敗者復活戦




負け戦の翌日、朝から僕は不機嫌だった。
前日のことがまだ胸の中でもやもやしていた。
何本かのメールを書かなくてはいけなかったが、不機嫌な時に書くメールは負のオーラが出てしまうもの、この日は必要最低限にとどめて、事務処理的仕事に没頭することにした。
夕方から親友のギャビーと夕食の約束をしいた。
こんな日は申し訳ないが親友たちが僕の憂さ晴らしの生け贄になる。
さんざん愚痴って胸のもやもやを晴らそうと、僕は勝手に決めていた。


夕方、彼女を迎えに彼女の家に行った。
彼女はマウントウェリントンの麓の見晴らしのいい場所に住んでいる。
この日はもの凄い強風だった。
レストランに行く時間まで彼女のリビングで話をしているとすっかり外は暗くなりはじめた。
空があまりにも異様な色をしていたのでベランダに出てもっと外の風景が見やすい位置に移動した。
僕は自分の目を疑った。
一瞬、ホバートの街が大火災に遭っているように見えたからだ。
昨日僕がまわった地域の日は消し止められたが、ブッシュファイアーが他の地域に飛び火したのだ。

オーストラリアで数あるブッシュファイアーの被害の中でも最悪だったのは1967年タスマニア、ホバート周辺2,642平方キロメートルを焼き付くし、62人の命を奪い、7千人以上の人たちが家を失った「ブラック・チューズデイ」だ。その当時の凄まじい話は本やドキュメンタリーで何度も見ている。
今まさに、あの惨事が再び起こるのか、、、身体に鳥肌が立った。
レストランの予約の時間が近づいているがこの光景を見た僕はあからさまに落ち着きがなくなっている。
昨日何が起こったかギャビーには既に話をしていたので、彼女も僕の気持ちを察しているようだ。
「マナブ、車に機材は積んでいるの?」
「うん、必要なものは全てある」
「じゃあ、予約はキャンセルね」
「悪いね、ギャビー。せっかくだから僕と一緒に来る?」

僕たちはすぐに車に乗り込み、タイヤを鳴らしてマウントウェリントンの頂上へと向かった。
昨日の敗因の大きな原因は目の前で繰り広げられる迫力のある消火活動を撮りたいという考えに固執しすぎたせいで全景を撮ろうとしなかったことだ。
今山の上から火災を見て僕はインパクと受けた。
今日はその印象をそのまま撮ろう。
一番見晴らしのいい場所はホバートの街を見下ろすマウントウェリントンの頂上に違いない。


「マナブ、普段からそういう運転している訳じゃないわよね?」
山の頂上へ向かって僕はラリードライバーのような運転をしていた。
頂上へ着き車のドアを開けた瞬間、な、なんと凄まじい強風に煽られ、70度くらいの角度にしか開かない車のドアが130度くらいまで開いてしまった。
車の中に入り込んだもの凄い勢いの風は渦を巻き、驚いてお互いの顔を見つめ合っているギャビーの髪の毛はブッシュファイアーの炎のように天井へ向かって逆立っていた。
ドアを直そうと思って車の外へ出た僕は、文字通り風に吹き飛ばされた。
立っていられないほどの強風、こんな経験初めてだ。
車のドアに身体を押し付け、力づくで押し戻したがドアはもうきちんと閉まらない。
車の中にあったロープをぐるぐる巻きにし、ドアが車から外れないよう応急処置をした。
車から三脚を出し、カメラに70-200mmf2.8のレンズを付けるのだが、三脚の上でカメラがブンブン動いているのが目に見えて分かる。
彼女と二人掛かりで三脚にしがみつき、連続で100枚くらい切った。
止まっている絵があることを神に祈るのみだ。


昨日仕事を依頼してくれたジ・エイジのデスクに電話をした。
「一日遅くなりましたが、今日は凄いのが撮れました」
胸の中のもやもやは、やっとどこかへ消えてくれた。






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注)このときのギャラはドアの修理代で消えました。






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by somashiona | 2008-09-24 00:24 | 仕事

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