キャプテン・イアン、君なら大丈夫




友人からの電話に僕は少なからず動揺した。
キャプテン・イアンが病気になった。
長期のホリデーをとり、凍ったアラスカの水の上でカヤックしていたはずの彼。
いや実際していたのだが、そこで病気が発症した。
緊急手術のため大急ぎでホバートに帰り、翌日には手術台に乗った。
僕が彼に会ったのは手術3日後だった。
日本なら少なくても一ヶ月は病院のベッドの上だろう。
オーストラリアではよほど重体でない限り、ほとんどの手術のあと、家に返される。


僕は重たい気持ちを引きずって、彼の家のドアをノックした。
ドアが開いたとたん、満面の笑みを浮かべたつもりだが、成功したかどうかは分からない。
彼の顔は青白かった。

彼に心から同情したのは、他でもないこの僕が同じ病気を10年以上前に経験しているからだ。
彼がどんなに震え上がったか、痛いほどよく分かる。
誰にでも訪れる「死」というものを、はじめて自分のこととして考える記念すべき瞬間だ。
この瞬間から自分がこの世に存在する意味を真剣に考えるのだ。


彼は世界有数のオイルカンパニーの為に働いている。
海中を調査する船の船長だ。
大きな船の中では大勢の船員が彼を慕っているに違いない。
頼もしい船長のはずだが、僕は彼が密かに放つ孤独な匂いが好きなのだ。
海の男は孤独だ。
長い航海から帰ってきても、陸の上で日常的に付き合う人たちが少ないため、一握りの友人と連絡を取った後、今度は再び一人きりで世界のどこかへ旅立つ。
まったく流木のような男だ。





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さすがの彼もこの日は元気がなかった。
これから先の事を考えると不安という名の真っ黒で不気味な雲が心の中にどんどん広がってしまう。

彼のお姉さんがシドニーから看病に駆けつけていた。
なんと13年ぶりの再会だと言っていた。
1時間半ほど僕たちは話しをした。
散歩をしたい、とイアンが言ったので僕は驚いた。
まだ手術から日がたっていないのに、、、。
でもこういう時は病人の意見が何にもまして優先される。
はじめてタスマニアに来たお姉さんは寒い、寒いと何度も言って肩を揺すった。
本当に寒がっているのか、それとも久々に再会した弟とあまりにも接点がなく間が持たないからそう言っているのか、僕には分からなかった。





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外はフィルターをかけたようにどこもここもオレンジ色だった。
その中に突如現れた虹を見て、「イアン、君ならきっと大丈夫さ」と僕は何の根拠もなく彼に言った。
彼は何の反論もせず「そうだね」とただ静かに答えた。





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空はすぐに紫色からブルーグレーに変り、鎮痛剤が切れてきたイアンの傷口も痛み出した。





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僕たちは無言で来た道を引き返した。





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by somashiona | 2007-08-24 20:34 | 人・ストーリー

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