夢をみた




夢をみた。
僕はハーレーダビッドソンのタンクの下にあるキーを回してエンジンをかける。
ブーツのかかとでスタンドを蹴り上げ、左手のクラッチを握り、ニュートラルからローに入れたときの、あの魂を吹き込まれたような揺れがいつもと違ったので、後ろを振り返ると父親が白いランニングシャツとステテコみたいな姿でハーレーの後ろに跨っていた。

驚いた僕は「何やってるんだよ、父さん!」と叫んだ。

僕の肩に手を乗せ「いいから、早く出せ!」と父は言った。

僕のハーレーはシングルシートといって一人乗り専用のバイクだったので 「このバイクは二人乗りなんかできないんだよ」ともう一度叫んだ。

「大丈夫だ、いいから早く出せ!」と父はもう一度言った。
父の眼は僕を見ず、バイクのヘッドライトが向いているはるか前方を見ていた。

父の有無を言わせないような固い決意のようなものを感じ、僕はバイクを発進させようとした。
その時、どこからか、母の声が聞こえた。
ハーレーのツインエンジンから吐き出される不規則な重い鼓動に混じって、たしかに母の声が聞こえた。

「お父さん、ダメ!行ったらダメ、行かないで!」母はいつもの、庭をいじるときのようなエプロン姿だったけれど、その顔は今まで見たこともないような、切羽詰った形相で僕達に向かって走っていた。

「父さん、母さんが行くなって言ってるよ!」と僕は叫んだが、父は「いいから、早く出しなさい」と低い声で静かに言った。
僕はこれにはなにか大切な訳があるに違いない、父の言うことを聞くべきだ、と感じた。

僕はクラッチを少し慌ててつなぎ、バイクを発進させた。
その時、バイクの下から「カラン!」という音がした。
父の履いていた下駄が落ち、バイクのマフラーに当たる音だった。
父が下駄を履いているところなんて、ほとんど見たことがなかったので、どうして下駄なんて履いているんだろう?という考えが一瞬頭を横切ったが、次の瞬間バイクのミラーで後ろを見ると、母はまだ必死に僕達を追いかけていた。
その姿はみるみる小さくなり後方へ置き去りにされる。
かろうじてまだ見える母の表情に絶望的な悲しさが読み取れ、下駄のことはすぐに忘れた。
胸が圧迫されるように傷んだが、それでも僕はバイクをそのまま進めるべきだと、その時思った。

この夢の3日後に父は死んだ。

確か葬式の少し前だったと思う。
実家の中は手伝いをしてくれる近所の人達が慌ただしくおにぎりを作ったり、知らせを聞いた親戚のおじさんやおばさんなどが、ぞくぞくと駆けつけてきたくらいの時だろう。
リビングのテーブルを囲んで僕や母やそして他に誰がいたかハッキリとは覚えていないが、とにかく皆でお茶を飲んでいた。
僕はオーストラリアからの胸が張り裂けそうな長いフライトに耐え、やっと実家に駆けつけ、冷たくなって布団の中に横たわっている父の頬をさすりながらやっとこれが現実の出来事なのだと理解し、同時に豪雨のため満杯だったダムがついに決壊したように号泣した。
それからしばらくは朦朧としながら、考えも、気持ちも、視野も定まらない状態がつづき、やっと家にいる人たちの顔が見えてきたような状態で、その時お茶をすすっていたのだ。

誰かが持ってきてくれた和菓子を食べながら母が突然こういった「お父さんが死んじゃう3日くらい前に、すごく変な夢をみたのよね」と。
「お兄ちゃんが(僕のこと)黒いハーレーでお父さんを連れていってしまうのを、必死で追いかける夢なの」と母が言うではないか。

僕は勿論、自分の夢の話を母にした。
ほとんど同じ夢を、ほとんど同じ時に、僕と母は見たのだ。
そして、僕にはこれが偶然でなく、ごく当たり前の必然的なことに思えた。
でも、どうして僕が連れていったんだろう。
これが疑問だ。
そして、あの下駄はなんだったのだろう。
何かのヒントを与えようとしてくれていたのではないか。
その頃の僕は離婚寸前で、身も心も芯からボロボロだった。
多分、あの頃から父が死んだ後の2、3年間が今までの人生の中で一番辛い時だった。
もちろん、今のところは、ということだが。
あの時、父は僕のことを本当に心配していた。
もしかしたら、本当に僕が連れていったのかもしれない、という気持ちが、今でも心の何処かにある。






思想家の小林秀雄さんの講演会の録音テープのなかに、スプーン曲げで有名な超能力者ユリ・ゲラーについて触れている部分がある。
彼のスプーン曲げについてはいろいろな人が「あれはトリックだ」と言っていたが、小林秀雄さんはまるで「美人なモデルさんだってウンチをするんですよ」とでも言うようにユリ・ゲラーについて、「あんなことは当然起こりえるんです。そういう事象は昔の文献を見るといくらでも出てくるんです。科学で証明できないことをすべてインチキだという今の考え方そのものが間違っているんです」と言うようなことをあっさり言ってのけているのに、僕は驚いた。
あんなにインテリジェンスな人が、そういう事を正々堂々と言ってくれるのが嬉しい。
僕は子供の頃、ユリ・ゲラーが出てくる木曜スペシャルだか、水曜スペシャルを家族と一緒に観て、手に持っていたスプーンが本当に曲がり、何十年も前に壊れた父の腕時計がグルグルと回りだすのを目撃した人間だ。
なので、そういう事を根拠もなく、どこか信じている。
僕や母の夢だって単なる偶然じゃないと信じている。






昨日、相原さんが写真展をやっているクレードルマウンテンから僕に電話をかけてくれた。
どうしても僕に言っておきたいことがあったらしい。
相原さんは夢をみた、というのだ。
東京にある相原さんの家の居間の絨毯の上で、どうしてなのかその経緯や理由は分からないけど、僕が粗相をしたらしい。
絨毯の上で、こんもりと湯気を出している物質を見て、僕も相原さんも奥様も、皆困り果てている夢だったそうだ。

「僕の夢って結構当たるんだよ、マナブさん。今までも友人が夢のなかに出てきて、気になって電話してみたら夢のとおりになっていたことがあったんですから。だから、仕事中なんかに粗相をしないよう本当に気をつけてくださいね」と相原さんはかなり真面目に忠告してくれた。
相原さんも科学で解明できないことを信じるタイプのようだ。
でも、この夢については、僕は信じません。











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by somashiona | 2010-12-03 20:52 | デジタル

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