公園を走る少女



住宅街の中の家の塀と家の塀の間に細い通路があった。
通路の塀にいい影が出ていたのでカメラを持って近づくと、入口に公園の名前が書いてあった。
高い木の板で出来た塀に両側から囲まれた通路は、公園へ通じる道というより、秘密の要塞へ通じるの通路と言うほうがしっくりとくる。
細い通路を脱出すると、太陽に輝く緑の芝生が眩しいだだっ広い空間に出た。
午後3時過ぎなのにこの空間には物音がほとんどない。
どこまでも続く緑色の芝生の中に黄色いブランコが2つ、細く曲がりくねった灰色のコンクリートの小道と、その小道の脇に大きく距離をあけて置かれている3つの茶色いベンチ、そしてその空間を取り囲んでいる灰色の木の塀。
まるで小学校の低学年の生徒がクレヨンで描いた絵のように、どこか現実味に欠ける。
どうしてこんなに天気が良くて、こんなに広い空間に、人っ子ひとりいないのだろう、と思いながらその場に立ちすくんでいると、僕の右手の遠くの方から白い服をきた人が走ってくるのが見えた。
女性だ。さらに近づくと走っている人が15歳前後の少女で、たぶんなにかのトレーニングとして真剣に走っているのが分かった。
広い空間をフルに使って、つまり、公園を囲む高い木の塀に沿って必死に走っている。
正面を向いた僕の左手、少女と反対側の遠く離れた壁の方に赤いカーデガンを着た女性が立っているのが見えた。
遠くからでもハッキリと、その女性が走る少女の姿を目で追い続けているのがわかった。
少女が僕の近くを通り過ぎるとき、逆光の影の中を走る彼女に向かってシャッターを切った。
彼女の姿が見えなくなってもシャッターを切り続けた。
少女が走り去った光のなかに、何故か彼女の気や汗や息遣いの余韻がまだ残っているようだった。
走っていた少女が赤いカーデガンの女性のそばを横切った瞬間、彼女は走るのをやめた。
赤いカーデガンの女性は少女にウォーターボトルのようなものを手渡し、何やら真剣に少女に話しかけている。
曲げた両膝の上に手をおいた少女も下から真っ直ぐ見上げるように赤いカーデガンの女性の顔を見て、数秒ごとに頷く。
最後に大きく頷くと、少女はボトルをカーデガンの女性に返し、また勢い良く走りだした。
公園を出ようと思い、僕は曲がりくねったコンクリートの道を前に進んだ。
赤いカーデガンの女性にどんどん近づく。
赤いカーデガンの女性は少女の学校の先輩でも、母親でもないようだ。
たぶん80歳前後の老女だった。
少女の走る姿から決して目を離さず、孫を見つめるおばあちゃんの目ではなく、なにかプロフェッショナルを感じる視線で少女を追いかけ続けている。

ロンドンオリンピック、僕は結局、どんな競技もちらりと一瞬テレビで観る機会もないまま終わってしまった。
別に避けていたわけではなく、ただ単にチャンスがなかっただけなのだが、この走る少女と赤いカーデガンの老婆を見かけた後、オリンピックのアスリートたちの真剣な姿を見逃してしまったことを何故だかとても後悔した。












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by somashiona | 2012-08-14 19:17 | デジタル

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