ヨハン、相原さんとご対面!




クレイドルマウンテン・ウィルダネス・ギャラリーのドアが開く時間が近づいていた。
久しぶりの山の中でヨハンはとても幸せそう。
きっと一日中山の中を歩き、木々の間から覗く青空を見上げ、苔むした木肌に触れ、鳥たちの鳴き声に耳をすませていたかっただろう。
しかし、この日の僕のスケジュールはタイトだった。
この後、相原さんにヨハンを紹介し、相原さんの写真を見てからヨハンをシェフィールドに連れて帰り、そこからホバートに帰らなければならない。
翌日は早朝から仕事だ。
ヨハンにもうギャラリーに行く時間だということを告げた後も彼は三脚の前からしばらく動かなかった。
突然耳が遠くなった訳じゃないことは分かっている。







ギャラリーに入るとヨハンはすぐにトイレを探す。
中に入ると用をたす訳ではなく、鏡の前でクシを使って丹念に髪型を整えはじめた。

「ヨハン、言っておくけど相原さんは男だよ」僕はニヤリとして言った。
「わかっとるよ。男だろうが女だろうが第一印象というものはとても大切なのだよ」とヨハン鏡に映る自分の顔を見つめながら言う。
「『陽のあたる場所』のモンゴメリー・クリフトみたいだから大丈夫だよ」
ヨハンはやっと鏡から視線を外し、僕の顔を見た。
「お、お、古い映画を知っとるな。あれはいい映画じゃったよ」
「だって、ジョニー・デップとか言っても分かんないでしょう?」
「なんだって?ジョニービーグッド?激しい音楽は好かんのじゃよ、、、」
「違うったら、、、」

そんな会話を終えて、僕たちはトイレを出た。








相原さんは満面の笑みで僕たちを迎えてくれた。
受付の女性を交えてしばしジョークを言いあった後、さっそく相原さんの写真を展示している場所へと僕たちは向かった。






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相原さんは作品について丁寧にヨハンに説明してくれている。
僕は少し距離を置いてその様子を見ていた。
相原さんはタスマニアの夏の日差しを120%浴びたようで、肌の色が日本人離れしていた。
相原さんで露出を合わせるとヨハンの顔が飛んでしまい、ヨハンで合わせると相原さんの顔には白い歯しか見えない。
ちなみに白い眼は笑うとなくなってしまうのだ。


僕は自分の大好きな友人を、まだ面識のない他の自分の大好きな友人に会わせる瞬間が好きだ。
そういう時はわざとその二人から少し距離を置く。
そしてその二人が会話を交わすのを見ていると、何か価値のあることを成し遂げたような妙な満足感に満たされるのだ。
僕がそれぞれの友人から受けた価値ある影響をこの二人も分かち合うかもしれないと考えると、縁結びの神様になったような気がする。
縁結びと言っても今回のケースは恋愛に発展することはないだろうが。






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僕の日本人の友人はもちろん、どんなオージーの友人を相原さんに引き合わせても、相原さんは飾らず、気さくに話しをしてくれる。
あの超人懐っこい笑顔で。






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ヨハンもやはり、いつものように控えめに、しかしジョークを飛ばすのを忘れず、相原さんに接している。






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ギャラリーを出る前に相原さんはヨハンを撮影したいといい、ヨハンは快くそれに応じていた。
相原さんが自然を前にシャッターを切るのは何度も見てきたが、人を撮る場面を見たことがなかったので、僕はとても興味深くその様子を眺めた。
カメラマンがよく言う「いいよぉ〜、その表情!」「最高だね、今のスマイル!」「前にもモデルやってたでしょ〜!」みたいな歯の浮く台詞は一言も言わず、いつものように会話を楽しむ延長で撮る。
カメラで顔を見えないが、その時は金剛力士にはなっていないようだった。
まあ、金剛力士モードで撮ったらモデルさんがチビッちゃうだろう。
僕は今まで3回くらいパンツを濡らした。







ウィルダネス・ギャラリーの別室で展示している他の写真家の作品をヨハンと二人で鑑賞している時、突然彼の叫び声が聞こえた。
「マ、マナブぅ〜、ヘ、ヘルプぅ〜!」






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驚いて振り返ると、ヨハンは一人で訳の分からないことをやっていた。
その様子を呆然と見ていた僕に、「ほれ、シャッターチャンスじゃろ。早く撮らんか!」と言った。
ちなみにヨハンの手をかじっている?のはまだ絶滅を信じない人が多いタスマニアンタイガー。
本物を見つけたら、一生遊んで暮らせる。
詳しいことは映画『タスマニア物語』を観ていただきたい。
若い薬師丸ひろ子に会える。








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相原さんと別れた後、ヨハンはスゴぶる機嫌が良かった。
そして5分走るたびに車を止めてくれ、といいシャッターを切りまくっていた。
まるでカーチェイスのある映画を見た後のツッパリ野郎の運転のように、K-1を観戦した後の攻撃的な中学生のように。
相原さんの写真を見て感化されたのだろう。
その気持ち、よく分かる。








ヨハンにサヨナラを言ってホバートに戻る車の中、僕の頭に、ヨハンの家で見た光景が浮かび続けていた。
ヨハンの食卓に小包から取り出したばかりのカレンダーが置いてあった。
今ドイツにいる娘さんから送られたものだ。
クリスマスプレゼントだったのかもしれない。
そのカレンダーには黄色いポストイットが張られ、娘さんの手書きでこう書いてあった。






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「これを見て思ったの。これって、お父さんが思い描く、この世の極楽じゃないかって。そう、もちろんここはあなたの生まれ故郷スイスよ!」








ヨハン、この世に極楽なんてあるのかな?
人間生きている間、それを夢見るだけで終わるのかな?
でも、小さな幸せはあるよね?
それは、生きている限り溢れているよね。





おわり








今回のヨハンおじいさんシリーズはひとまずおしまい。
我慢強く読んでくれた方、ありがとうね。
今度彼に会ったときは、また「ヨハンおじいさんの唄」をお送りします!


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by somashiona | 2008-02-09 20:23 | 人・ストーリー

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