スティングレイ







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無性に海で泳ぎたくなった。
午後6時、空には重いグレーの雲が広がり今にも雨が降り出しそうな気配だ。
空気はひんやりとし、少し肌寒い。
どうやら夏はもう、確実にタスマニアから去ってしまったようだ。
海で泳げるのも今年はこれが最後かもしれない。
6時半にいつもの海岸に着いたときは、少し小雨が降りはじめていた。
老夫婦らしきカップルが二人、タータンチェックのブランケットを砂浜に敷き、白と黄色のマグカップを手に灰色の海を眺めている。
海岸は思ったよりも風が強く、服を着ていても少し寒い。
風のせいであちこちで波が立つ海面を見ながら、こんな日に泳ぐなんてバカげている、という考えが一瞬頭を横切ったが、泳ぎたいという強い欲求がそれを打ち消した。
洋服を脱ぎ、ゴーグルを頭の上に引っ掛けてから波打ち際に立って背伸びをする。
打ち寄せる波に向かって歩き出し、海水の冷たさを確認しながら、中で少しずつ歩を進める。
水が膝の上にくる頃には体中に鳥肌が立つのが分かる。
大きな波が僕の前で砕ける前に、覚悟を決めて頭から水の中に飛び込む。
冷たい水に包まれたとたん、体中がピリピリと痺れ、こめかみが絞めつけられる。
少しでも早く体を温めようと、激しくキックを打ち、ストロークにも力を込める。
水中には一匹の魚もいず、海底の砂が右へ左へと流れ、透明度はかなり低い。
息継ぎの瞬間大きな波が僕に叩きつけると、塩辛い海水をしこたま飲み込んでしまうが、それでもがむしゃらに泳ぎ続ける。
10分ほど経つと、もう寒さは感じない。
それからはかなりゆっくりとしたストロークでクロールを、そして苦しくなってくると時々平泳ぎを、そんなことを繰り返す。
鉛色にうねる海面のあちこちで波が白い水しぶきを上げ、僕はまるで自分自身の身体が海洋を航海する一隻の船のような気持ちになり、波に翻弄される感覚を楽しむ。
あるところでは冷たい潮の流れを感じ、あるところではぬるま湯のような潮に包まれる。
あるところでは海藻なようなものがたくさん浮遊し、あるところでは海底の砂が砂嵐のように舞う。
曇ったゴーグルで時々海底の深さを確認する。
深さ約2~3メートルくらいの間隔を維持するよう心がけ泳ぐのだ。
最初の15分を過ぎたあたりから、まるで瞑想状態のように心が無になる。
この感覚、何ものにも例えられないくらい心地良く、気分が満たされる。
結局は、この感覚を味わいたくて泳ぐのかもしれない。
泳ぎ始めて約40分、いい加減に身体が冷えてきたな、と思った頃、海底の深さを確認しようと目を体の下にこらすのだが、何故か真っ暗だ。
一瞬、自分がとんでもなく深いところまで来てしまったのかと思ったが、周囲の海底の砂は何故か見える。
自分の真下だけが真っ暗なのだ。
いったいどういう事なのかと、泳ぐのを止めて、ポッカリと身体を浮かせたまま、曇ったゴーグル越しにもう一度よく自分の体の下を見ると、真っ黒で、巨大なスティングレイ(エイ)がゆっくりと僕の真下を泳いでいるではないか。
僕の身体がすっぽりと隠れてしまいそうなほどの大きさで、それはまるで敵国の空の上を秘密裏に飛ぶ不気味なスティルス戦闘機のようだった。
僕の身体は蛇に睨まれた蛙のように凍りついた。
まるでそこに僕などいないかのように振舞おうと、身体を大の字にしたまま水面に浮かび、息も完全に止めたまま、泡の一つも口から出ないよう集中した。
スティングレイはおとなしいといわれる海の生き物だが、オーストラリアのヒーロー、クロコダイルハンターのスティーブ・アーウィンはスティングレイの尾にあるジャックナイフのように鋭い針に心臓を刺され亡くなった。
真っ黒なスティングレイの細く長い尾の最後の部分が僕の眼下を通り過ぎるまで、たぶんものの数秒だったのだろうが、僕には5分以上に感じたし、その黒い尾が通りすぎても、僕はまだ、仮死状態を演じていた。
それからすぐに、砂浜に向かって全力で泳ぎ、服やバスタオルが入っているスポーツバッグまで走った。
雨はすでに本格的に振りはじめ、僕のスポーツバッグはぐっしょりと濡れていたし、老夫婦たちも、もう砂浜にはいなかった。
芯から冷え切った身体をバスタオルで包み、着替えもせずに、そのまま車に乗り込んだ。
家に帰るとすぐにバスタブに熱い湯を張り、その中に身体を沈めた。
凍りついた窓が温まり、だんだんと水滴が流れるように、僕の身体から寒さが徐々に抜けていく。
バスタブの湯の中で目をつぶりながら、ゆっくりと僕の身体の下を通りすぎていったあの黒くて大きいスティングレイのことを僕は何度も思った。
頭の中でゆっくりと動くあのスティングレイの映像を何度も繰り返し再生した。
あの時、恐怖で身体が凍りついたのに、バスタブから出る頃には、それがまるで僕の守護神だったかのように思えてきた。
いったい僕はどれくらいの間、あの冷たい海の中で、彼と一緒に泳いでいたのだろう。



































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by somashiona | 2012-03-06 21:28 |

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