<   2007年 07月 ( 21 )   > この月の画像一覧

デヴィッド・リンチ的タスマニアの風景



f0137354_1921487.jpg



Karanja, Tasmania




タスマニア島の大きさは北海道の約80%程度だ。
そこに約48万人の人々が住んでいる。
北の都ロンセストンに約9万人、南の都ホバートには約19万8千人だ。
当然のことだが、それ以外の土地は見事にスカスカだ。
場所によっては一時間車を走らせても、一度も対向車とすれ違わない。


世界遺産や国立公園に指定された地域に行けば素晴らしい景色にもちろん酔いしれることができるが、僕が好きなタスマニアの景色は、ここではどこにでもある、ありふれた、誰かが所有している牧草地なのだ。
ただでさえも車の少ない舗装道路から適当に未舗装の道に入り4、5分すれば必ず誰かの牧草地に突き当たる。
両脇を広々とした牧草地に囲まれ、砂埃を立てながら30分も走れば、そこはもう別世界だ。

特に真夏がいい。
乾燥のため見渡す限りラクダ色の丘。
青い空。
白い雲。
白い羊たち。

これはもう何度か書いていると思う。
僕がさらに好きな状況は、音のない世界だ。

家畜の一頭もいず、風の音もなく、虫の音もしない。
牧草地の丘が沙漠の砂丘のように続き、枯れた草やデッドツリー(立ち枯れた木)が凍りついたように微動だにしない。
そんな空間に一人佇んでいると、現実味がどんどん失せていく。
僕が現実の世界で息をしている証拠を求め、動きのあるものを懸命に探す。
遥か上空で流れる雲だけが、僕をしばし安心させる。

美しい光景だが、癒されるという類いのものではない。
どこか緊張を強いられ、気を許すと何かが僕の身に起こってしまう気さえする、そんな風景なのだ。
決して恐ろしいわけではないが、とにかく迫りくる何かを感じる。
どう言い表せばいいのか言葉に詰まるが、一番近いのはデヴィッド・リンチ監督(テレビドラマ、『ツインピークス』は日本でも人気があった)の映画の映像かもしれない。見たことがない人には申し訳ないが、知っている人は、ああ、あの感じね、と分かってくれると思う。
ただ、これはあくまでも個人的な意見だ。
タスマニアの牧草地を見てデヴィッド・リンチの映画を思い起こす人などほとんどいないだろう。


この限りなく「無」の状況に近い、デヴィッド・リンチ的タスマニアの、掃いて捨てるほどどこにでもある日常的な風景を、どうやって写真で表現すればいいのか、僕にはまだわからない。
何といっても相手は「無」だから。


f0137354_1965682.jpg


ranking banner気長に撮ってりゃそのうちわかるよ!と思ったあなた、ポチッとよろしく!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-30 19:16 | B&W Print

羊をめぐる冒険



f0137354_8101711.jpg



もうすでに、何度かそこに足を運んでいるが、早朝にお気に入りの丘を訪ねたのは、その日が初めてだった。
子供と会わない日曜の朝。
やりたいことは山ほどあるが、やはり写真を撮りたい。
吹きさらしの冷たい風の中、身を屈めてしばし歩くと、黄金の光が天から降り注いだ。
牧草地の柵に張り巡らされたワイヤーが朝露の滴を受けたクモの巣のようにキラキラと光り輝き、目の前に続く轍はこの丘の向こうへと僕を誘った。




f0137354_8104220.jpg



朝のもっとも美しい光りの幕に包まれながらも、何を撮るべきか定まらず、いつものように僕はおろおろしながらファインダーを覗いていた。
するとその中に、二つの未確認物体が横切った。
ライオンか?!
そんなわけない。
ここはタスマニアだ。
羊か牛か、そうじゃなければワラビーかポッサムにきまってる。




f0137354_811093.jpg



僕は未確認物体にフォーカスを合わせた。
彼らのレーダーも僕を察知したらしい。
耳がピンと張っている。
子羊だ。
食べるときなら、ラムと呼ぶ。




f0137354_8111948.jpg



僕を察知したのはこの子羊だけじゃないらしい。
お母さんも(理由はないがお父さんじゃないと思うし、ましては伯父さんじゃない)心配そうな顔で僕を見ている。




f0137354_8113978.jpg



お互いに安全だと確信できる充分な距離を置いて、僕たちはしばし見つめあった。
愛は生まれなかったが、強い好奇心が僕の心に沸き上がった。
風景写真を撮ることなど、もうすっかり忘れていた。




f0137354_8115688.jpg



そんな僕の気持ちに気づいたのか、丘の上に昇ったばかりの太陽に向かって、彼らは歩きはじめた。
あまりにも強い逆光のせいで、彼らを見失いそうになりながらも、僕は彼らの後を追った。




f0137354_8121579.jpg



かなり用心深く彼らの後を付けた。
気分は羊ストーカーだ。
ブレックファストの最中も僕の存在にまったく気づいていない。
ちなみに、この日の僕の朝食はパンケーキではなかった。




f0137354_8122974.jpg



「ねえ、ねえ、マミー、あそこで知らない人が僕たちのことを見てるよ!」




f0137354_8124626.jpg



ムシャ、ムシャ、「あっ、あれね、人間よ。ろくなもんじゃないから無視してなさい。私たちを柵から柵へと追い立てて、大きなトラックに詰め込む人間には注意が必要だけど、あの人、犬と一緒じゃないし、フランネルのチェックのシャツも着ていないでしょ?」




f0137354_813583.jpg



「マ、マミー!あの人さっきより、ずっと近づいてるよ!僕なんだか怖いよ!」




f0137354_8132612.jpg



ムシャ、ムシャ、「あらっ、ホントね、、、それにあの人、小さな黒い箱から私たちのことを覗いているわね、、、あれ、何かしら、、、」




f0137354_8134325.jpg



「ちょっとアンタ!いい加減にしなさいよ!ひさびさに親子水入らずで日曜日の朝食を楽しんでるのが、アンタには分かんないの!いつもいつも群れの中で生活するのだって、楽じゃないのよ!いろいろとね、面倒なことがあるのよ!」




f0137354_814863.jpg



「さあ、お前たち、ついてきなさい!どこか違うところに行きましょ!」




f0137354_8142834.jpg



いくつかの丘を越え、、、
ときに走り、そして時々立ち止まっては草をむしゃむしゃと食べ、、、




f0137354_8145278.jpg



この親子はかなりの距離を移動した。
羊ストーカーの僕は彼らの行き着く先が知りたくて、三脚を担ぎ、ひたすら彼らを追いかけた。




f0137354_8151487.jpg



向かった先には、羊の群れが彼らを待ち受けていた。




f0137354_8154014.jpg



群れの者たちの結束は僕の予想より遥か堅く、全員が怖い顔をして僕を睨みつけた。

皆さん、おじゃまして申し訳ありませんでした。
一礼して、僕は彼らに背を向けた。
羊の親子には悪いが、楽しい日曜の朝だった。









f0137354_9224844.jpg
ranking bannerオレ、最近、羊ネタが多いぜ!
見た目もきっと羊みたいでしょ、って思う人はポチッたのむよ!
オレのこと知っているあなた、笑っちゃダメだぜ!
あっ、今着ているクルーネックのセーター、ウールマーク付きだ、、、。
めぇ〜、めぇ〜。








このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner



by somashiona | 2007-07-29 09:42 | デジタル

どうして花が撮れないの?



f0137354_17515466.jpg





West Hobart, Tasmania








多くの人たちが花の写真を撮る。






これ、僕がもっとも苦手な被写体だ。
どうしてなのか分からない。

花を見てその美しさに感動することは、もちろんよくある。
そして、そのときカメラを持っていたのなら、その美しい花にレンズを向ける。
ファインダーの中で花を上に持ってきたり、下に下げたり、寄ってみたり、引いてみたりするのだが、ついさっき心に沸き上がった感動をどうしても捉えることができない。
人を撮るときはファインダーを覗くまでもなく、ほとんどの場合は何が欲しいのかを明確に認識してシャッターを切るが、花を前にするとそのフィーリングが舞い降りてこないのだ。
なぜだろう?


普通なら、欲しいものが手に入ったという確信を得るまで、しつこくシャッターを切るが、花を前にするとそれすらできない。
3〜4枚撮るとイマジネーションが尽きてしまう。
どう撮っても「だからなんなの?」という絵しかとれない。
どこかで見たことがあるような絵で、そこには自分らしさがまったく無い。
もう写真とは長い付き合いなので、構図が良かろうが、露出がバッチリだろうが、浅い被写界深度の中できわどいフォーカスが決まっていようが、そこに自分らしさを発見できなければ、「それで、どうしたの?」と自問して自爆してしまう。

は、花なんて、、、年寄りが撮ればいいんだ!
日本写真界の巨匠、秋山 庄太郎さんだって45歳くらいから花を撮りはじめたっていうし、、、。
(年齢的にはそう遠い将来のはなしではない、、、汗)
いや、でも、、、ちょっと待った、、、ロバート・メープルソープは若くして花写真の頂点「フラワーズ」を撮ったじゃないか!


僕の場合、被写体を見て何かしらの物語が浮かべば、それに付随してイメージも浮かぶ。
人を撮る場合はそういうイメージが瞬間的に浮かぶ。
風景の場合は、時々浮かぶ。
花になると、もう降参だ。


そんな僕でも、場違いな場所に健気に咲いている花や、どこにでもある雑草などには、なぜか少しだけ心惹かれる。

タスマニアの普通の人たちを見つめる視線で、身の回りに花はないかと探してみると、コンクリート裂け目から
「あんたもこうやって生きてみな!」と僕にガンをつけている小さな花たちを見つけた。








ranking bannerそう、そう、花って難しいのよね、っと思ったあなた、ポチッとよろしく!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-26 18:01 | デジタル

それって、常識?





f0137354_17284725.jpg







兄弟
「ねえ、ねえ、兄ちゃん。足をあげてオシッコするのって、男のワンコだけだって知ってた?」

「え?お前そんなことも知らなかったのかよ!それって常識だぜ!オスはみんなそうするんだ。犬だけじゃないんだぜ、馬もライオンも、キリンだってあの長い足をあげてしょんべんするんだぜっ!すっげぇ遠くまで飛ばすんだ!」

「うわぁ〜、スッゴイね兄ちゃん!たくさんのキリンが一度にオシッコしたら、きっとでっかい噴水みたいだね!」

「そうさ!それとな、お前はまだ知らないかもしれないけど、人間だって同じなんだぞ。大人になるとな、一人でトイレに入ったら男はみんな足を上げるんだ!学校や立ちションのときみたいに、人が見ている時はあげないけどさ!」

「ホントぉ〜!じゃあ兄ちゃんも一人のときは足あげてんの!?」

「もちろんさっ!そんなの常識だぜ!」






アルパカさんたち
「人間たち、面白いことをぬかしておるのぉ、、、。」










日本に一時帰国したとき、「え?それって常識だよ!」とか「まったく常識のない奴だ」または「常識じゃ考えられないよな」というたぐいのセリフをよく耳にした。
僕もそういうふうに言われたことがあった。


でも、よくよく話しを聞いてみると、上の写真の兄弟の会話とさほど変らない内容だったりする。(これは作り話だが、アルパカさんたちもそう思うって言ってた)




仕事などで多くの部下や指導をしなくてはいけない後輩を持った経験のある人は、自分の常識を決して彼らに期待してはいけないということを身にしみて分かっていると思うが、それでもついつい使ってしまう言葉が「常識」なのかもしれない。

もちろん日本とは状況が違うが、ここオーストラリアでは「そんなこと常識」や「常識の知らん奴だ」という言葉をほとんど耳にしない。
様々なバックグランドをもつ人間たちが寄り集まって生きる国。
常識など通用しないのが、常識だ。
だが、僕の印象では、ある意味で彼らは世界というものをとても常識的に捉えていると思う。
とくに様々な国の動きや立場をとても冷静に客観視している気がする。

タスマニアのテレビチャンネルは有料のケーブルテレビなどに加入していない限り、たったの4チャンネルしかない。
NHKのような国営チャンネルがひとつ、民放が残り3つだが、そのうちのひとつはSBSというテレビ局で基本的にはオーストラリアに住む外国人ためのチャンネルだ。
このSBSでは朝から晩まで常にどこかの国のニュースやドラマ、ドキュメンタリー、映画を放送している。
ニュースは字幕も吹き替えもないので何を言っているのかさっぱりと分からないのだが、朝5時に放送しているNHKのニュース番組のときは他の国の人たちもさっぱり分からないと思うので、これはお互い様だ。
オーストラリアに居ながらにして、毎日海外の今に触れている。



日本のように細かい説明をしなくても、常識的に?判断して人々が分かりあえる国は美しいと思う。
注文した商品が期日までに届かないたびに、声を荒げてクレームをつけるまでもない。
なんといっても、お客様は神様の国だ。
しかしお客様の意見が間違っていたらどうするのか?
それでも、はい、はい、とお客様の文句を聞くのが常識か?
常識とは目を閉じて、耳を塞ぐことではないと思う。
目をまんまるにして、耳をしっかりと立て、本当はどうなのか?ということを突き詰めないと常識と言って良いものなど生まれないのではないか?


遠い国から日本を見ていると、毎日のニュースから個人が発するブログにいたるまで、日本の常識に首をひねりたくなることが多いし、何か怖いものすら感じる。

日本が戦争をしてもいい国になる前に、戦争が何を残すのかという今までに何度も繰り返された常識を考える人がもっと増えることを祈りたい。



遠い異国から故郷を案ずる羊より。

写真はホバート・ショウ・デイ
Glenorchy, Tasmania



f0137354_17513956.jpg
ranking banner 次元のブログを見てるとね、なんだかこういう話しをしたくなるのよ!
私は常識人だけど、非常識なルパンもたまにはいいよと思ったあなた
ポチッとたのむよぉ〜!








このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-24 17:58 | ホバート・ショウ・デイ

群れない羊


結局、



一匹狼にはなれないのか、、、



と思うことが時々ある。





でも、



それならば、



僕はせめて



群れない羊でありたい。









f0137354_12564682.jpg







Hamilton, Tasmania






f0137354_1315686.jpg
おっと、誤解しちゃダメよ!
べつに感傷的になってるわけじゃないのよぉ〜ん!
ただ昨日、5時間以上羊を追いかけ回しながら、
そんなことを考えていただけさ!
不二子を追いかけ回す時は、
もっとエッチなこと考えてるでしょ、って思う人は
ポチッとしてね!


ranking banner ランキングに参加しています。応援のクリックをお願いします!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-23 13:13 | B&W Print

冬だ!山だ!ブッシュウォーキングだ!


今日は朝早く起きて風景写真を撮りにいった。
行った場所は、あの丘。
まだ暗いうちから歩きはじめたが、頭に黄色いヘッドランプを付けていなかったので(何の話しか分からない人は僕のブログ「相原さん-マウントフィールド・ナショナルパーク編」を読んでね)何度か地面の穴に足を取られた。
丘の上を5時間以上歩き回ったにもかかわらず、撮影の結果は惨敗だった。
原因はハッキリしている。
羊の親子を見つけてしまい、彼らを追いかけてしまったからだ。
風景や光りを忘れ、僕は忍び足で彼らに近づき、その度に逃げられた。
気がつくと、とんでもない距離を歩いてしまっていただけでなく、写真の女神がくれるあの朝の光りもすっかりどこかに行ってしまっていた。
何ということのない平凡な光りの中、僕は三脚を担いで、とぼとぼとだだっ広い丘を歩いていた。
冷え込む朝、丘の上に吹く風は、そりゃあ冷たい。
ちょっと油断すると手袋の中の指先の感覚が無くなるためピントリングと間違ってズームリングを回し、鼻水はナイアガラの滝状態だが滝壺に落下せず、風のせいで四方八方に飛び散る。
昨日、夏の日のキャンプについてこのブログで書いたことを思い出し、一人苦笑する。
そう、ここは今、正真正銘の真冬なのだ。
結果的に撮影は散々だったけれど、心は満ち足りていた。
同じ写真を撮る行為でも、被写体が人間の場合と風景の場合では随分と違う種類の満足感に包まれるものだ。
人を撮った後の満足感は、例えるなら前から好きだったあの子を初めてデートに誘い、食事をし、散歩をし、手をつないで、別れ際に軽く、かつ情熱的にキスをして、一人家に帰り、部屋の電気を付けてからソファーに沈み込み、自分のとった言動を頭の中でおさらいする時の、あの感覚に似ている。(長い説明だ)
だが、風景写真を撮った後の満足感は1000mを同じペースを保って泳ぐ時に400mを越えたくらいから包まれる、あの自分が水の中にいるのを忘れてしまっている感覚、泳いでいることすら忘れ、ただひたすら腕を回し、水を掻き、全ての音を他人事のように水の中で聞く、あの感覚に似ている。泳ぎ終わった後は少し放心状態で、雑念はどこかに行ってしまい、心地よい疲れと空腹を感じる。(説明になっていない?)(マラソンのランニングハイに似ていると言えばいいのか、、、?)

人を撮った後は撮影中のことを何度も思い出し、次の撮影ではああしよう、こうしよう、とあれこれ考えるが、風景の場合は撮影が終わった時点でもう振り返らない。考えるのは、さてこれから何を食べようか?こればかりだ。
不思議だ。

あれっ、また本題に入る前に、関係ないことで時間を使ってしまった。
この癖、直さないと!










以前このブログで子供たちとマウントウェリントンをブッシュウォーキングし、道に迷った話しをした。(ソーマとシオナVol.4 - 04/27/07)
あの後、恐れを知らぬ僕の子供たちはブッシュウォーキングをしたいと言い続け、僕は彼らの歩く距離を少しずつ伸ばしていった。
マウントウェリントンよりもさらに少しだけ難易度の高いマウントフィールド・ナショナルパークの頂上付近を歩こうと子供たちと約束した。
マウントフィールドはホバートから北へ車をゆっくり走らせて約1時間半。
1916年にタスマニアで初めて指定を受けた国立公園だ。
タスマニア最大スケールの滝であるラッセルフォール、マンファーンと呼ばれる古代のシダの森、そしてスワンプガムと呼ばれる巨大なユーカリの木が見られることで人気がある。









f0137354_198755.jpg





どんよりとした肌寒い日だったが、マウントフィールドに近づくに従って雨が降りだし、頂上から一番近い駐車場の辺りでは、ほとんど土砂降りだった。
それでもせっかくここまで来たので少しだけ歩いてみようか、と子供たちに聞いてみると彼らはやる気満々。




f0137354_1992398.jpg





正直いって僕はあまり乗り気じゃなかったが、とりあえず僕のコンデジ、Fuji FinePix F11をポケットに入れて車の外に出た。
単純な男なので、写真を撮るという理由があれば、多少の困難は乗り越えられるのだ。




f0137354_1995144.jpg





この辺りは以前写真家相原さんの撮影で一緒に歩いたコースなので地理的なことは頭の中に入っていた。道に迷うことはないだろう。
でも、相原さんと来た時は辺り一面雪景色だったので、初めてのトラックを歩くとき同様、僕も子供たちと同じく興奮気味だった。
冷たい風が吹きつける高地に向かうにしたがって、高い樹木があまりなくなり、そのかわり色とりどりの高山植物が目を楽しませてくれる。




f0137354_19101091.jpg





f0137354_19103984.jpg





氷河湖であるドブソン湖のまわりは本当に美しい。
もう雨が降っていることなど僕も子供たちも忘れている。




f0137354_1915183.jpg





f0137354_1916117.jpg





f0137354_19174647.jpg





「ダディ!見て、見て!あの髪の毛の長い木、何?」
彼らの目がまんまるだ。絶対聞いて来ると思った。
「あれはね、パンダニツリーっていうんだよ」
「パンダ?」
「パンダベアーじゃなくて、パンダニツリー、名前は似てるけど、見た目はちがうだろ」
「なんだかモンスターみたい」





f0137354_19184551.jpg






彼らが一番気に入った場所はパンダニグローブというパンダニの森だ。
たしかにこの森を歩くとき、パンダニたちの視線を感じる。ここは彼らのシマであって僕たちはあくまで部外者だ。でかい顔をして歩いちゃいけない。
「お忙しいところごめんなさい。ちょっとお邪魔しますね。長居はしませんから」この気持ちが大切だ。
子供たちも「モンスターが僕たちのことを見ているよ」と何度も僕に言った。




f0137354_19195013.jpg





森の中では雨の存在が邪魔なところか何ともいえないスパイスになった。
神秘的なパンダニグローブをより幻想的世界に演出してくれた。




f0137354_19211559.jpg







子供たちの写真を写す時も「ダディ!パンダニツリーと一緒に撮って!」と知らぬ間にモンスターから友達に格上げされていた。




f0137354_19223688.jpg





f0137354_19225722.jpg






帰り道、ふと誰かに呼び止められた気がして後ろを振り向くと、一本のパンダニツリーが優しい顔をして僕たちを見送ってくれていた。




f0137354_19242058.jpg










その夜のベッドタイムストーリー。
むかし、むかし、あるところにソマソマとシオシオという兄妹が住んでいました。彼らのマミーが病気になってしまい困っていたある日、木の妖精が現れてソマソマとシオシオにいいました。森の一番大きくて年寄りのパンダニツリーに会いにいきなさい。その木の一番上の長い髪の毛の中にマミーの病気を治せるクスリがあります。それを聞いた二人はさっそくマミーに手紙を残して冒険の旅に出かけました。二人が向かった山はマウントフィールドという山で、、、。



ranking bannerパンダニツリーに「おじゃまします!」って言ってみたいあなた、ポチッとお願い!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-22 19:44 | ソーマとシオナ

夏だ!海だ!キャンプだ!



f0137354_202066.jpg





「夏だ!海だ!キャンプだ!」って言っても、こっちは真冬。
いつでも、いま自分にないものを求めるこの性格。
ゴハンと味噌汁が続くと、パンをスープを思い、寒い冬の空を見上げては真夏の太陽を思ってしまう。








f0137354_2034823.jpg





今日は子供たちが来ない週末。
久々に一人の時間だ。
最近生活環境が変わり、心身ともにヘロヘロな毎日が続いていただけに、ゆっくりと羽を休めるチャンスだ。
とはいえ、朝5時に一度起床し、撮影に行くべきかどうか判断するため外に出て少し歩いた。
霧を撮りたかったのだけど出ていなかったので、あっさりとヤメにした。
まあ、そんな日もあっていいだろう。
そのかわり料理に時間を費やし、おまけに昼食後ソファーで1時間半ほど居眠りまでしてしまった。
今週の平均睡眠時間は5時間を切っていたので、身体がよほど眠りを欲していたのだろう。
おっと、話がそれてしまった。








f0137354_2052660.jpg





f0137354_2054575.jpg









元妻と別れて子供たちが僕の家に毎週末泊まりにくることになった時、正直言って僕は緊張した。








f0137354_2072722.jpg





f0137354_2074640.jpg





オーストラリアの法律では離婚するとほとんどの場合、母親が子供の世話をし、最低でも2週間に一度父親は子供と一緒に過ごさなければならない。
これは親の義務であり、子供の権利だ。
またお金の面でも、離婚した妻が子供の世話をしている場合、父親は収入の何パーセントかを子供の養育費として離婚した妻に支払わなければいけない義務がある。離婚したから後のことは勝手にやってくれ、とは言えないのだ。もしお金を元妻に入れなければ、かわりに刑務所に入れられるかもしれない。
当たり前の話しだが、オーストラリアではたとえ両親が離婚しても子供たちには両親と会い続ける権利が保障されているのだ。そしてオーストラリアにいる子供たちの半分はこの状況で父親や母親と会っている。




僕と元妻の場合は法律に準拠する以上に、もっと自分たちや子供たちが幸せであるように、お互いに話し合いで子供たちに関することを決めるようにしている。
子供たちはほぼ毎週末僕のところに泊まりに来るし、彼女がもしもっと時間が必要な時は僕もできるだけ彼女に協力するようにしている。彼女も僕がどうしても受けたい仕事が週末に入ると事前に分かっている場合は快くその時間を僕にくれる。
でも、子供たちとすでに約束しているイベントが週末にある時は僕も、彼女も仕事より子供を優先する。仕事はこの先どうなるか分からないものだが、子供との付き合いは一生ものなので、時間をかけ、ひとつひとつの約束を守っていくことによって信頼を築きあげなければならない。








今はこの生活が当たり前になっているが、この環境がはじまろうとする時は緊張の連続だったのだ。




一番緊張したのは子供たちがはじめて母親の元を離れ、どこか違う場所に泊まるという経験をポジティブに受け止めてくれるかどうかということだった。
彼らがそれを気に入らなかったとしても、それはこれからずっと続くのだ。
僕のところに来る時間が彼らにとって待ち遠しい、大好きな時間にならなければ、その時間は彼らにとって苦痛以外の何ものでもない。




ベッドタイムストーリーのための絵本を買い込み、クレヨン、色鉛筆、画用紙、トランプ、子供向け映画のDVD、プーさん、シンデレラのカップを用意し、非常事態用のクスリを吟味した。
でも、僕が一番考えたのは、彼らの母親があまりやらなくて、僕が積極的にできることな何だろうということだった。




f0137354_20122898.jpg





f0137354_20124422.jpg





その筆頭にあがったアイディアはやはりキャンプだった。
オーストラリアに移住し、タスマニアにたどり着くまで僕たち家族は放浪の旅をしていたので、子供たちにとってキャンプは日常的なものだったに違いない。
でも、それは彼らにとってもうすでに遠い昔の話しであって、ジプシーのようなキャンプ生活の記憶は彼らにはない。




f0137354_2016244.jpg





f0137354_20174639.jpg





キャンプをしよう、という僕の提案に彼らは興奮した。
ある意味、これが僕と彼らにとっての初キャンプみたいなものだ。
夏がはじまったばかりの青空のもとでのキャンプだった。
もう3年前のことだ。
水道のないキャンプ場だったので水不足に苦しんだが、子供たちも僕も心から楽しんだ。
僕は彼らにとっていい父親になれるのではないか、このキャンプでそんな自信を少しだけつけることができた。
なんといっても、タスマニアのこの美しい自然が見方についてくれるのだから心強い。
今、彼らは毎週末僕に会うのを心待ちにしてくれている。




f0137354_20142129.jpg





日本のお父ちゃん、お母ちゃん!
この夏は子供を連れてキャンプに行こぉ〜!
「わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい」をスローガンに思い腰を上げよぉ〜!


子供いないあなた!
人ごとと思ってちゃダメ、ダメ!
恋人、友人との連絡を絶って、一人でキャンプにいこぉ〜!
カメラと本を一冊もって、一人でキャンプにいこぉ〜!
きっと忘れられない夏になるよ!




f0137354_20192588.jpg



Mayfield Bay Conservation Area, Tasmania






f0137354_2021293.jpg
ranking bannerそうだ!夏はキャンプだ!と思ったあなた、ポチッとお願いよぉ〜ん!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-21 20:54 | ソーマとシオナ

ヨハンおじいさんの唄-最終回



f0137354_18353357.jpg





「今日のディナーはわしが持つ。お前さんにはびた一文払わせんからな」
突然、ヨハンはあらたまって僕にそう言う。
「いいんだよ、ヨハン。僕がお世話になっているんだから、僕に御馳走させてよ」
「いいや、いかん!わしは前回お前さんに持ってもらった。今回はわしの番じゃ!」
目には絶対にゆずらないという決意が表れていたので、僕はヨハンの厚意に甘えることにした。
でも、本当は心が少し痛む。


酒、タバコはやらない。
沸かしたお湯は必ずポットに入れて、さめる前に何かに使う。
寒い冬も家の暖房は滅多に使わない。
ヨハンの家の中は朝から晩まで凍えるように寒く、話しをするたびに口から白い息が漏れる。
それでも、ヨハンにヒーターを使おうと言えない理由は、彼が電気代を節約しているのを知っているからだ。

ヨハンは国からの生活補助金で細々とやりくりしている。
彼の生活はストイックそのものだ。
「仕事が無いって文句を言ってる若者たちを見てごらん。彼らは片手にビールをのジョッキを持ち、口には煙草をくわえているじゃろ。分相応に生活し、その中で幸せを見いだすということを、奴らは知らないんじゃ」
ヨハンの生活を見ていると、今の生活に不満を抱く自分を戒めたくなる。

どれだけ苦労して貯めたお金なのかよく知っているだけに、この夜のピッツァの味は心に染みた。









f0137354_18372516.jpg





「ヨハン、今夜は何をしようか?またビーバーのドキュメンタリー番組やっていないかな?いつも夜はテレビを見ているの?どんな番組を見るの?」
ヨハンの顔が急に険しくなった。
「これはわしの個人的見解なんじゃが、テレビなんじゃよ。テレビが悪の根源なんじゃ。あの箱から垂れ流される醜い情報によって人々は変ってしまったんじゃよ。本当だ。わしは人々が変っていく様を見てきたんじゃ。若いもんたちを見てごらん。どれだけの時間をあのくだらん箱を眺め過ごしているか。彼らの言動のほとんどはあの箱から教わったもんじゃよ、親からじゃないんじゃ!」
まるで毎日繰り返し頭の中で言っているテレビへの怒りを僕にぶつけているようだった。
「じゃあ、テレビはほとんど見ないの?」
僕はなんだか楽しくなってきた。
「ドキュメンタリーとニュース番組以外は観ないな。でも映画は時々観とるよ。おっと、誤解してもらっちゃ困るが、わしが観ているのは最近の汚らわしい映画なんかじゃないよ。ちょっとだけ古いやつだ」
ヨハンの表情から険しさが消えていく。
「えっ、ヨハン、映画が好きなんだ。何が一番お気に入りなの?」
僕は興味津々だった。
「いいかね、この世で一番美しい映画は、ジョン・ウェインの西部劇なんだよ。知っとったかい?」
もうこの時点でヨハンはニコニコだ。
「え、本当?それは知らなかったよ!」
僕もニコニコ。この後、僕たちがどんなふうにこの夜を過ごすのかは、この時点ですでに見えていた。
「お前さん、ジョンの映画で何が一番好きかね?まあ、あまりにも多くの名作があるので一本に絞り込むのは難しいじゃろうが、、、」
「もちろん何本か観たことあるけれど、題名が思い浮かばないよ。特に英語ではね」
「自慢するわけじゃないが、彼の映画のコレクションをわしは持っとる。今夜はジョンの映画を一緒に見よう!」
はい、そう来ると思ってました。
「いいね、ヨハン!」
「映画を見る時は家の中を暗くせんとな、入り込めんじゃろ、あの美しい世界に!」

ジョン・ウェインを立て続けに2本観たが、僕には1本目と2本目の違いがよく分からなかった。でもそんなことはどうでもいい。ジョン・ウェインが馬に乗って悪党を撃ち落とすたびに、手を叩いて喜ぶヨハンを見ているほうが、僕にはよっぽど面白かった。









f0137354_18393915.jpg





ヨハンの家には数枚だけ人物写真が飾ってある。写真はどれも同じ人物だ。誰かの家に人物写真が飾ってあるとき、その写真の人物は間違いなくその人の人生で一番大切な人だ。
彼の部屋でヨハンを優しく見守る人物は、彼の娘さん。
奥さんとはとうの昔に離婚した。
野暮だと知っていながら、別れた理由を聞いてみた。
「わからんねぇ、、、まったく謎じゃよ。分かっているのは女っていうのは、まったくもって難しい生き物だっていうことだけじゃよ」
僕がヨハンなら、やはりそう答えるだろう。
最愛の一人娘はシドニーのテレビ局で忙しい毎日を過ごし、彼女と会うどころか、声を聞くのに電話をかけるのも、ヨハンはためらってしまうと言っていた。
そう話すヨハンは寂しそうだ。












f0137354_18403246.jpg





f0137354_18404896.jpg





f0137354_1841641.jpg





翌朝5時前に僕は起き、足音を忍ばせてヨハンの家を出た。
凍えそうなほど寒い、静かな朝だった。
この朝撮った一枚は以前僕のブログで紹介した「朝焼けに、馬一頭」だ。
あの写真は僕にとってはただの馬の写真ではなく、ヨハンとの思い出の写真なのだ。
この日、僕は朝の光りで目を覚ますシェフィールドの町を撮った。
毎日繰り返される朝の、ほんの一日を僕はここで過ごしただけなのかもしれないけれど、何か今までにない新しいことがはじまる予感を持たずにはいられない朝の光景だった。








f0137354_18442947.jpg





朝7時半にヨハンの家に戻ると、ガァ〜ラ、ガァ〜ラと何か不思議な音がキッチンのほうから聞こえてくる。
覗いてみると、ヨハンは年代物の自転車漕ぎマシーンに跨がり朝のエクササイズをしていた。
何かハミングしながら完全に自分の世界に入っている。
口ずさんでいるのはモーツァルト、セレナーデ第13番ト長調『アイネ・クライネ・ナハトムジク』だ。
これをi-podで聞いているのならさらに驚いたに違いないが、ちょっと大きめの古いソニーのウォークマンだったので、安心した。








f0137354_18454392.jpg





f0137354_1846973.jpg





エクササイズが終わると壁画フェスティバルの写真を撮るため、ヨハンは大きな脚立を担いで足早に会場へ向かった。
その顔はプロのフォトグラファーが仕事に行く時の顔と同じだった。










ヨハンとの出会いで僕の中の何かが変わった。
それが何なのか知りたくて今回この『ヨハンおじいさんの唄』を僕は書いてみた。
不幸なことに、どんな対象を撮影しても僕は自分との関係という枠から飛び出す考え方をできない。
本当は自分が体験したことを通して何か世の中に役立つメッセージを送りたいところだが、いつだって自分の抱える小さな問題と向き合うことに帰結する。


ヨハンは自分の世界をしっかりと持っている人だ。
彼の口からよく出る言葉は "It's not my cup of tea."
今どきの人はあまり使わない表現だけど「これは性に合わない」とか「これは僕の趣味じゃないね」と言う意味。
なんでも上手くやらないといけない、みたいに考えてきた僕にとってなんだか新鮮な言葉だった。
年齢ももちろんあるだろうけど、彼は自分という人間を良く知っている。
得意分野では自分の力を発揮するが、不得意分野では決して無理をしない。
割り切ってしまえば、これは人生をストレス無く生きるコツかもしれない。
でも、彼の今までの人生物語を聞くと、この好き嫌いをはっきりさせる性格が
多くの軋轢を生じさせてきたに違いないことも、察しがつく。
しかし、あのヨハンのワークショップの写真が写し出すように、全てのボックスに見出しがきっちり張られ、あらゆる工具が整然と美しいまでに並べられているのを見ると、「少なくても、自分の世界では妥協を許さない」という彼の強い意志が伺い知れる。


彼の言動の一つ一つが僕の琴線に触れたのは、目立たず、慎ましやかに、それでいて自分に厳しく生きる人間の寂しさを見たからかもしれないし、どこか似た者同士と感じてしまう彼に、自分の将来の姿を見た彼かもしれない。


手先の器用なヨハンは自宅の一室にスイス部屋を作った。
民芸品が飾ってあるあの板張りの「スイスの部屋」には生まれ故郷の村の絵が一枚、壁にかかっている。
淋しい夜はきっとこの絵の前で一人お茶を飲み、子供の頃の記憶の中を漂うに違いない。

人は最終的には生まれ故郷の土に帰りたいと思うのだろうか、、、。

僕の個人的なことかもしれないが、僕を含めた人生を上手く生きられない多くに人たちにとって、ヨハンのような名も無い老人たちの人生から、これからの人生を幸せに生きぬく多くのヒントが得られるのではないかという、ある種の見えない糸のようなものを、ヨハンと一緒の時間を過ごせたことによって、探り当てた気がした。




f0137354_18475917.jpg





(おわり)




f0137354_18494282.jpg


いやぁ〜、いやぁ〜、長い話だったねぇ〜。
こんな長い話、卒業論文以来だよぉ!
え?ルパンって大卒かって?
まあ、その、、、ヨーロッパにある大学でぇ、、、。
まあ、いいじゃん、そんなことは!
それよりみんな、ヨハンの話に付き合ってくれてありがとうね!
それと、コメントの返事こんなに遅くなってごめんよ!
「早い」って言われると情けなくなる事柄もあるけれど、これに関しちゃ「早い」ほうがいいよね!


ranking banner 人気ブログランキングじゃあ、不人気のオレだけど、ポチッとしてくれると励みになるのよぉ〜ん!チュ〜するみたいにポチッとね!ピ〜ポ〜、ピ〜ポ〜、いけねっ、銭形のとっつぁんだ!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-19 19:16 | 人・ストーリー

ヨハンおじいさんの唄-5



f0137354_19151166.jpg





このパワー溢れるおじいさんがクスリ漬けの生活を送っていると知って、僕はショックだった。
だが同時に、ヨハンを以前よりいっそう身近に感じた。

僕も身体が弱く、ありとあらゆるクスリのお世話になっている。
僕の心安らぐ場所はクスリ屋さんだ。
薬局に入り、色とりどりのクスリたちに囲まれると、僕は妙に落ち着く。
つい先ほどの自分よりも健康体になったような錯覚に陥り、必ず何かしらのクスリを買ってしまう。どこかに出かける時もカメラバックや洗面道具の中に少なくても3種類の強めのクスリを常備している。これをバックの中に入れ忘れただけで体調不良になる。かなり重症だ。
もし寝ている間、夢の中に神様が現れ、「お前はとても正しく、清らかに生きているから一つだけ願い事を叶えてやろう。どんなことでもいい。さあ、目をつぶって言ってごらん」と聞かれたら、僕は迷わずこう言うだろう「神様、僕に健康体を下さい。毎日、頭のてっぺんからつま先まで、どこも調子の悪い所がなく過せる身体を下さい!」
「世界に名を轟かす天才写真家にしてください!」は健康の次だ。
そして天才写真家の次もまた願い事を叶えてくれるチャンスがあるのなら、「モテモテ男になって世界中の美女とハーレムで生活させてください!」とお願いすることに決めている。


ヨハンが持っていた喘息用のスプレーと同じものが僕のポケットにも入っていたのでしばらくこの話題で盛り上がった。
喘息持ちはお互いの苦労を良く知っているので、国籍や年齢を超えて理解しあえるのだ。
病気持ちもたまには御利益がある。

「もう70歳を過ぎた。体中に故障があって当然なんじゃよ。いいかね、病気を敵にまわしちゃいかんよ。上手く付き合うんじゃ。相手をよく知って、時にはゆずるべき所はゆずるんじゃよ。そうすれば奴も優しくしてくれるんじゃ。お前さんにもそういう経験はあるじゃろうが?」

僕は自分の身体の問題を嫌っている。憎んでいると言ってもいい。
だけど最近は、この数々の健康上の問題が僕に思考や理解というものを与えてくれているのではないだろうか?と考えはじめている。苦痛や不快感の中で生きるということは注意深く行動することであり、慎重に判断することであり、そして調子のいい時はそのことに感謝することでもあるのだ。
僕は病気を抱えつつも明るく、前向きに生きる人にとても惹かれるし、病気に苦しむということを理解しない人との人間関係に限界を感じる。









朝食の後、ヨハンは僕と写真を撮りに行きたいのだが構わないか?と片方の肩にニコン、もう一方にカメラバックを持って僕に聞いた。やる気満々だ。
僕は風景よりもヨハンとの散歩を楽しみたかったし、何より彼を撮りたかったので喜んで彼についていった。




f0137354_19181068.jpg





写真を撮る時の彼はかなりシリアスだ。気軽に話しかけられない。これはもう、プロ、アマを問わず、真剣に写真と勝負する人から発せられるオーラなのでどうしようもない。そんな時は少し距離を置いて、その人の世界が一度幕を閉じるまで待つしかない。




f0137354_19191260.jpg






ヨハンはシェフィールドに住むローカルの人たちと何度も立ち話をし、その度に僕を紹介してくれた。
そして僕は挨拶代わりのポートレイトを撮った。
以前に僕のブログで紹介した「シェフィールドの男たち」がその時の写真だ。




f0137354_19205367.jpg





f0137354_1921169.jpg





f0137354_19213728.jpg





f0137354_19215884.jpg





この小さな田舎町に多くの国籍がひしめき合っている事実に僕は驚いた。
この人たちはこの町に来てからというもの、止まった時間の中で生きているような気がしてならない。




f0137354_19234019.jpg





f0137354_19241030.jpg





f0137354_19243617.jpg





彼らには信じるものがあるので、世の中がどう動いていようが知ったこっちゃない、という感じだ。
一種の宗教のようだ。群れないアーミッシュというところだろうか。
そして彼らをここに引き寄せ、彼らが愛し、信じるものは、他でもないこのマウントローランドなのだ。
本当に不思議な町だ。
この山が噴火でもしたら、この町の人たちは幻のように消えてなくなってしまう気さえする。









この日一日、僕はヨハンおじいさんをゆっくりと観察した。
ヨハンも僕に彼の生活のすべてを見せてくれた。




ワークショップで作業する彼。
木に触った瞬間に職人の顔に戻る。




f0137354_1926261.jpg





f0137354_19264483.jpg





彼の愛するクラッシック音楽のコレクションを僕に聞かせる彼。
彼が手書きで作ったデータベースには驚いた。
ステレオの音量を調節する彼の顔は指揮台でタクトを振る小澤 征爾さながらだった。




f0137354_19274354.jpg





f0137354_1928448.jpg





僕の思い入れが強くなっていくと、彼の履く靴や椅子までが僕には特別な物のように見えてくし、食事をしている時の彼は『最後の晩餐』のような神々ささえ感じた。




f0137354_1929850.jpg





f0137354_19292664.jpg





だが一度、「マナブ、お前さんはわしが小便をする時も写真を撮るんじゃな」と言われ、僕は我にかえった。




f0137354_19303145.jpg





(つづく)


ranking banner ランキングに参加しています。応援のクリックをお願いします!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-18 19:39 | 人・ストーリー

ヨハンおじいさんの唄-4



ヨハンおじいさんと出会ってから1年があっという間に過ぎ、再びシェフィールド壁画フェスティバルの季節がやって来た。

この年も僕はシェフィールドを撮りに行くと決めていたが、それ以上に今回はヨハンをきちんと撮りたいと思っていた。
ヨハンには事前に電話をし、フェスティバルの期間中に訪問する旨を伝えた。
彼はまるでクリスマスが近づいている時の子供のように僕を心待ちにしてくれた。今回はB&Bではなく、ヨハンの家に泊まる。

朝日が昇る時間にシェフィールドに到着したかった。
ホバートからシェフィールドまではよく晴れた日中のドライブでも時速100キロで車を走らせて5時間近くかかる。
深夜に出発すれば時間はさらにかかる。僕がフェラーリと呼んでいるスズキの小型車だとなおさらだ。
タスマニアの夜間の運転は街灯がない真っ暗な道を走るだけではなく、カンガルー、ワラビー、ポッサム、そういった夜行性のたぐいの動物たちがヘッドライトめがけて突っ込んでくるのでスピードを落とす必要がある。
彼らの命を助けようとハンドルを切ると、自分があの世に行く。
僕のフェラーリはCDプレーヤーどころかラジオすら壊れていて動かないので、5時間以上もヘッドライトにぼんやりと照らされる深夜番組が終わった後のテレビ画面のノイズのような路面をじっと見つめ続けなければならない。世の中の悲惨な出来事から女体の神秘まで様々なことを考える時間が山ほどある。もちろん、道中カフェもマクドナルドも開いているお店など一つもないので、スナック、コーヒー類は事前に車内に用意し、30分もたてば運転席はポテトチップスの残骸だらけになる。

日の出前にシェフィールドに到着したが、撮影場所を決めていなかったので真っ暗で何も見えない町周辺の道をただ闇雲に走り回る。
風景撮影に慣れていない僕はあっという間に過ぎ去ってしまう日の出と日没のあの美しい時間帯になると、きまって落ち着きなく無駄な動きをする。
いつも事前に撮影場所を決めていないので、一番光りが綺麗な時にどこを写すか絞り込めないのだ。
結局、いい場所を見つけた時はもうそこに欲しかった光りがない。
どうも釣りと風景写真は僕には向かないらしい。




f0137354_1935277.jpg





f0137354_19352486.jpg





f0137354_19354839.jpg





f0137354_1936780.jpg






思うような写真が撮れなかったが、それでも気持ちのいい朝の撮影を終え、僕はヨハンおじいさんの家に向かった。
午前7時30分、この時間に寝ているお年寄りはいないだろう、と何の根拠もなく思い込んでいた。









チャイムを鳴らしても誰も出てこない。
壁画フェスティバルの期間中に訪れるとはヨハンに言っていたが、この日に訪れるとは言っていなかった。いつだってワークショップか家にいるから連絡を入れる必要はない、と彼は言っていた。
何度かチャイムを鳴らしたが家は静まり返っているだけなのでもう一度後で出直そうとドアに背を向け、数歩あるき出したとき「おおぉ〜っ、すまん、すまん、マナブ、待たんかい!」と背後からヨハンの声がした。




f0137354_19373658.jpg





「ヨハン、おはよう!ひょっとして寝ていた?」
「いやぁ〜、それが、そのぉ〜、、、いつもはこの時間、起きているんじゃが、、、は、は、はっ!」
「ごめんね、起こしちゃったんだね」
「なぁあに、今起きようと思っていたところじゃよ。とにかく、中に入んなさい、入んなさい。コーヒーじゃ、朝食まだ食べとらんじゃろ?」
「そういえばお腹ぺこぺこだ!」
「わしはその前に朝の用事を済ますよ。おっ、いけない!いっ、急がねば、、、」
と言ってヨハンはお尻をおさえながらLADIES TOILETと書いてある厠へ向かった。
その姿があまりにも可愛らしかったので「ヨハン、朝の一仕事の前に朝の一枚だよっ!さあ、トイレの前に立って、立って!」とカメラを彼に向けた。
そして「あれっ、スイッチが入っていないや。あれ、あれ、コンパクトフラッシュがもう満杯だ!」とわざとゆっくりと立ち振る舞い、ねちねちと朝の攻撃を仕掛けた。
「はっ、早くせんかねっ!きっ、緊急事態なんだよ!エマージェンシーだ!」




f0137354_19375519.jpg





f0137354_1938161.jpg









家の中に入ると、ヨハンは僕のために朝食を用意してくれた。
「トースト、ウィートヴィックス、シリアル、オートミール、何がいいかね?」
「ヨハンと一緒でいいよ」
「わしはウィートヴィックスとシリアルをミックスして、それにお湯とスキムミルクを入れるのじゃが、それでよいかね?あっ、ハニーも入れてあげよう。朝は甘いものを身体が欲しがっているじゃろう」

朝一だったのでネスカフェを入れたお湯は沸かしたてだった。
ヨハンは幸せそうに簡素な朝食を食べている。
僕も幸せだった。




f0137354_1941861.jpg





ヨハンが食器を洗っている間キッチンの中を僕はまじまじと見た。
前回、ここを訪れたときはまったく気がつかなかったが、そこらじゅうに医者から処方されたクスリが置いてあった。




f0137354_194235.jpg





(つづく)


ranking banner ランキングに参加しています。応援のクリックをお願いします!







このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!
ranking banner

by somashiona | 2007-07-17 19:59 | 人・ストーリー

<< previous page | next page >>