雨の日など髪の毛が濡れ、その滴が額や首にポタポタと流れるのもやはり嫌だ。
シャワーの後、着替えを済ませたシオナの長い髪がTシャツに触れて濡れているのを見ると背中がざわざわする。
とにかく、服を着ている状態で髪が濡れているという状況にめっぽう弱いのだ。
同じ弱点を持つ者を探し出そうと色々な人に聞いてみるのだが、まだ出会ったことがなく、残念ながら僕の苦しみを理解してくれる人はいない。

髪と言えば、床屋さんや美容室で髪を切った後、それが首筋や服の中に入ってチクチクするもかなり苦手だ。
この悩みはオーストラリアに来てからいっそう深刻になった。
オーストラリアでは一般的に髪を切った後、ブラシで首の周りや額に付いた髪をサッ、サッと落とし、鏡で仕上がりを見せられ、それでおしまいだ。
耳の中にも眉毛にもまつ毛にも、首の周りにもチクチクする髪の破片(そういう言い方するか?)でいっぱいだ。
散髪のあと、仕事中でも、食事中でも髪の中に埋もれている切った髪の短い破片が笑ったり、頷いたりするたびにパラパラと落ちてくる。
家に帰り、シャワーを浴びずベッドにもぐり込めば枕元はチクチク髪地獄になる。
どうして髪を切った後、頭を洗ってくれないのだろう?
っていうか、ひょっとして、洗わないのが普通なのか?
そういえば、アメリカでも洗ってくれなかった気がする。

床屋や美容室といえば、オーストラリアに来てまだ馴染めないのは、男子の髪を切るときハサミを使わないところが多いことだ。
あの道具をなんと言っていいのか分からないが、ブラウンやフィリップスの電気シェーバーのようなもので髪を切るのだ。
髪を切るとき必ず聞かれるのが「何番にする?」という質問だ。
はじめはその質問の意味が分からず「I have no idea」と答えると髪を切る人もかなり困った顔になった。
何番というのは電気シェーバーの刃の長さのことなのだ。
長い刃で切れば長い髪、短い刃で切れば短い髪。
最初の何回かは僕のイメージとはかなりかけ離れた番号を言ってしまったため、髪を切った後鏡で見せられた自分の顔が少年野球の補欠選手のようなスポーツ刈りでひどく驚くということが度々あった。
だいたいからして、あんなシェーバーで髪を切るのに技術も何もないだろう。
髪を切るたび、その雑な仕事に必ずガッカリさせられた。
何軒ものお店をまわり、やっとハサミできちんと切ってくれる美容師さんと出会った。
髪を切る時の集中力も、その技術も、明らかに今までの人たちと違った。
後で知ったのだが、彼は毎年行われる全豪ヘアコンテストでタスマニア州の業界を代表して審査員を務めている人だった。
彼の仕事は気に入っているのだが、問題がないわけでもない。
「今日はどんなヘアスタイルにする?」と彼が聞くと、僕は慌てて「どこにでもある、きわめてコンサバティブ(保守的)なスタイルでお願いします」と答える。
全豪ヘアコンテストの審査員でゲイの彼は40代の僕の髪をヒップホップのアーティストのような最新の、流行の先端のスタイルに仕上げたくてうずうずしているのだ。
彼にとっては自分を抑えたかなり大人しめのヘアスタイルで僕の髪を仕上げるのだが、それでもジェルをふんだんに使い、髪のあちこちを故意に立たせた彼の作品を鏡で見せられると、なんだか僕は自分が鉄腕アトムになったような気分になる。
それでも「いい仕事をしてくれてありがとう」と笑顔でお礼をいい、お店を出て彼の視界が届かないところまで歩くと、僕は前もって準備していた帽子を慌てて被り、鉄腕アトムヘアを知っている人に見られないようにする。
彼に髪を切ってもらう日はその後2時間は他の予定を入れず、そのまま家に直行し、ジェルを塗りたくり、丹念に作り上げてくれたアトム頭をシャワーの水で洗い流す。
いつもの自分に戻り、僕の苦手な髪の破片のちくちくもなくなったところで、僕はやっと安心する。

髪を切るだけなのに、こんなに苦労するこの国のシステムに、どうもまだ馴染めない。












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ウェディングのためのヘアメイクをする女性。
プロが仕事をしている姿は美しい。
ヘアピンを口にくわえる彼女の視線に心奪われ、少しの間、この日の主役が花嫁さんから彼女に入れ替わった。

写真の美容師はテキストと無関係です。








あ、そうだ!どうしても耐えられないこと、もう一つ。
ベタベタするもの。
ソフトクリームが手に流れベタベタ、テーブルの上がベタベタ、車のハンドルがベタベタ、誰かの子供の口元がキャンディーやアイスクリームでベタベタになっているのを見ただけで地面を転げ回りたくなる。
ベタベタしてくる女性は別です。
















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by somashiona | 2010-04-14 22:05 | デジタル

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