僕の親友、ギャビー



僕の親友ギャビーを紹介したい。




30代半ば。
独身。
未婚。
イギリスとオーストラリア国籍をもつ。
幼少を香港で過ごすが、思春期からは南アフリカですくすくと成長する。
親元を離れ、単身ロシアに渡り、大学を主席で卒業した後、フリーランスのジャーナリストになった。
ロシア語、ドイツ語、スペイン語、フランス語を流暢にあやつり、ライター、フォトグラファーとして新聞、雑誌、広告を中心に活躍するだけではなく、最近ではテレビ番組の企画などもこなす才女だ。




以前紹介したフォトグラファーのピーターと同じく、彼女は僕の大切な親友の一人だ。
僕が彼女と出会ったのはかれこれ4年ほど前だ。
その頃、彼女は副業で英語の先生をしていて、僕は彼女の生徒の一人だった。
ここで愛が芽生えていたのなら先生と生徒のイケナイ関係になっていたはずだが、僕たちはそうならなかった。
学校の行事でピクニックに行ったとき、彼女が長年一緒に生活していたパートナーと別れたという話しになり、結婚生活が終わったばかりの僕と意気投合した。以来僕たちはお互いに、人に言い難い話しを何でも開けっぴろげに話せる貴重な存在になった。離婚後の精神的に苦しい時、彼女の存在は僕にとって実に大きなものだった。
一方、仕事の面でもタスマニアの新聞マーキュリーのために相原さんのストーリーを彼女と一緒に掲載したのを皮切りに、彼女は僕に数々の仕事のチャンスを与えてくれた。彼女は僕の写真の理解者だ。それだけでなく、時には僕の有能な秘書として僕の小学生のような英文を手直しし、雑誌社やクライアントに送ってくれる頼れる存在でもあるのだ。

彼女を見ているといつでも頭の中のハードディスクがヒューン、ヒューンと音を立て、ライトをピカピカと点灯させながら、めまぐるしく1度に100くらいのことを考えているのが手にとるように分かる。




だがそれよりも彼女にはかなわないと思い知らされるのは、彼女と一緒にエクササイズをする時だ。
彼女は走る女性だ。
寒い日も、雨の日も、疲れたときも、悲しいときも、生理痛のときだって、彼女は走る。
年に何度かマラソン大会に参加し、フルマラソンも数回こなす。
走っている時が一番素の自分になれる瞬間だと、彼女は言う。
腹式呼吸を繰り返し、身体に当たる風を感じ、頭の中が空っぽになったとき、彼女は一番自分らしくなれると言う。




彼女とブッシュウォーキングをすると僕は自分が情けなくなる。
彼女が汗ひとつかかず、幸せそうにタスマニアの自然について語っているとき、僕はいつだって真っ赤な顔で木にもたれかかり、ゼェ、ゼェと肩で息をしながら彼女の話を聞くハメになる。




日本に住んでいたとき、体力的に女性に打ちのめされた経験があまりないが、オーストラリアでは、本当に情けないが、毎回いろんな女性に打ちのめされる。
もちろん、たまたま体力のある人と一緒に運動しているだけかもしれないという考え方もあるが、僕はどう考えてもオーストラリアの女性の体力は日本人の平均を上回っている気がしてならない。








ギャビーのタフさと自分の情けなさを徹底的に思い知らされたのは、彼女と一泊のマウンテンバイクのツーリングに行った時だ。




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タスマニアン・トレールというタスマニアの北部デボンポートから南部ドーヴァーまでを一直線に走るコースがある。
一直線と言っても、すべて山の中だ。
距離は479.4km。

そのコースの最終地点ジーブストンからドーヴァーまでの片道27.4kmをマウンテンバイクで走ろうと彼女に誘われた。
「往復54.8km、途中で一泊キャンプをすればたいした距離じゃない、これならタフな彼女についていける」と僕は思ったが、これは大きな間違いだった。




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水、食料、キャンプ道具をマウンテンバイクに積み、山の中の永遠と続く坂を登り、川のようになった泥だらけのぬかるんだ道の中、重いバイクを押して進むのは、僕にはほとんど拷問だった。




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自分のペースで走って欲しいと彼女に言ったので、走るペースの早い彼女はある程度まで距離を稼ぐと僕が追いつくのを気長に待たなくてはいけない。
追いつくたびに僕の顔を心配そうに見て、僕の荷物を持ってあげると言うが、ジャパニーズサムライのプライドがそれを許さない。
僕はどんどん彼女に引き離された。
汗のため全身から湯気が上がり、体中の筋肉も「もう許してちょーだい!」と悲鳴をあげていた。
やっと追いつくと、彼女は地面に寝転び仮眠をとっていることもあった。
僕は彼女に追いつく度に待たせたことを謝ったが、「気にしないで。すごく楽しんでいるから」と彼女は終始笑顔だ。




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予定では折り返し地点に4時には着く予定だったが、僕のペースの遅さと、自分たちのいる位置を示すものがまったく無い山の中の道で、地図とサイクルコンピュータを頼りに進んでいく難しさの為、6時になってもまだ目的地にたどり着けなかった。
辺りは暗くなりはじめ、気温は急激に下がった。
さすがのギャビーにも疲労の色が顔に浮かんできている。
道に迷ったかもしれないと思いはじめた頃、やっと目的地に着いた。
すぐにテントを張り、焚き火の為の木を探したが、夜露で燃やせるものなど何もなかった。荷物をほどくのも億劫なほど疲れていたが、MSRというホワイトガソリンを使うストーブでおいしいカレーを作って食べた。テントの中、彼女はこのアドベンチャーがどんなに刺激的か興奮気味に話していたが、僕は寒さと疲労の為に寝袋の中で3、4回彼女の話しに相打ちをうった後、あっさりと眠りに落ちた。




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次の朝、テントは完全にぱりぱりと凍っていた。
霜で辺り一面真っ白な風景を彼女はうっとりと眺めていたが僕はカンガルーの子供のように寝袋から顔だけだし、そこから寒さの中に出る勇気をなかなか持てずに、できることなら2度寝をしたいと甘いことを考えていた。




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だが、いつまでもそうしてはいられない。
今日は帰る日だ。
早く出発しないと、途中で道に迷いでもしたら大変だ。
クモの巣のような山道、一度通った道も初めての道も、まったく同じに見える。




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バイクに跨がって僕はすぐに悟った。
マズい。
体中が筋肉痛だ。
しかもひどい頭痛に襲われ、坂道を10分も登っただけで足の筋肉がつってしまう。昨日の半分のスピードも出ない。
冗談抜きで気を失いそうだった。
キツいアスピリンを8錠飲んでもまったく効かないどころか、今度は吐き気に悩まされる。
帰り道を半分ほど過ぎた地点で僕は動けなくなった。
本当に動けなかった。
だが、動けないでは済まされない。
動かないと家に帰れないのだ。水も食料も一日分しかない。
ギャビーは僕の荷物を彼女のバイクに積みはじめた。
死ぬほど情けなかったが、僕もこれしか方法がないと思った。
彼女は「私はまったく平気、気にしないで」は笑ったが、ジャパニーズサムライのスピリットがタスマニアの地面の底に沈んでいくのを僕は感じた。
軽くなったバイクを走らせたとたん、僕は息を吹き返した。(彼女はさぞかし辛かったに違いない)
その後頭痛も和らぎ、数回吐いたが、体調は快復してきた。




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肉体的苦痛を通して神に近づこうとするインドの宗教徒のような自転車の旅だったが、美しい自然を多いに堪能できた。
こういうツーリングはマウンテンバイクならではの醍醐味だ。




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しかし、旅の終わりに伐採された直後の森に遭遇しショックを受けた。
それはまるで、激しい戦いが終わった後の戦場のようだった。
森の中で住む場所や行き場を失った動物や昆虫たちのすすり泣く声と仲間たちを焼き殺された木々の悲鳴が聞こえてきそうだった。
どうして人間は神様が創ってくれたものをいとも簡単に壊してしまうのだろうか?この美しい自然を破壊してお金を得ることにどれだけの価値があるというのだろうか?
僕には分からないことばかりだ。




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この苦行バイクの旅を終えた次の月も、また次の月もギャビーは僕を誘ってタスマニアン・トレールの違うルートを攻略しようと僕を誘ったが、僕はこの旅で痛めたふくらはぎの筋肉の痛みが6ヶ月間消えずに続いたので彼女の誘いを断り続けた。




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一度地底の奥底に沈んでしまったジャパニーズサムライ・スピリットを再び掘り起すのは容易じゃない。
二度と僕の荷物を女性に持ってもらわない為の肉体的自信が必要だ。
でも、再度挑戦する心積もりでいる。
それまでは、ギャビーには食後の散歩程度の運動で勘弁してもらうことにしよう。






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by somashiona | 2007-08-06 21:22 | 人・ストーリー

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