オーストラリアン・ナショナル・マウンテンバイク・シリーズ−1

2年ほど前からハマっていることがある。
マウンテンバイクだ。

当時働いていた職場を去って、再び写真の仕事をはじめたいという思いをボスに話すと、しばらくは間違いなく貧乏生活が続くだろう、と彼は心配してくれた。
「でもね、マナブ、ここホバートは自転車とご飯を食べさせてくれる友達さえいれば、なんとかっやっていけるところさ。実際、僕もそうやって何年か過ごしていたよ」
約一ヶ月後もその言葉がなぜか頭から離れず、職場の近くの自転車屋さんにブラッと立ち寄り、1台のマウンテンバイクに一目惚れした。

小学校以来自転車など乗ったことがなかった。
子どもの頃、自転車は足の延長であって、辛いとか、大変だなどという記憶は、僕にはまったくない。
でも、乗りはじめてすぐに1000ドル以上もするバイクを買ってしまったことを深く後悔した。
ホバートは坂だらけの街、加えて僕の住む場所はマウント・ネルソンという山の上だ。
どこへ行くにしてもこのくねくねの坂道を永遠と自転車で登るハメになる。
それでも泣く泣く続けると、1ヶ月もしないうちに身体は引き締まり、体重もみるみる落ちていった。
その頃、バイクで走るのは常に普通の道であって、山の中のトラックを走ったことはなかった。
そんなことは最初から考えていなかったし、マウンテンバイクのダウンヒルなどは頭のおかしい人間のお遊びだと思っていたからだ。
しかし、山を経験した後、考えがまったく変わった。
あの美しいタスマニアの自然の中を、汗だくになって駆け抜ける体験は、快楽とよんでもいいだろう。
(僕は快楽にひれ伏してしまう傾向がある)
しかし、快楽にはリスクがつきもの。
代償として腕、足はつねに擦り傷が絶えず、一度は頭を強打して、救急病院にも運ばれた。
このたぐいの話しをはじめるときりがないので今日はここで終わりにするが、マウンテンバイクのおかげで、このタスマニアをますます好きになっているのは事実だと思う。

今日お見せする写真はタスマニアのグレノーキーという場所で2006年11月に開催された「オーストラリアン・ナショナル・マウンテンバイク・シリーズ」の模様だ。
ローカルのライダーだけではなく、オーストラリアのトップライダーも顔を見せるチャンピオンシップだ。
そのレベルの高さには息をのむ。
この写真は今後何度かにわけてお見せしたい。

実はこのマウンテンバイク・シリーズを撮る前、オーストラリアのF1レーサー、マーク・ウェバーが主催する「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」というアドベンチャー・レースの取材で1週間にわたりタスマニア中を廻った。
取材自体は超ハードだったが、充実した時間を感動的な人たちとともに過ごすことが出来た。
しかし一方で、マウンテンバイクの躍動感溢れる絵が撮れなかったという個人的な課題が残った。
マーク・ウェバー・チャレンジには各国からのメディアが参加し、他の国のフォトグラファーたちと有意義な情報交換をしたが、強烈だったのはオフィシャルとして働いていたGettyimages(ゲッティイメージズ)のフォトグラファーだった。
ゲッティイメージズは今や世界でも最大級のフォトエージェンシーで、世界中にトップクオリティーの写真を供給している。
驚いたことにオーストラリアでのゲッティイメージズ・スタッフ・フォトグラファーは7人くらいしかいない、と彼はいう。
政治、芸能、スポーツなどとそれぞれの専門があるので、そういう意味では彼はオーストラリアのスポーツ・フォトグラファーとして、トップクラスの人物だろう。
サッカーワールドカップはもちろん、つねに世界中を撮影で廻っていると言っていた。
幸運なことに、1週間、僕は彼と二人で行動を共にし、マーク・ウェバー・チャレンジを追った。
この話しはいずれマーク・ウェバー・チャレンジの写真を紹介する際に詳しくするが、今ここで言っておきたいことは、彼の撮るための執念は半端なものではなかった、ということだけ伝えておきたい。それはもう、半端じゃない。
この時、彼から学んだ一番大切なことは、「安全な写真ばかり撮っていては、それがどんなにいい瞬間であったとしても、世界では通用しないさ」と言った彼の言葉だ。
"Manabu, take a risk!!"と彼はよく僕に言った。
仕事で写真を撮っている時、決定的な瞬間を1/8で流し撮りする、というようなリスクを負って写真を撮れ、ということだ。
これがどんなに恐ろしいことか、仕事で写真を撮っている人は痛いほど分かるはずだ。
失敗が許されないプロの世界で、それをやってのけるということは、凄まじいほどの技術的自信を持っているということに他ならない。

このマウンテンバイク・シリーズの撮影は、新たな撮影技術を身につけたいという思いでいっぱいだった。

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by somashiona | 2007-03-22 10:40

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