夜の写欲よ、さようなら



「もう君から貰ったよ」と言って僕はその場を立ち去った。
家に戻り、熱いシャワーを浴びた僕は、よく冷えたドライマティーニを、、、
と話を続けたかったのだが、そうならないのが僕。

ホテルのベランダが真っ赤な光に照らされているのが目に入った。
いつもそうなのだが仕事の撮影が終わった後、その興奮は簡単に引かない。
絶頂に達した写欲が「もっと、もっと」声を上げるのだ。
別にやらしい話をしているわけではない。

まるで夜光虫のように赤い光のもとへ、ぱたぱたと僕は飛んでいく。
何時間ぶりに触れた外の空気はひんやりと頬に気持ちよく、辺りには煙草の匂いが漂っていた。
ベランダでは複数の男女が煙草を吸っている。
うん、セクシーだ。
冬のロシア、赤の広場のようだ。行ったことはないが、、、。
僕は人々がそこで一服するように、ごく当たり前に目の前の男女に向かい数枚シャッターを切った。
すると、、、






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「ヘイッ!ユー!お前だよ、ユー!なに撮ってんだ!」と男A。
「えっ?ユーって、、、ミィ〜?ぼ、僕?」
「そうだよ、お前だよ、お前!はよ、こっちにこんかい!」
男の顔はスゴい剣幕で歪んでいた。
こういう時は逃げては行けない。
「ハロー、いい夜だね」と僕。
「ハローじゃねぇ〜よ、今俺たちを撮ったろ?え、撮ったろ!」
「うん、撮った、撮った、いい感じに撮れたよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇーよ!どうして俺たちを撮るんだ!」
彼らが放つ凄まじいアルコールの匂いで僕は少し具合が悪くなる。
まずい、、、酔っぱらいにからまれてるぞ、、、。
死んだふりしようか、、、いや、まて、落ち着け、落ち着け。
僕は赤い光に照らし出された彼らがどんなにセクシーだったか、枝葉を付けてオーバーアクションで説明した。
「おい、いいか、よく聞け!俺たちセレブリティーにもプライバシーってものがあるんじゃ!それをな、お前、、」
「えぇ〜、君たちってセレブだったの?じゃもっと撮らなくっちゃ!」と言って僕はさらにパチ、パチ。






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「キャ〜ッ、あんたなにすんのよ!よしなさいよ!よしなさいったら!」と女Bはわめき散らし、僕のカメラを両手で引っ張りはじめた。
「あんた、カメラよこしなさいよ!」とフラッシュを引っ張る女。
まずい、まずい、ホットシューが折れるぅ〜、カメラが壊れるぅ〜。


「あれっ、君って、もしかしたらブリトニー?プリトニー・スピアーズじゃない?」と苦し紛れに僕。


フラッシュを引っ張る手を止め、彼女はニヤリと微笑む。
「そうよ、わかる?ブリトニーよ。いつもパパラッチに追いかけられて、イライラしてんのよ。今の彼氏はパパラッチだけどさ」
「あのぉ〜、かなり髪伸びましたねぇ、ブリトニー」と言いながらその横の男に「あれぇ〜っ、君ってひょっとしてブラピー、出産準備で南フランスにいるんじゃ、、、」
すると男Cは満面の笑みで、「いいんだよ、そんなこと。それよりブリトニーとここにいたことはアンジーには内緒だよ」
「ねえ、あんたたち、なにそこでごちゃごちゃ言ってんのよ!セクシーな写真撮ってくれなくっちゃダメじゃない!さあ、セクシーに撮るのよ、セクシーよ!」






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撮った絵を彼らに見せ、ひとしきり盛り上がった後、僕は逃げるように赤のバルコニーから引き上げた。

あんなに熱く大きかった僕の写欲はもうすっかり小さく萎んでしまっている。
「ちぇ、まったく、、、」と舌打ちをし、僕は駐車場にとめている車に向かった。












注)どんなにひどい目にあっても、また無防備な人を撮るとこが失礼な行為であったとしても、信念があるのならレンズを向け続けましょう。
これは写真文化にとって大切なことです。






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by somashiona | 2008-07-16 23:32 | デジタル

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