ルース、90歳の誕生日




突然こんな話しで恐縮だが、幸せってなんだろう?と僕はよく考える。

人を見ると「あなたは今幸せですか?」とか「あなたにとって幸せってなんですか?」と無性に尋ねたくなる。
とても漠然とした問いで、聞かれるほうも困ってしまうに違いない。
同世代の人に尋ねたのなら「だからさマナブ君、そんなの人それぞれなのよ、ねえ、やめようよ、そんな暗い話し」ということになるし、十代、二十代の女性に聞こうものなら「いやだぁ〜このオジさん、なんだかわけ分かんないこと言ってるぅ〜。気持ち悪ぅ〜」と逃げられるのがオチだろう。
それでも、通勤時間の満員電車の中で微かに車窓から見える外の景色を眺め、何かを思い出したようにクスッと笑うOLを見た時、ビジネスで成功を収め、唸るような大金を稼いでいるのにも関わらず顔の半分でしか笑えない人を見た時、目の前で愛する家族を惨殺され、難民としてスーダンからオーストラリアにたどり着き、数年後再び愛する人を見つけ結婚をするつもりだと幸せに満ちた目で僕に打ち明ける男の屈託のない微笑みを見た時、僕は人生を幸せに生きる鍵のようなものがこの世にはある気がしてならない。


こんな話しを素直にできる人たちがいる。
人生の大先輩、ご高齢の方々だ。
これは僕の勝手な分け方だが、僕にとってご高齢という言葉が示す年齢は70歳以上だ。60歳くらいでブッシュウォーキングをしている人に付いていけないことが僕にはよくあるが、70歳以上だとその確率はぐっと下がるからだ(まったく理論的でない考え方)。
20歳のとき、僕はもう完全な大人だと自覚していた。身の回りで起こっている事柄に対して白黒ハッキリとした意見を持っていたし、迷いながら生きている人を見ると、バカだよなぁと笑っていた。
倍の時間を生きた今、あの頃の自分は何も分かってはいず、誰よりもおバカさんだったとハッキリ分かる。
ということは、今の僕の倍の時間を生きている80歳の人には今の僕がどんなにおバカさんなのか、きっとハッキリと見えているだろう。
この人たちの話を聞かない手はない。

先月依頼されたファミリーポートレイトの中で誕生会での撮影があった。
90歳のおばあちゃん、ルースの誕生会だ。
子供たちとその家族、孫、ひ孫と30人近くが集まった。
ルースがこの世にいなかったら、この人たちも同様にここにはいないのだと思うと、なんだか不思議な気がした。
一族全員の集合写真、それぞれの家族写真、ルースと子供、ルースと孫、短い時間でリズム良く撮影しなければならない。
しかし、この日一番難しかったのは、ルースの単独の写真を撮ることだった。
彼女は写真を撮られるのを極端に嫌う人だったのだ。
セットアップしたグループ写真では笑顔を作ってくれるのだが、自然な状態のルースにレンズを向けると彼女はあからさまに不快感を表に出した。
昔ならそういう被写体ほど僕は燃え上がったものだが、最近は無理に撮ろうとはしたくない方向だ(それが仕事であっても)。自分の仕事を成功させる為に誕生日の主役を不快にさせてはいけない。いったん諦めてカメラをバックの中にしまい、手ぶらでルースとお話をすることに決めた。
お題はもちろん、「幸せに生きるコツを教えてください」だ。
カメラを持っていない僕を彼女は快く受け入れてくれた。
「人生を幸せに生きるコツ、、、そうねぇ、、、この歳になると確信を持って言えることが少しあるわ」としわくちゃな顔をもっとしわくちゃにさせ僕に言った。
色々と話しをしたが、まとめると3つのコツをルースは僕に教えてくれた。

1)欲しいものはすぐに手に入れない。
2)自分のことはさておき、人の為に生きる。
3)信仰を持つ。

僕は特に1)の欲しいものはすぐに手に入れない、に唸ってしまった。
欲しいものがあればそれを手に入れる為にコツコツと貯金をはじめる。ひょっとすると1年以上かかるかもしれない。その間に欲しいものの熱が下がり、もう欲しくなくなるかもしれない。その間に欲しいものと同じ種類のもっと性能がいいものが出るかもしれない。
こんな徳のある話を聞いているにもかかわらず、欲しいものをカメラに置き換えてあれや、これやと思いを巡らす自分が情けなかった。

ルースと楽しいおしゃべりをした後、僕はカメラに70−200mmf2.8のレンズを付けた。人を撮る時は28mm~85mmが僕の流儀だが、この日は望遠でルースに気づかれないよう彼女を撮ることに決めた。
人生の年輪がしっかりと出る写真を真っ正面から撮りたかったのだが、こうするほうがルースはハッピーだろう。

今月に入って僕にこの仕事を依頼してくれたルースの息子さんにルースの写真をブログで使ってもいいか聞いてくれないか、と頼んだ。
母親は絶対にイヤだと言うと思うが一応聞いてみる、と彼は僕に言った。
僕も90%以上の確率で断られるとダメもとで聞いてみたのだ。

彼から電話がかかってきて、ルースが快く承諾したことに、彼も、僕も驚いた。

Happy Birthday, Ruth!!
これからも元気で長生きしてくださいね。









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こちらの美しい御婦人がルースです




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子供、孫、ひ孫たちが集まってくれて、ご機嫌なルース




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でも、笑いすぎちゃうと目がなくなるルース




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かといって、笑いを堪えるのも楽じゃないルース




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熱弁するルース




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思い出そうとするルース




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横顔も素敵なルース




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やられたっ!と思った時のルース




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驚いた時のルース




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遠くからパチ、パチと写真を撮る僕を見つけ、呆れて笑ってしまったルース




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皆が彼女を祝福する




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誕生会も終わり、皆が帰る支度をしている時も、90歳の風船は嬉しそうに揺れていた










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by somashiona | 2007-11-05 19:21 | 仕事

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