満足する?しない?





長い間、心に引っかかっていたことの意味を、時を経て理解することがある。

学生時代、僕は山の中の測量をするアルバイトをしていたことがある。
測量会社のフタッフ二人と僕を含めたアルバイトの二人がチームを組んで、何日も何日も暑い山の中をヤブ蚊や蜂と闘いながら歩き続けるバイトだった。
ある日、山小屋の中で着替えをする僕を見て、当時たぶん40歳後半のベテラン測量技師がこう言った。

「なんだお前、ピンクのバンツなんかはきやがって」と。

当時僕はフルーツオブザルームの下着が大好きで、好んで明るい色のものを身につけていた。
ちなみに、今はブリーフ派だが、当時はトランクス派だった。まあ、どうでもいいことだが。
昔からあるグンゼの白いブリーフと、これまた白いランニングシャツ姿のベテラン測量技師に向かって、僕はこう言葉を返した。

「ピンクのトランクスをはく気持ちが持てなくなったら、もうおしまいですよ」

この言葉を聞いた途端、薄くなった髪から見える頭皮が赤くなるのがわかるほど、彼は激怒した。
僕にはこの男性がなぜそんなことで激怒するのか、まったく理解できず、その後もちょくちょく彼の赤くなった顔を思い出しては首をひねっていた。

最近、しゃがむとお尻の割れ目が半分見える若い男性に「そういうのって気にならないの?」と聞くと「ヘイ、メン!そんなこと気にするようじゃ、あんたももう終わりだな」と言われた。
彼の舌の中央に光るピアスや両腕、胸元から見えるタトゥーについても聞きたかったが、話をする気が失せてしまった。
ピンクのトランクス事件で激怒した彼の年齢に近づいた今、なんとなく彼の気持ちがわかりはじめている。

これが「結婚おめでとう」といってくれる人の目の中に0.3秒間だけ走る影だったのなら、その場でその意味を理解できそうなものだが、人の言葉の裏に隠れた意味は自分の成熟度や人生経験がないと紐解けないものも多い。

オーストラリアに来てまだ間もない頃、かなり有能なオージーの起業家ととても有意義な会話を交わしたことがある。
お互いのことや自分の考え方について色々と話し合った最後のパートで、「君は決して満足しない人間なんだね」と彼が僕に言ったとき、一瞬彼の顔に悲しみのような色が浮かんだのを僕は見た気がした。
「満足しない」ということはさらに進み続けるための理由であり、成長の原動力だと心から信じていた僕にとって、目の前のバリバリのビジネスマンが悲しみの色とともに「満足しない」という言葉を発する矛盾が理解できなかった。
「満足」という意味の言葉を彼は「Content」という単語で表現していた。「Content」は本の目次や物事の内容という意味もあるので、「それはnever satisfiedという意味か?」と聞き直すと、彼はそうだよ、と答えた。
僕はこの後すぐにその場を離れなくてはならなかったので、彼の真意を聞けずにこの会話は終わってしまった。

その後、タスマニアで素敵な生き方をする人たちと出会うたびに、「満足する」ことの大切さを徐々に知っていった。
自分の長所を探すより、欠点を探すほうが簡単なように、「満足する」ことより「満足しない」ことのほうが実は楽で、自分はただ楽な方へと流れていただけなんだ、と気付かされることが度々あった。
「満足する」ことは受け入れることであり、感謝することだ。

何度か離婚を経験し、その後も恋人を度々変える知人と話をしていると「満足する」ことの大切さがなんとなくわかる。
彼は新しい恋人が見つかるたびに、彼女が今までの女性と違ってどんなに素晴らしいのかを僕に説明してくれる。
しかし、半年後に彼に会うと彼女にもいくつかの問題があると認め、1年後には「彼女じゃ自分を満足させられない」と、いつものパターンに帰っていく。
この彼女も、今までの女性たちも、とても素敵な人達で、彼が今そばにいる彼女を認め、欠点も受け入れ、心から尽くしたのなら、もっと大きな「満足」が彼に返ってくることは間違いないはずなのに、、、と外野からことを眺める僕は思ってしまうのだ。

東京に住んでいたとき知り合いになった男性はもうすぐ70歳で、自分の会社を息子に譲り、引退後はのんびりと生活する予定だった。
彼の生きがいは「株」で毎日数億円単位で損をしたり、得をしたりしていた。
僕とお茶をしている時も、ひっきりなしにディーラーと携帯で話をし、僕との会話の内容も90%はお金のことだった。
儲かったと言ってはご機嫌で、損をしたと言ってはご立腹だ。
彼はいわゆるお金持ちと言われる人種の人だったが、70歳になっても儲けることが「満足」の源である彼を見るたび、当時お金を稼ぐことに夢中だった僕は70歳でお金には囚われたくないなぁ、と思った。

「君は決して満足しない人間なんだね」と僕に言ったオージーの起業家は自分のビジネスをすべて処分し、今は障害者の訪問介護を一人でやっている。
「収入は少なくなったけど、今が人生で一番充実している」と笑う彼を見て、あの時、彼の顔に浮かんだ悲しみの色の意味がやっとわかった。










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by somashiona | 2010-09-25 10:27 | デジタル

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