牧草地の一本の道で
辺り一面代わり映えのしない牧草地に囲まれた砂利道を、僕は一人、しばらく運転していた。
物思いにふけっていたので車を走らせた道の風景などまったく覚えていない。
ルームミラーに映る真っ赤な夕暮れの光を見て、僕は突然我にかえった。
車を止めて、外に出る。
断続的に聞いていた路面のノイズが急に途絶えたせいか、辺りの静けさが際立った。
砂利道から立ち上がる砂埃が、僕の周りにまとわりつく。
だが、夏の日の夕暮れの乾いた風が、すぐにそれらを僕の後ろに追いやった。
夏の乾燥した気候のため、すっかりラクダ色に染まった牧草地は不気味なほど静かだった。
すれ違う車は一台もなく、周りには民家の一軒も建っていない。
空を飛ぶ鳥もなく、牧草地なのに羊たちの鳴き声も、かすかな虫の音さえしない。
ここにあるリアリティは南半球にある小さな島の砂利道で、僕が一人、突っ立っている、ということだけだった。
どうしてこんな場所で生きているんだろう?
まるでこの世の果てじゃないか?
突然、僕の頭の中で訳の分からない問いが起こる。
南半球の、こんな田舎の、この風のように乾いた、この土地のように地味な声をいったい誰が聞くのだろう?
今僕が立つ、この空間のように空っぽな世界に向かって、僕は意味もなく叫んでいるんじゃないか?
足下から石を一つ拾い、牧草地に向かって思いっきり投げた。
耳を澄ましたが、石が地面に落ちる音さえ聞こえなかった。
そこには沈みゆく夕日に向かって走る一本の道が、ただただ静かに横たわっているだけだった。
今日のテキストと写真は中東のカタールに住むたけやん「遊牧民的人生」に捧げます。
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Hamilton, Tasmania
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by somashiona | 2007-05-19 00:04 | デジタル