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クイーンズバースディ #1



先日の月曜日はクイーンズバースディで祝日だった。
イギリスの植民地としてはじまり、今じゃいっぱしの大人になったオーストラリアだがいまだにマミーを思う気持ちは強いらしい。
いや、マルチカルチャーを謳う国だからよその国の女王様の誕生日も大きな心で祝ってあげるのだろう。
それならいっそのこと昭和天皇の誕生日であるみどりの日も祝日にしてしまえばグリーンな人たち(地球環境を気遣う人たち)この日に大喜びでいろんなイベントをするだろうし、ついでにタイの王様の誕生日も祝日にして、この日に黄色い服を着て外を歩くと赤い服を着た人に攻撃されるというゲームを楽しみのもおつかもしれない。

こんな皮肉を言うのには訳がある。
月曜日、僕はどうしても欲しい情報があってある機関のオフィスが入っているビルに出向いた。
アポイントなしでビルの前まで来てしまったがバックパックの中にはたくさん話ができる関係資料が詰まっているし、かならず誰かを捕まえて聞きたい情報を得るという闘志に燃えていた。
しかし、ビルのドアの内側には「Sorry we're CLOSED」という赤いプレートが少し傾いてぶら下がっていた。
道ゆくラッパー風の男性に「なんで閉まってるんだろ?」と聞くと「祝日っ!」というぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「何の日さ?」と言うと「クイーンズバースディに決まってんだろ!」と彼は不機嫌な顔で吐き捨てた。
それを聞いた僕は彼以上に不機嫌になり、昨夜自分のアイディアに盛り上がりすぎてカレンダーのことをまったく忘れていた自分を罵った。
冷静になって街の中を見渡すと確かにガランとしている。
日本では休みの日はどこも人でごった返すが、ここタスマニアは休みの日になると街はゴーストタウン化する。
バックパックの中にカメラが入っているのを思い出した。
よし、ひさびさにスナップショット散歩をしよう!










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(写真の見せ方に何の工夫も意図もありません。ただ撮った順番に並べているだけです。)














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by somashiona | 2009-06-11 21:07 | B&W Print

コーエン・ブラザーズ




どう言う訳かオーストラリアに移住して以来、大好きだった映画を楽しめなくなった。
どんなに前評判がいい映画でも観終わったあとに残る気持ちは「こんなのばっかりだよなぁ、、、」か「あ〜あ、なんだか時間の無駄だったなぁ、、、」で、最終的に落ち着く結論は「これに時間を費やすのなら本を読むべきだった」となる。
学生時代、映画館で見た映画の本数年間69本という記録を持ち(この数字にこだわりはない)、ハリウッドに3年以上住み毎日映画漬けだったにも関わらず、最近は観る映画、観る映画、シラケてばかりだ。


先日、テレビの下に積んであるDVDディスクを整理していたらタイトルの入っていないディスクを一枚発見した。
さっそくDVDプレーヤーに入れてみたが読み込めない。
パソコンに入れてみてもダメ。
まったく記憶にないディスクだったので何が入っているのか気になってしかたがなくなり、結局VLCメディアプレーヤーというソフトでこのディスクを開くことに成功した。
このソフト、使うのは初めて。
Macちゃんの画面を食い入るように見つめるとタイトルが浮かび上がってきた。
「NO COUNTRY FOR OLD MEN」そうコーエン・ブラザーズの映画だ。
そういえば、かなり前に知り合いからこのディスクを貰ったっけ、、、。
なんだ、アダルトじゃないんだ、、、と少しがっかりした気持ちを認めつつ、この映画を見るつもりなどなかったのに、数分で僕はこの映画に引きずり込まれた。
美しいシネマトグラフィーとコーエン・ブラザーズ映画特有の緊張感のせいだ。


彼らの映画はどれも好きだが、1番好きなのは?と聞かれたら、僕は「ファーゴ」をあげると思う。
雪の中の映像があんなに綺麗な映画は初めてだったし、あの何とも言えない間(ま)というか、静けさが醸し出す緊張感は他の映画じゃなかなか味わえない。
今回偶然に観た「NO COUNTRY FOR OLD MEN」、「ファーゴ」よりも良かったのでは?と個人的にとてもショックを受けている。
この映画を観終わった後、後悔など一つもなかった。
いや、そういえばあった。
とても大きな後悔があった。
このディスク、日本語字幕はもちろん英語のサブタイトルもついていない(理由は追求しないように)。
たぶん日本語字幕でこの映画を観た人はあまり気がついていないかもしれないけれど、この映画、役者さんたちが話す英語の訛りが半端じゃなくキツい。
映画の舞台がテキサス周辺みたいだからアメリカの南部訛りだろう。
特にトミーリージョーンズをはじめとするオールドメンたちが話す英語が見事に聞き取れない。
おじちゃんたちの会話が分からなければこの映画のタイトルが言っている「年寄りの住む場所なんかもうどこにもねーづら」の心が理解できない。
英語圏に住んでいて英語が理解できなかったときの精神的ダメージは大きい。
(このディスクをくれた100%オージーの彼もこの映画の英語は所々分からなかったようだ)
それにも関わらず、この映画が「ファーゴ」よりもいいかも、と思ったのだから、僕的にはかなりヒットなのだ。
この映画、いずれ日本語字幕でもう一度じっくり観てみたいものだ。






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注)2、3枚目は過去に一度ブログでアップしている写真です。この映画のイメージと相性がいいので再登場です。










ranking banner今頃その映画の話かい、古いって!田舎に住んでる人間はこれだから困る、と思った人はポチッとよろしく!







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by somashiona | 2008-10-22 10:31 | B&W Print

老人とダイアン・アーバス



ロスアンジェルスの学校で写真を学んでいた時、授業は35mmのカメラからはじまった。
学校指定のカメラはニコンのFM2だ。もちろんフィルムカメラ。
その後、6x6版や6x7版などのミディアムフォーマットカメラを学び、つぎに4x5版のラージフォーマットカメラの使い方を教えてもらった。
毎回の授業でアサイメント(宿題)がでる。
一度でも提出しなかったり、合格基準をクリアしなかったら即落第だ。
そのころの僕はミディアムフォーマットカメラもラージフォーマットカメラも持っていなかったので、毎日学校からカメラを借りていた。
それは他の生徒も同じだ。
みんな貧乏学生で、お金はフィルム代と暗室の薬品に消えるのだ。
学校が用意していたミディアムフォーマットのカメラがハッセルブラッドなどであるはずがなく、ヤシカ、ゼンザブロニカ、マミヤなどが生徒の貸し出し用カメラだった。
生徒たちはアサイメントを少しでも早く、コンディションのいいカメラで終わらせようするのでいいカメラはすぐに貸し出し中になり、多くの生徒が文句を言っていた。

僕がはじめてミディアムフォーマットで撮影したのはヤシカの6x6二眼レフだった。
以前、僕のブログで紹介したがこれがその写真だ。






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学校のアサイメントの為に撮ったのだが、二眼レフのこのカメラを手にした時、同じアパートメントの1階に住んでいたゲイの彼を(彼女を)被写体にすると決めていた。


大好きなダイアン・アーバスに捧げる写真を撮りたかったのだ。


そして、この写真を撮った翌日、僕はなんと、学校の貸し出し用カメラで6x6版のマミヤの二眼レフカメラを一台見つけた。
それは古く、重く、使いにくく、学生からは最も人気のないカメラだったのだが僕にはまったく問題なかった。
問題ないどころか、そのカメラは僕にとって特別な輝きを放っていたくらいだ。
それはそのカメラが僕の憧れの写真家、衝撃的を受けた写真家、伝説の写真家であるダイアン・アーバスが使っていたカメラだからだ。
彼女の作品は6x6の正方形に代表され、そのほとんどはマミヤの二眼レフカメラで撮ったと本で読んだことがあった。






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(ダイアン・アーバス写真集『An Aperture Monograph』の表紙より)







あまりにも有名な写真家なのでここで彼女の話はしないが(本当は語りたくてしかたがない)、ウィキペディア(Wikipedia) では彼女をこう説明している。
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ダイアン・アーバス(Diane Arbus, 1923年3月14日-1971年7月26日)とは、アメリカの写真家。ニューヨークに生まれ、ニューヨークに没する。
1940年代から、主としてファッション写真をこなし、夫とともに、「ヴォーグ」、「ハーパース・バザー」、「エスクァイア」などの雑誌で活躍。その後、フリークス(肉体的・精神的な障害者、肉体的・精神的に他者と著しく違いがある者、他者と著しく異なる嗜好を持つ者など)に惹かれ、次第に心のバランスを崩し、自殺。
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あれから長い月日が経ったが、どうして彼女があんな風にフリークスを撮れたのか、どうしてどの被写体も100%彼女に心を開いていたのか、The family of manという写真展で彼女の写真が展示された時、多くの人たちが彼女の写真につばを吐きかけたのか、最近やっと分かるような気がする。

彼女はモデルになってくれたフリークスたちが喜ぶような写真を撮ったわけでなく、かといって世間に対する見せ物としてフリークスたちを撮ったわけでもない。
美しい彼女とフリークスたちは見かけこそ違っていたが、本質的にまったく同じタイプの人間だったに違いない。
だから彼女は彼らの世界にすんなりと入り込み、彼らも同じ匂いを嗅ぎ付け彼女を受け入れたのだろう。

写真を学んでいた当時、学生たちはインパクトのある被写体を常に求めていた。
ホームレス(この言葉、今はダメだっけ?)ゲイ、レズビアン、ジャンキー、病気の人たち、ギャングなどは学生たちがターゲットにするお決まりの被写体だ。
そういう被写体がいけないと言う気はもちろんない。
だけど、ダイアン・アーバスは写真のインパクトを求めてフリークスたちを選んだわけではない。
彼女の写真が今見ても、何度見ても胸に突き刺さるのは、選んだ被写体たちが、実は彼女の心の拠り所だった、ということが真っすぐに僕に伝わってくるからだろう。
彼女はフリークスたちの姿を借りて、自分自身を撮っていたのだと思う。
自分探しというようなテーマは時を越え、世代や性別を越え、国を越える。
自分自身を隠さず100%出して来る作品の力は凄まじい。
最近、自分の写真を見ていてよく撮れていると思える写真はやはり自分との関係性のある写真なのだということに気がつく。
どんなに綺麗な女性を上手くまとめて撮っても、そこに自分との関係性がない写真はどこか虚しい。
だからといって、モデルになってくれた女性に深い関係を迫るわけにもいかない。
こういう写真を撮った後、はい、綺麗ですねぇ、、、の後の言葉が出てこない。


自分の心の底が何を求めているのか、それを見つめ続けるのは苦しいことだ。
多くの人がどこかある時点で自分の心の叫びに目を背け、そんなこと考えたってしかたないじゃない、はやく大人になんなきゃダメだよ、と言い聞かせ自分らしさを少しずつ捨てていく。
皆が気にしていること、世間で良いと言われていること、これなら大勢の人が頷くだろう、という方向へ徐々に、徐々に自分を向かわせ安心させる。
そして気がつくと何も感じられない人間になる。
いい機材を持っていても、写真の技術があっても、感じられなくなった心では感じるものを撮れるわけがない。


自分でも理由は分からないのだが、シェフィーフドに住むヨハンおじいさんと出会って以来、妙におじいさん、おばあさんに心弾かれる。
彼らと一緒にいると心安らぐ。
おじいさん、おばあさんの写真を撮りためているわけでは決してないのだが、自分の写真の中に頻繁に出て来る。
これは一度真剣に向き合うべき被写体なのではないかと最近思いはじめている。
身体の奥から自然と湧き出るという意味では女体を撮りたいというあの欲求に近いのだが、それでいてまったく別次元の心の欲求なのだ。
さて、それを撮ってどうするのか?
時間やお金をかける意味や価値があるのか?

そんなことは分からないに決まっている。












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ダイアン・アーバスの作品は http://photography-now.net/diane_arbus/portfolio1.html ここで見れます

彼女のプロフィールは http://www.artphoto-site.com/story77.html
こちらで






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by somashiona | 2008-10-10 23:27 | B&W Print

子供たちはたくましい



今日は子供たちと一緒の週末。
先週は彼らに会うことが出来なかっただけに、ダディのサービスは濃厚だ。
太陽が出ている限り自転車、テニスコート、山の中と身体を動かし、夜はソーマのリクエストで味噌汁、鳥の唐揚げレタス巻き、ご飯にふりかけ、そしてシオナのリクエストでローソクの灯火と日本昔話。
かなり盛りだくさんだ。
恋しさあまりにサービス旺盛になるのはいつも大人の方で、子供たちはそんなことさほど気にしていないように見える。
いや、気にしているが、そういう素振りを見せないだけかもしれない。
子供は繊細だが、ある意味タフだ。
子供は自分の置かれている環境を自分の意志で変えられない。
辛い状況でも文句一つ言わず毎日ニコニコしていられる彼らを見ると、その健気さに心を打たれる。

以前、老人が幸せに暮らす街はいい街に違いない、というようなことを書いたが、知らない街を訪ねたときそこに住む子供たちを観察すると、その街の状況がある程度読める。
どんな業種の親たちが多いか、街の経済状況はどうかなど。
リッチな街でも、プアーな村でも、子供たちは明るくたくましい。






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ロスアンゼルスに住んでいたとき、友人と二人でアメリカを旅した時に撮った写真だ。
もうかなり昔の話。
ニューメキシコに近い田舎の村でちょっとしたお祭りをしていた。
村の住人はプエルトリカン、メキシカンが占めていた。
村というよりも違法移民が人目につかない土地で作った共同体のような雰囲気がむんむんとしていた。
日本人などほとんど見たことがない彼らは僕たちに何か日本らしいもの見せてくれと頼んだ。
一緒にいた友人は昔空手をやっていたので、僕たちは空手の演武のようなものを彼らに見せた。
男たちや子供たちには大受けだったが、母親たちから子供に暴力的なものを見せないでくれと怒られた。






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ハリケーン、カトリーナで大変なことになってしまったニューオーリンズだが、この写真はそれよりかなり前のもの。
ニューオーリンズは本当に良質の音楽であふれている。
驚くのは子供たちがそこら中の通りで、信じられないほどレベルの高い演奏をしていることだ。
楽器の演奏はヤマハ音楽教室で覚えることも出来るが、彼らにとって音楽とは習うものでもなく、苦労して覚えるものでもなく、彼らの血であり、心臓の鼓動なのだとそのとき僕は思った。
こういう所から生まれた音楽は技術が上手いとかセンスがあるという人でも決して真似できない何かがある。
ブラジルの貧困層から生まれたサッカーのヒーローが見せるプレイと似ているかもしれない。






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僕は北海道出身だが、それでも札幌から遥か離れた土地に行くとカルチャーショックを受けることがある。
この写真は道東、根室近辺で撮ったもの。
写真をはじめてまだ間もない頃に撮ったと思う。
冬が近づく薄曇りの海岸に一軒の家が見えた。
そこで風になびく洗濯物がいい感じだったので近づくと、子供たちが洗濯物の陰で遊んでいた。
彼らが僕に見せた笑顔は札幌では見られないタイプのもので、なぜか今でも強烈に覚えている。
冷たい風が吹き付け僕はがたがた震えながらシャッターを切ったが、彼らの故郷の記憶に寒さという文字はないだろう。
彼らはもう成人で、家庭を持っているかもしれない。










*ひょっとして過去にアップしたことがある写真だろうか、、、と今ふと思った。
もしそうだとしても、飽きずに見てよ!






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by somashiona | 2008-04-20 09:05 | B&W Print

シングルマザー 最終回



あれや、これやと予想外の出来事に巻き込まれ、カメラを鞄の中から出す事もろくにできず、僕は彼女たちとこのホテルで長い時間を過ごした。
お騒がせの痴話喧嘩女性も、コールガールの彼女も部屋に戻り、やっと母と子の時間が再び訪れたが、このドキュメンタリーの主役であるシングルマザーはすでにもう疲労困憊。
僕が少年を撮っている間、彼女はベッドで眠りに落ちていた。


夜も9時を回り、お腹がすいた少年が無言でベッドに寝ている母親を揺すり起こす。
目を覚ました母親と子供はしばし抱き合い、母親は食事の準備をする。
この日一日、僕はほとんど飲まず、食わずだったが、空腹は感じなかった。
夕食を勧められても断ったくらいだ。
夕食を食べたあと、少年はすぐにソファーで眠りに落ちた。
母も子も、朝起きた時と同じ格好だ。


今このテキストを書きながら彼女と交わした会話を思い出そうとしているが、何も思い出せない。
あの時、僕はきっと、何も言えずにただただカメラを抱え、目の前で起こる出来事を見ていたのだと思う。
30代に入ったばかりの僕、まだ物事を見る目が成熟していなかったのだろう。
まあ、今もさほど変わりはないが。


この時の記憶で強烈に覚えているのは子供が寝たあと、一人で食事をとる彼女の姿がとてもきれいだったことだ。
たった一日だけしか彼女と時間を過ごしていないが、僕が感じたシングルマザーとしての彼女の人生が凝縮された瞬間に思えた。
この瞬間を撮ったとき、「やったぞ、僕はシングルマザーを撮った!」と心の中でつぶやき、安堵した。


仕事でも、個人的テーマを撮影する時でも、僕は呆れるほどシャッターを押し続ける。
一見、『下手な鉄砲数打ちゃあたる』的な撮影方法だが、僕なりにその終点はある。
与えられたテーマ、その撮影で自分が最も強く感じたこと、自分の狙い、そういったものが「撮れた!」と思えたら僕的には撮影を終えていいのだ。
その「撮れた!」の手応えがなく、時間切れで撮影が終わった時は、夜ベッドの中で眠りに落ちる直前まで考え込む。
時には夢にまで出てきてうなされる。
これは冗談ではない、マジな話しだ。

だが、実はこの時こそ、写真を学習している時間だと思っている。
あの時、自分は何を見るべきだったのか?
アプローチの仕方は正しかったのか?
あそこで躊躇せず撮っていれば良かったのではないか?

なぜか、写真の技術的な問題は浮かび上がらない。
僕の写真の技術はまだ未熟だが、やはり考えれば考えるほど、写真を撮るということは、そこでの戦いではないと思うのだ。



ベッドで子供と寝る準備をする彼女にお礼をいい、このホテルを僕は去った。



家に帰るとすぐに現像だ。
アサイメントの締め切りは翌日の午後、どう考えても寝る時間はない。
フィルムが乾くとすぐにコンタクトシート(ベタ焼き)を作り、神に祈りながらルーペで各コマをチェックする。
この瞬間、一番胃が痛む。
たしか使ったフィムルは4〜5本だったと思う。
プロとなった今では信じられないほど少ない本数だ。
今僕がこの出来事を撮るとしたら、同じ状況だったとしても、30〜40本は絶対撮ると思う。
第一、ホテルの写真がまったくないし、部屋の番号、彼らを語る食べ物、本、薬、手紙どころか、主役以外の人間たちの後ろ姿すら撮っていない。
現場に行っていない編集者の人たちはこれらの写真から記事を作らなければならない。
彼らのためにそのときの状況を判断できる写真を撮っておくのがプロの仕事だ。
もしこれが仕事だったとしたら、大失敗だ。



フォトジャーナリズムのクラスを受け持つミスタードイチャック先生はプリントのクオリティにかなり厳しい人だった。
というか、これはミスタードイチャック先生に限らず、この学校ではどんなに写真の中身が良くても、プリントのクオリティが悪ければ評価してくれない。
ファッションを除く日本の雑誌の世界ではモノクロプリントのクオリティを軽視する傾向があるが、アメリカではモノクロプリントのクオリティこそが、写真家のクオリティを語る、とミスタードイチャック先生は言っていた。



プリント作業をしながら、僕は何度も舌打ちをする。
この頃、フラッシュの使い方をまだ心得ていなかったせいで、日中シンクロした被写体に醜い影が出てしまい、プリントでごまかそうとしても、ごまかしきれないのだ。



一睡もできないまま、まだ半乾きのプリントを持ってフォトデパートメントに向かった。
締め切りの数分前にアサイメントは提出できたが、プレゼンテーションのためのシナリオがまったくないことに気がついた。


まあいいさ、ストーリーは頭の中にある。


このフォトジャーナリズムのクラスが始まった時、受講生は40人近くいたが、毎回のアサイメントをクリアーできず、結局クラス最後の日のプレゼンまで生き残った生徒は15人ほどだった。
アメリカの学校は入るのは簡単だが、出るのは難しい。
ここオーストラリアもそうだ。



僕が最後プレゼンテーターだった。
起こった出来事を、僕は身振り手振りを交え、下手な英語で夢中で話した。
話し終わった時、先生たち、生徒全員から拍手がわき起こった。
写真をやりはじめてから、はじめて多くの人に自分の写真を賞賛された瞬間だった。
今まで味わったことのない満足感を、この瞬間味わった。
ミスタードイチャック先生から話があるので彼のオフィスに来るように言われた。
フォトジャーナリズムのクラスの教材で僕の作品を使いたいので全てのプリントを寄贈してほしいということ、フォトジャーナリズムの方向で将来進みたいのならどんな雑誌社にでも推薦状を書くのでいつでも相談してほしいと言われた。
あいにくこの時、僕は写真家アーヴィング・ペンを目指していたのでフォトジャーナリズムの道に進み気はない、と丁重にお断りした。



しかし、この経験によって、あるテーマのもと、特定の人に的を絞って写真を撮ることの喜びを僕ははじめて知った。
カメラがあればどこにでも潜り込み、自分の知らない人生を垣間みることができるということをこの時知ったのだ。


カメラは未知の世界への招待状だ。


今回アップした写真は、今からもう10年以上前のものだ。
写真技術も被写体へのアプローチも知らない僕が撮った拙い写真。
写真を長く続けていると、自分の撮ったどの写真が自分を次のステージに誘ったのか分かる時が来る。
そういう自分の転機になるような写真はそうそう撮れるものではない。
今回の写真は未熟な僕を次のステージに運んでくれ、写真をより一層愛する機会を与えてくれた、僕にとっては忘れることができないお宝写真、という訳だ。











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by somashiona | 2008-03-23 10:37 | B&W Print

シングルマザー その2



部屋に入ると彼女と子供はまだベッドの中。
僕と一度目を会わせたが彼女は再び眠りに落ちてしまった。

最初に目を覚ましたのは彼女の子供。
大きなあくびをして、トイレに行って、さあこれから一日が始まる、と思ったら、彼はまたベッドに戻り、すやすやと寝息を立てる。
やっと目を覚ました彼女に向かって、僕は早朝に押し掛けたことを詫びたが、彼女は「朝早く起きられてよかったわ」と言って笑うだけだった。
軽い朝食をとりコーヒーを飲んだあと、彼女は昨夜使った食器を洗い、家を掃除するため掃除機かける。
その音で子供もやっとベッドから出てきた。



なんだかいい写真が撮れそうだ、と僕の重い心にやっと希望の光が射してきた。
しかし、そう思ったのもつかの間、ドン、ドン、ドン!誰かが激しくドアを 叩く音が聞こえた。
パジャマの上にローブを羽織った女性が泣きじゃくりながら部屋に入ってくる。
ドアの外からは男の怒鳴り声が聞こえる。


なんだかまずいことになってきたみたいだ、、、。


どうやらこの女性はこの部屋の真上に住む人らしく、早朝からボーイフレンドと大喧嘩をし、暴力を振るわれたらしい。
ドアの外の男の怒鳴り声は段々と大きくなり、眠りを妨げられた住民たちが怒りをぶちまける大騒動にエスカレートした。


警察が乗り込み、大家さんの命令でホテルの住民全員が一時野外に退去させられた。


僕は心の中でFワードを連発していた。
ジーザス!フ○ック!どうしてこんな時にこんなことがはじまっちゃう訳?
みんな、どうして僕の邪魔をするの?ファイナルアサイメントが、、、。
僕の心の叫びは誰の耳にも届かない。


この騒ぎが起きたとき、「すぐにカメラを鞄にしまい込むのよ!」ととても強い口調で僕を招いてくれたシングルマザーから言われた。
野外でホテルから出てくる住民たちを見ているとその訳がよくわかった。
ドラッグの売人、コールガール、全身入れ墨男、半分サイボーグのように体中に医療器具が巻き付けられている老人、どこからどう見ても気質じゃない人たちばかりだ。
人に居場所を知られたくないこの人たちが僕のカメラを発見したら大変な事になっていただろう。
というか、僕がそこにいることじたい、すでにかなり問題だった。



事態が治まり僕たちが部屋に戻れるまで、かなりの時間がかかった。
問題の暴力ボーイフレンドは警察にしょっぴかれ、泣き崩れる暴力を振るわれた女性を慰めることにさらに多くの時間が費やされた。
この作業にはコールガールと思われる若い女性も加わった。



この時点で、既にかなり長い時間をこのホテルで過ごしていたが、男の子の話し声をほとんど聞いていない事に僕は気がついた。
皆が落ち込めば、彼もその傍らでしょんぼりし、皆が笑えば彼も笑う。
まるで、このホテルの暗い廊下で太陽の光にさらされる彼だけが、ここに住む者の唯一の希望のように思えた。












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by somashiona | 2008-03-21 10:52 | B&W Print

シングルマザー その1



出された課題は『シングルマザー』だった。


母一人で子供育てるというイメージ以外は浮かばない。
3週間も前にこのテーマを与えられていたにも関わらず、まだ写すべき被写体を見つけていなかった。
というより意識的にやらなければいけない事リストから除外していたのだ。
気が重くなるような大切な事柄を先へ先へと引き延ばす、まったく悪い癖だ。
「世界ぐずぐずだらだら協会」名誉会員の称号は決して伊達じゃない。


締め切りまであと3日。
その年、僕がとっていた「フォトジャーナリズム」というクラスのファイナルアサイメントだった。
いわゆるクラスの卒業制作作品だ。
今まで出された課題は苦しみながらもなんとか無事提出し、高得点を維持してきたが、結局はこのファイナルアサイメントの善し悪しで全てが決まる。
モノクロフィルムを使用し、最低10枚の8x10のプリントを使い、ドキュメンタリーを作らなくてはいけない。
クラスの友人たちに連絡をすると、ほとんどの人たちがもうプリントを終えていた。
まずい、、、。



シングルマザーの知り合いは誰もいず、知り合いに電話をかけまくりシングルマザーを紹介してもらおうと思ったが、当てにしていたこの作戦は見事に空振りに終わった。
まずい、、、まずすぎる、、、。


パニック状態に陥っていた僕が考えついた作戦はあまりにも幼稚だった。
カメラとノートを抱えフラットを出た僕はハリウッド通りを1日中何往復もし、女性一人で子供を連れて歩いている人片っ端に「エクスキューズ ミー、あなたはシングルマザーですか?」と聞きまくった。
当時、ハリウッドはかなり怪しい人間がうごめく街だったが、客観的に考えると僕もその怪しい人種の一人だったのかもしれない。


声をかけた人たちは軽く50人を超えていた。
突拍子もない質問に笑う人もいれば、失礼な事を聞くな!と怒る人もいた。
その場で写真を撮る事に関しては多くの人の同意を得られたが、家の中に上がり込んで朝から晩まで写真を撮る事に関しては皆ノーといった。
当たり前だ。
ハリウッドで見知らぬ東洋人を家に入れるなんて正気の沙汰じゃない。


夕方ちかく、通りの片隅に僕は座り込んでいた。
足が棒になり、撫で肩の角度がさらに強まり、目もどんよりとしているのが自分でも分かる。
そんなとき、黒人の女性が男の子を連れて僕の目の前を通り過ぎた。
もう声をかける気力もなく、しばらく彼女たちの後ろ姿を見つめていたが、ハッと我に返り、この二人を追いかけた。


事情を説明し、とりあえずこの二人を撮り始めた。
もう、深追いしなくてもいいから、路上の二人を撮ってこのアサイメントを終わらせよう、と覚悟を決めていたのだが、周りは既に暗くなり始め、フラッシュを持ってこなかった僕はISO400のTri-xの感度を800にしても、シャッタースピードを1/30以下にしても撮影困難な状態に陥っていた。
泣きそうな顔をしている僕を見て彼女はこう言った。
「明日にすればいいじゃない?朝、家に来ればいいのよ」
彼女の周りにきらきらと光る無数のエンジェルが笑いながらひらひらと飛んでいるのが僕には見えた。(ような気がする)


翌朝の7時前 、教えられた住所に僕は立っていた。
ハリウッド通りのはずれに建つボロボロの安ホテルだった。
家じゃない、、、やられた、、、騙された、、、と正直僕は思った。
早朝にもかかわらずジャンキーがゲードの前で寝転んでいる。
ヤクの打ち過ぎでろれつの回らない英語でタバコをくれたらゲートを開けてやると彼は言った。
ヘビースモーカーだった僕は財布を家に忘れてもマールボロとジッポを忘れることはない。
ホテルに入ると、階段に数人の男が転がっている。
ひとり眼光の鋭い男が「何の用だ?」と僕に聞くので彼女の名前を言うと「その廊下の突き当たりだ」と言った。
やはり彼女はこのホテルに住んでいるのだ!
紙切れに書かれた部屋番号のドアをノックしてもしばらく返事がなかった。
心の底では一刻も早くこの怖いホテルから出たかったが、彼女と子供を撮らずして帰るわけにはいかない。
5分ほどたってもう一度ノックすると「誰なの、、、?」と言う声が返ってきた。
僕の名前を言うとしばらくの間をおいて「Come in!」と彼女が言った。








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by somashiona | 2008-03-20 15:18 | B&W Print

ストーミーボーイ




僕の友人であるオージーの女性の話しだ。

ある日、僕の友人のAさんは、、、(という呼び方をするとなんだかとても彼女が遠い人のように感じるので、とりあえずローラと呼ぼう)

もとい。
ローラは友人のキャシー(これも仮名)とコーヒーを飲んでいた。
この日のお題目は連休に何をするかだ。
二人は自然を心から愛するアウトドアウーマン。
自然の成り行きで、4泊5日のブッシュウォーキングへ行くことに話は決まった。
メンバーはローラとキャシー、そしてキャシーの恋人のジョン。
誰かもう一人いるといいのだが、、、。
このとき、ローラにはステディな関係の相手はいなかった。
ジョンの友人でブッシュウォーキングが大好きな男性がいるので彼を誘ってもいいか、とキャシーが提案し、そのもう一人、ティムが参加することになった。

出発の日、ローラは初めてティムにあった。
どんな男性が来るのだろうかと、ローラは少し期待に胸を膨らませていた。
がっちりとした大きな身体に無精髭、ハンサムとは言い難い、どちらかと言えば森のクマさんのようなティムの顔を見て、内心彼女はガッカリした。

キャシーとローラはトライアスロンやアドベンチャースポーツに参加するほどの体力の持ち主だ。
険しい山道であろうが、過酷な天候であろうが、そんじょそこらの男どもには負けない。
そんな彼女たちがティムの体力に驚いた。
ティムの身体能力は彼女たちのさらに上をいくのだ。
しかし、皆のおしゃべりにいつも笑顔で頷くだけで、積極的に自分から話さないティムの性格に若干のつまらなさもローラは感じていた。
この人はシャイなの?それとも楽しい話しができる教養にかけているの?
ローラにはティムがどういう人間なのか、なかなかつかめない。

タスマニアの国立公園内にはハットと呼ばれる山小屋がある。
トイレ、水道、電気、そういった設備は一切ない掘建て小屋のようなものだ。
予約の必要もない。
空いていれば誰でも泊まっていい。すでに先着の人たちがハッとの中にいても、まだスペースがあるのなら知らない人同士でそのハットに泊まる。もし中が満員であれば、マナーとして無理には泊まらず、周辺でテントを張る。
雨の多いタスマニアの山の中、疲れた身体でびしょ濡れのテントで寝るよりは、暖炉のあるハットに泊まるほうが数段快適なのだ。

彼らも夜はハットに宿泊した。
春さきとはいえ山の中は凍えるほど寒い。
バックパックに詰められる食料には限りがある。
簡素な夕食をとった後の彼らの楽しみは、朗読会だ。
暗いハットの中、暖炉の前に皆で輪になって座り、一冊の本を回し読みする。
夜は長い。寝袋にくるまり、片手にハチミツ入りの暖かい紅茶の入ったマグカップを持って、朗読する者の声に静かに耳を傾けるのだ。
皆の顔の片側は暖炉の炎の光りでオレンジ色に染まっている。

ローラはティムが朗読するたびに目を閉じた。
山道を歩いているときはあまりおしゃべりをしない彼の声。
その声は朗読しているその本の美しい内容に、これ以上ないほどマッチした、甘く、穏やかで、低いけれどどこまでもとおる澄んだ声だった。
その声を聞くと、ローラの頬はなぜか火照りはじめる。
朗読が始まってから数時間たち、ふと、ティムの声の調子の変化にローラは気がついた。
所々不自然な箇所でセンテンスが途切れる。
ローラは閉じていた目をそっと開き、薄暗いハットの中で暖炉の炎が反射するティムの瞳を注意深く覗き込んだ。
彼の目には涙が溢れていた。
この美しい本のストーリーの世界に、完全に入ってしまっているティムは、まるで彼の周りに誰もいないかのように本を読み、感動のあまり、声を震わせ、目に涙を浮かべていたのだ。
そんなティムを見ているうちにローラの瞳にも涙が溢れた。
タフな彼女は思った。
どうかしている、私。
きっとこの雰囲気がいけないのだ、と。

2日目の昼過ぎからキャシーの具合が悪くなりはじめた。
お腹がひどく痛み、吐き気が治まらない。
これ以上のブッシュウォーキングは無理と判断し、引き返すことに決めた。
しかし、ローラとティムはそのままこの素晴らしいウォーキングを続行すべきだ、とキャシーとジョンが強く主張したこともあって、二人はそのままブッシュウォーキングを続行した。

多くを語らないティムのことを前のように居心地悪くローラは感じなかった。
ローラの知らない草花のことを何気なくティムに尋ねると、彼は驚くほどの知識で全ての質問に答えてくれる。
まるで自分の家族の話しをするかのように、ティムは愛する自然について静かに語る。

翌日天候が急変した。
気温がぐっと下がり、激しい吹雪が吹き荒れた。
視界もほとんど遮られ、これ以上歩くのは危険だと判断し、その場で急いでテントを張り、体温の低下を防ぐ努力をした。

夜、荒れ狂う天候の中、オレンジ色の光を放つテントは激しい音をたて、揺れ続けた。
ありったけの衣服を身にまとい寝袋にくるまった二人はこのまま雪が何日も降り続けたらどうなるのだろうか、という話しをしたが、二人の顔は深刻な表情であるとは言い難かった。
彼と一緒であれば、不思議と怖いものは何もないようにローラには思えた。
二人はこの夜もテントの中で昨夜の本の続きを読んだ。
朗読するティムの声をローラは再び聞きたかったのだ。

翌朝、テントのジッパーを開けると辺り一面銀世界で空はどこまでも青かった。
二人は口から白い息を吐いて、おはよう、と言った。


その日以来、ローラとティムは毎年ここを訪れる。
しかし今はキャシーとジョン同伴ではない。
かといって、ローラとティムの二人だけでもない。
あの嵐の夜に身ごもった、ストーミーボーイも一緒なのだ。






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Hamilton, Tasmania




コメントの返事ができない状況が続きそうなので、少しの間だけコメント欄は閉じさせてもらいますね。いつもコメントしてくれている皆さんの声を聞けなくなるのは寂しいけど、余裕が出てきたらすぐに開きますから。その時はまた宜しくお願いします。




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by somashiona | 2007-10-19 17:31 | B&W Print

秋の夜長に、一提案




以前、僕と友人たち三人(男1人オージー、女2人オージー)でブッシュウォーキングに行ったときの事だ。
片道約3時間のドライブ。
車中、行きはわいわいと騒ぎながらあっという間に時間が過ぎるのだが、帰りは約5時間のブッシュウォーキングを終えた後ということもあり、皆黙りがちだった。
それでも、懐かしい歌イントロクイズ、感動した映画ベストテン、最悪の映画ワーストテン、などなど日本人でも車の中でやりそうな事をしながら時間が過ぎていった。
一人が「物語の作りっこをしよう!」と提案した。
誰かが適当に5分間ほど物語をでっち上げ、次の人がその物語を続ける。
自分の都合のいいように続けてもいいが、それまでの物語のトーンをぶち壊すような事をしてはいけないというのがルールだ。

車の中にいた友人たちは皆、大の読書家だったのでその提案に大賛成だった、、、僕を除いては。
僕の反対の理由は極めて単純、英語力の無さだ。
英語でメールの一つを出すのにも四苦八苦するのに、物語だなんて、ムリ、ムリ、と主張したが、簡単に却下された。
皆の優しい心遣いで、僕から物語をはじめてもいい、という事になった。


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気がつくと、男は大きな屋敷のドアの前に立っていた。
どれくらいここにいたのだろう、、、。
前後の記憶がまるで無い。

屋敷の周りを見渡すと伸び放題の雑草がクモの巣のように地面を覆いつくし、おそらく日が落ちた直後であろう青紫の空には枯れた木々シルエットが黒く浮かび上がっている。

彼の背丈の倍はあると思われるその木製のドアには手の込んだ彫刻が施されていたが、長い歳月の風化によって、年老いた女の化粧のように塗料がはがれ落ちていた。
目立たないが、よく見るとドアの端に、さびたスティールで縁取られた鍵穴がある。
なかば反射的に、男はチャコールグレーのスラックスのポケットに手を入れた。
金属製の冷たい感触が指先に当たった。
ポケットから取り出し、薄暗い空に向けてその金属片をかざしてみた。
「鍵、、、。」
男は自問するように呟いた。
と同時に鍵を取り出した手のひらが血で染まっている事に気がついた。


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次の語り手がこの話しの続きをはじめる。
それぞれの語り手の想像力が予想以上働いた。
血まみれの格闘シーン、手に汗握るカーチェイス、お待ちかね官能シーン、成熟した大人の粋な会話、、、。
この物語は1時間以上も続き、それはそれは面白いサイコスリラーを全員が楽しんだ。

なかでも一番楽しんでいたのは、最初にあれだけ嫌がっていた僕だったような気がする。
なんといってもハヤカワミステリーファンなので、この手の話しには目がないのだ。

日本ではこれから読書の秋。
深まりゆく秋の夜長、たまには友人たちとこんな遊びをするのも、面白いのではないか?






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Queenstown, Tasmania






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by somashiona | 2007-10-03 15:14 | B&W Print

タスマニアのゴルゴ13




午前9:30

K君(ホバート在住30代日本人男性)
「マナブさん、おはよぉ〜ス。あれ、あれ、なんだかあまり調子良さそうじゃないっすね。朝から背後霊が肩に乗っかってますよ!」


「なんだよそれ、朝からイヤな奴だなぁ。いやね、昨日は3時間しか睡眠時間がとれなかったんだよね。この歳になると睡眠不足はこたえるのよ」

K君
「じゃあ今日はさっさと家に帰って寝たほうがいいっスよ。どうせ午後から暇なんでしょ?」


「君ね、その、どうせ暇っていうのは何なの!?こう見えても僕はいつも忙しいんですよ!」

K君
「あれっ、なんかあるんスか?」


「今週末の撮影のロケハンをしておかないといけないんだよ」

K君
「え、何撮るんスか?」


「パーティの写真なんだよ。25人の集合写真、個別のグループ写真、あっそれとパーティの模様を伝えるスナップとかもね、、、」

K君
「それって雑誌や新聞の仕事と比べたら、簡単な仕事なんじゃないんすか?」


「君ね、簡単な写真なんてないのよ。特にね、今回のように人数が多いと楽しい雰囲気をキープしつつ、素早く皆を配置に付かせ、たくさんのパターンを撮るのがね、結構大変なんだ。それと、ただの集合写真にならないよう、何かアクセントを考えなきゃいけないし。厳しいのは午後1時半の野外での撮影だっていうこと。晴天だったらすごく汚い写真になっちゃうんだよ。眼鏡かけている人、帽子かぶっている人、影がね、嫌なんだよね。露出も絞っている状態だから、晴天の中で日中シンクロしても25人をカバーするのはちょっと無理だし、、、。25人が入る日陰があるといいのだけどなぁ。」

K君
「そういうのって現場についてから考えるんスか?」


「いや、いや、とんでもない。それが怖いからロケハンするのよ。写真はね、撮る前が大切なのよ」

K君
「なんだか仕事の準備をするゴルゴ13みたいでカッコいいじゃないっスか!ひょっとして体中に傷跡とかありません?」


「もちろんあるよ。なんてったって僕、ゴルゴだからねぇ。えぇ〜と、、、盲腸の手術のあとでしょ、それから椎間板ヘルニアの手術のあとでしょう、、、」

K君
「ちょっと、ちょっと、おっちゃん、おっちゃん(彼は関西人)、身体の弱いゴルゴだなんて聞いたことないっスよ!」


「まあさ、身体のことは許してよ。だけど僕は現場に髪の毛一本、指紋の一つも残さないほどの注意力でのぞむし、、、」

K君
「さあ、さあ、仕事しなくちゃ。じゃあね、マナブさん、また明日」


「あ、あれ?ねえ、まだ僕のゴルゴの話し終わってないんだけど、、、」





翌日

K君
「マナブさん、おはよっす!今日はなんだか顔がスッキリしてるじゃないですか!で、どうでした、昨日は?」


「え、どうって、、、何が?」

K君
「下見ですよ!ロケハン!行くって張り切ってたじゃないですか!」


「あっ、あれね。それがさ、昨日あの後ね、1時間だけ仮眠しようと思ったら、夜まで爆睡しちゃってさ、、、」

K君
「え、えぇ〜〜?下見、寝過ごしちゃったんですかぁ〜?げぇ〜っ、カッコ悪ぃ〜っ、寝坊して仕事すっぽかすゴルゴなんてあり得ないっスよぉ〜っ!」


「本番じゃなくって、下見なんだってば!」

K君
「同じですよ!カッコ悪いなぁ、まったく!だいたいアイスクリームが好きで、女の子を見るとすぐニコニコするゴルゴだなんて、怪しいと思ってたんだ、、、」




ぷるる〜、ぷるる〜。(僕の携帯電話の音)




「ヘロー。イェス、スピーキング。ああ、マイケル、元気?調子はどう?えっ、ロケハン? う、うぅ〜ん、、、いい場所だったよ、、、。えっ、ミーティング?今日の1時半?い、いや、一時半はちょっと都合悪いなぁ、、、うん、うん、ノーウォリーメイト、ロケハンはもう終わってるからさ、大丈夫、、、」

K君
「うわぁ〜、ゴルゴさん、うろたえてるよぉ。目が泳いでるゴルゴなんて見たことないよ、まったく、、、カッコ悪ぅ〜〜〜」








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Salamanca, Tasmania

(テキストと写真は無関係です。この人がタスマニアのゴルゴだと思わないでください)






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by somashiona | 2007-09-21 20:42 | B&W Print

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