写真はやっぱりプリントだ




高校生の頃、僕を含めたいい子ちゃんとは言えない仲間たちが、いつものように友人宅でたむろしていた。
部屋の中は煙でもんもん、床にはポテトチップスやとんがりコーンがばらまかれ、ある者はギターを弾き、ある者は雑誌スコラやGOROを読みふけっている。
しばらくたってからいつものメンバーの一人が部屋に入ってきた。
普段は明るい彼なのだが、部屋に入ってきた時の彼の表情はどんよりと重たかった。
ただ黙りこくったままタバコを吸うだけで、口を開こうとする様子はない。

「なんだよ、パッとしねえな、葬式の帰りかよ」仲間の一人が彼にいった。

「さっきさ、俺んちで火事があったんだ、、、」煙がフィルターのすぐ近くまでせまった指先のキャビンマイルドから目を離さず、彼はそう答えた。

5本の指先にとんがりコーンを取り付けるのに夢中だった彼も、モーリスのギターで長渕剛の「順子」を弾いていた彼も、GOROのグラビアでセクシーな水着姿で微笑みかける河合奈保子に釘付けになっていた彼も、皆が一斉に遅れて入ってきた彼を見つめ「マジかよ、、、」と小声で呟いた。

「オレ、全然気がつかないで寝てたんだ。そしたら兄貴に叩き起されてさ、馬鹿やろ火事だ、起きろって」彼は灰皿にフィルターだけになったキャビンマイルドを押し付けて、またすぐに箱から一本抜き出した。
「もうさ、部屋も煙だらけで、一階に降りたら火の塊が吹きあげてんだ。兄貴もおやじも外に出ろ、逃げろ、って言うんだけど、オレ、どうしても部屋に引きかえして取りに行きたいものがあって、、、それで一度外に逃げたんだけど、また部屋に引き返したんだ」

学校では先生の話など真剣に聞いたためしのない僕たち一同は黙って彼の話を聞いていた。

「火が轟々と上がってんのに、部屋に行って、何を取ってきたんだよ」ととんがりコーンの彼が魔女のような手を膝に広げて聞いた。

「写真、今までのオレの思い出がたくさん詰まっているアルバムだよ。貯金通帳とか、ギターとか、野球のグローブとか、頭に浮かばなかった。無くなったらすっげえ悔しいと思ったのはアルバムだけだった」

その時、彼の身体がたしかに煙臭くて、おまけに髪の毛の先がパンチパーマのように縮れていることに僕は気がついた。

彼の話を聞いて以来、非常時に持って逃げるリストに写真アルバムが加わった。
しかし、スコラやGOROや、河合奈保子や柏原芳恵が誰か知らない世代の人達が自分の周りに多くなる頃になると、僕は写真アルバムというものを持たなくなった。
僕の子供の頃、少年の頃、大学生の頃、そういった頃の写真はおそらく実家の押入れの中にあるはずだが、僕が自分で生活をはじめてからの写真、とくに子どもを持ってからの写真はほとんどいくつかのハードドライブの中に入っている。
僕のハードドライブの中の写真の数はたぶん何万枚にも及ぶだろう。
プレッシャーの中で、気合を込め、身を削って撮った写真もたくさんある。
でも、それらの何万枚もの写真の中でどうしても失いたくない写真といえば、それはやはり子供たちの成長を記録した写真、家族や友人たちが写っている写真じゃないかという気がする。

今回、東北大震災の模様を伝えるメディアの報道で、早い段階から瓦礫の中で泥をかぶった成人式の写真や七五三の写真などが報じられているのを目にした。
それを見るたび、ああ、あの泥の中にばらまかれた写真たちを救うことが出来ないのだろうか、と思っていた。
最近のニュースを見ると、そういう写真を集め、綺麗に洗い、願わくば持ち主のもとへ返す作業が進んでいると知って、僕は嬉しく思った。
もう何年も前から世の中はデジタル、デジタルと躍起になっているが、こういう時に生き残るのが薬局のワンアワーラボでプリントした一枚数十円の写真だったりするところを見ると、プリントの大切さを改めて考えさせられる。
暗室作業を経験したことがある人ならわかると思うが、印画紙というのは水に濡れても平気だ。というか、現像液、定着液、停止液を水でよく洗い落とし、プリントが完成するのだ。
ここ最近、僕の関心はカメラよりプリンターにあるのだが、どんなに性能が上がったインクジェットプリンタでプリントした作品も、水に濡ればアウトだ。
アーカイブという意味で、自分の大切な写真たちをプリントし、写真アルバムにしっかりと収める作業を早く進めなければならない。
30、40年後に僕が死んだ後、子供たちが僕のハードドライブを発見し、そこから懐かしいダディとのキャンプの写真を見つけるとは今のデジタルの進歩を考えると、ちょっと想像しがたい。

今年に入ってから地味に進めている「友だちでいてくれて、ありがとう」プロジェクト。
撮った写真は深く考えず、とにかくプリントする。
ちょっとしたフレーム(額)に写真を収めると、安いプリントの写真でも、グッと格が上がる。
そして、それらをプレゼントすると、かなり喜ばれる。
街の電気屋さんやスーパーでの6X4インチの一枚のプリント代は、安くて9セント、普通でも15セントくらい。
9セントなら10枚プリントしても90円くらいということだ。
冷静に考えると、これほど確実で安い写真の保存方法はないのでは?

皆さん、写真はやっぱりプリントです。













写真はやっぱりプリントだ_f0137354_1551582.jpg





















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by somashiona | 2011-04-12 15:54 | デジタル

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