完璧なる雲を求めて 最終回 ーーー 画家、フィリップ・ウルフハーゲン 







f0137354_1615138.jpg







ウルフハーゲンが作品を制作する工程を見ていると、彼の芸術をより一層理解できる。






f0137354_16165914.jpg







毎朝、必ずこのスタジオにやって来て仕事をする。
週6日、5時間が基本ルールだ。
仕事中、ヘンデル、ベートーベン、そしてブリテンなどクラッシクを中心にした彼のお気に入りの音楽がスタジオ内に流れる。






f0137354_16181319.jpg







パレットの上にはハンドグランドオイルに蜜ろうを混ぜた絵の具の固まりが散らばっている。この調合が彼の作品に独特なムードを与える。この日、パレットの上には雲のベースになる色の絵の具がたくさんの小さな山を作っていた。その山のひとつをナイフですくい、素早くブレンドする。絵の具がもつ独特のきめを引き出せるまで、その行為は続く。彼の作業は全てにおいて驚くほどのスピードだ。ナイフを使って絵の具にラインや立体感を付けていく様子はまるで宝石の原石を削っているかのようであり、湧き出る感情を叩き付けているかのようでもある。






f0137354_16202675.jpg







f0137354_16205022.jpg







彼は作品を生み出すためのスケッチとしてカメラを使う。
使い込まれたマミヤ6x7が三脚に取り付けられ、スタジオの脇に置いてあった。






f0137354_16244554.jpg







彼の絵がキャンバスに描かれるにいたるまで、様々な思考のスケッチが彼の頭の中で繰り広げられ、それが日記のようにスケッチブックの中に記憶される。
思考のプロセスが記された彼の美しいハンドライティングと水彩でさらりと描かれたスケッチ。それだけでもう完全なアートだ。写真家ピーター・ビアードの日記を僕は思い出していた。






f0137354_16232744.jpg







仕事を始める彼。その顔つきは見る見るうちに苦悩の形相に変わった。
絵の具を混ぜる音、キャンバスの上にナイフを走らせる音、そして彼の息づかいがスタジオ内に流れる優雅なクラッシック音楽をかき消すかのように僕の耳に響いた。






f0137354_1627362.jpg







「僕はセオリーに乗っ取った方法で絵を描かない。作品制作のプロセスの中から沸き上がるものに忠実に従う、これがある意味、僕の方法論かもしれない」






f0137354_16282669.jpg







このプロセスこそが、彼の芸術の要であり、地獄の時間だ。






f0137354_16295715.jpg







僕は無言でファインダーから見える彼の姿を追い、シャッターを切り続けた。
おそらくファインダー越しでなければ作業する彼を至近距離から直視できなかったであろう。
真剣勝負する人間の鋭い気がひしひしと伝わってくるのだ。






f0137354_1631474.jpg







「創造のプロセスは僕にとって、それはもう、苦悩以外の何ものでもない。表現したいものの核心を得るため、何ヶ月も失意の時を過ごすことがある。そして、それはまるで中世の錬金術や魔術のように、突然目にはハッキリと見えない形で舞い降りて、収まるべき場所へおさまる。それは静寂さと統合性を兼ね備えたもので、あたかもずうっと前からそこに存在していたかのようにやって来るんだ。そして僕がそれを感じ取ったとき、やっといい絵が描けるって確信するんだ」






f0137354_1632162.jpg







彼と二人で歩いているとき、僕はちょっとくだらないと思える質問を彼にした。
今回の仕事とは関係のない個人的な質問だ。

彼は優秀な作家であり、同時に小さな子を持つ父親でもある。
スタジオ以外では夫として、父親として全力を尽くす人だ。
彼の創作の世界と現実の家庭生活は対極にあるような気が僕にはしたのだ。
どうやってバランスをとるのだろう、、、?

「人類の共通の感情、自然が発する未来へのメッセージに思いを馳せた1時間後に、僕は子供のおむつを取り替えなくてはいけないんだよ。でもそういう日常の繰り返しがあってこそ、僕たちは人間の普遍性やこの大自然について考えられるようになると思うんだ」

そう言って彼はまた雲を見上げた。






f0137354_16351642.jpg







仕事を終え、ホバートへ向かう車の中。
撮影をした僕も、インタヴューをしたギャビーも無言だった。
彼の思想や情熱に打ちのめされたからだ。
この日の経験が何か違った形で活かされる日が、いつの日かギャビーや僕にもやってくるだろう。
追い続ける人から、僕はいつだって大きな勇気をもらうのだ。






おわり






帰りの様子は以前僕がブログでアップした「流れる雲を追いかけて」でどうぞ。









ranking banner画家もやっぱり大変なんだなぁ、と思った人はポチッと、うぅ〜ん、むむぅ〜、、、、(苦悩する音)。





一連のフィリップ・ウルフハーゲン氏の写真はアメリカ合衆国ワシントン州で行なわれる彼の個展のパンフレット用にベットギャラリー・ホバートの依頼で撮影したものです。

彼の作品に関する質問等はBETT Gallery HOBARTへお願いします。(もちろん英語で)

BETT Gallery HOBART
Email:dick@bettgallery.com.au
Web:www.bettgallery.com.au








このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-11-11 16:42

<< previous page << あっ、マミーの絵だっ! | 完璧なる雲を求めて#2 ーーー... >> next page >>