青い壁に囲まれたサラのポートレイト




「ああ、ポートレイトが撮りたい」という強烈な思いにかられていた。
一対一で、真っすぐに、飾り気がなく、それでいてえぐりとるような。



僕の場合、この思いがいつも突然に沸々と沸き上がる。
被写体と自分だけのガチンコ。
一度この奇妙な快楽を味わうと、そのあと、何度も何度も身体がそれを欲する。
ある意味、性的欲求と似ているのかもしれない。



サラは僕が今実験的に作ろうとしているドキュメンタリーに出てくる登場人物の一人だ。
今まで複数の人たちの中の一人として彼女をとったことは何度かあるが、1対1で撮るのはこの日が初めてだった。
僕は彼女のことをまったく知らないし、彼女も僕のことを何も知らない。



教えられた住所に時間通りにつく。
彼女の住む家だ。
オーストラリア本土に住む母親の持ち家らしい。
この日、僕は2つのことをやりたかった。
1つは撮影で、2つめはインタヴュー。
このインタヴューは彼女の胸の中に仕舞い込んでいるものをどれだけ引き出せるか、ドキュメンタリーの方向性を決めていくものだけに、僕にはとても重要だった。
撮影が先か、それともインタヴューか?
インタヴューを先に行なえば話の中で彼女という人間の輪郭が見え、何を撮るべきかがはっきりする。
しかし、人間関係がまだ出来ていないうちに彼女のきわめて個人的な話を聞き出す自信が僕にはなかった。
ゆっくりと時間をかけて撮影をしながら人間関係を築いていくことに決めた。



僕は人物を撮影するときできるだけその人の情報を集める。
その人の人間性が出る写真を撮りたいからではない。
自分のイメージを固めるためだ。
僕はどんなに洞察力がいい人でも写真で被写体を語れるとは思っていない。
僕が出来ることはいつだって、僕がどう思ったかを表現する、という範疇を出ないのだ。
その点、写真は事実を写しているようで、実は写し手の都合のいい作り話だ。
どうせ作り話なら、僕は自分の心の世界を被写体を使ってとことん表現してみたいと考える。



サラと向き合った。
いつものようによく笑い、よく話す。
でも彼女の目は僕の目を真っすぐに捉えていない。
心に傷のある人は誰かを前にすると本来のその人以上に明るく振る舞おうとする傾向がある。
沈黙を怖がることがある。
彼女の笑顔の中に僕が見たい彼女はいなかった。
「サラ、今日僕は君のことを一所懸命撮るよ。僕に気を使わなくてもいいからね。ただ君らしくいてくれればそれでいいんだよ」
彼女は突然笑うのをやめた。
そして「私、本を読むのが好きなの」と言った。



その日、僕たちはお互いに秘密を打ち明けあうように、静かに淡々と撮影を続けた。
青い壁に囲まれて、撮られた写真たちだけが、その秘密を知っている。








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by somashiona | 2008-05-26 16:34 | 人・ストーリー

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