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幸せでいられる確率




この日、僕は友人たちとサラマンカのギリシャレストランで食事をした。
クリスマス前の金曜の夜、誰も家の中でじっとしていられない。
どこのレストランも満席だった。
人気のギリシャレストランも人でごった返し、野外のテーブルしか空いていなかった。
料理は素晴らしいのだが夏だというのにとても寒い夜で、僕は震えで終始ガチガチと歯を鳴らし、会話の内容に集中できなかった。
ギターを抱えたスーパーマリオみたいな顔をしたおじさんが素晴らしい声で唄うどこか知らない国の民謡がなければ、たぶんそんなに長くは席に座っていられなかっただろう。
友人たちとの集まりは午後10時に解散した。
家に帰る前に暖かいものを一杯だけ飲みたいなと思っていると「ホットチョコレートとか飲みたい気分じゃない?」とコニーがいってきたので、僕は大賛成した。
午後10時、この時間にホバートでまだ営業しているカフェは極々限られる。
僕とコニーはノースホバートのケオスカフェへ向かうことにした。
カフェに入った途端、チョコレートの匂いのする暖かい空気に全身が包み込まれ、僕たちはお互いの顔を見てにんまりと微笑んだ。

甘いホッとチョコレートをすすりながら僕たちは近況を報告し合った。
彼女のことはもう3年以上も前から知っているが、二人だけで会ったことがないので、こうして差し向かえで話をすると、僕は彼女のことを実は何も知らないのだということに気がつく。
彼女は38歳、二人の子供がいる。
二人の子供はそれぞれ父親が違い、彼女は一度も結婚の経験がなく、しばらく特定の人との付き合いもないらしい。
僕の世代の独身の男女が語る話題はとても共感する内容であることが多い。
キャリアのこと、お金のこと、子供のこと、人間関係に関すること、どれも毎日の生活に重くのしかかるテーマだ。
そして特に男女関係に関することを話すとき、僕の世代のシングルが心の底にいつも抱えるある種の寂しさをお互いから感じ取るが、そのことをあえて言葉に出して確認しあうことはない。
人びとが愛を確認し合うクリスマスの時期はなおさらこのフィーリングに敏感になる。

「この前ね、私の娘が大切な話があるから聞いて欲しいっていうの」とコニー。

「妊娠でもしたの?君の娘さん、いくつだっけ?」と僕。

「エルザは17歳になったばかりよ。彼女はまだヴァージンなの」といってホットチョコレートに浮かぶマシュマロをスプーンですくう。

「そういうことって知ってるものなの?」僕もマシュマロを食べる。

「私たちは何でも話すのよ。私の性的体験も彼女に話して聞かせるから、ヴァージンでも知識だけはもう立派な熟女よ」と笑うコニー。

「ふ〜ん、僕は自分の子供にその手の話、出来ないと思うなぁ、、、。で、エルザの話って何だったの?」

「それがね、彼女決心したらしいの。バイセクシャルな女になるんだって」というコニーの表情は心配そうな顔でなく、かといって笑っているわけでもない。

「男を知らないうちから女ともするって決めちゃうんだ。でも、どうしてそういう考えになっちゃうの?」

「エルザ曰く、男と女の両方から愛し愛された方が、男だけのそれよりも幸せでいられる確率が高いから、だそうよ」

「そうか、確率の問題かぁ。でも、生理的に女も愛せると彼女は思っているの?」と素朴な疑問を抱く僕。

「それは絶対大丈夫だっていう自信があるみたい」

「ふ〜ん、そういうもんか、、、」マシュマロがもっと欲しいと思いつつ、この問題を考える。「君も女性の経験あるの?」と念のため聞いてみる。

「あるわよ。でも、私は最終的にはやっぱり男が好きだって分かった。あれがついていないと物足りないのよね」といってから、にやりと笑うコニー。

「ふ〜ん、そういうもんか、、、」マシュマロのことで頭が一杯な僕は上手く会話のキャッチボールが出来ない。
「で、エルザに何ていったの君は?」

「両方試してから好きな方を選びなさいっていったわ。もし両方好きだったら、そのままでいなさいともね。男が好きでも、女が好きでもどちらでもいいから、誰かを本気で愛して、本気で愛される人になりなさいっていったわ。それと、たくさん、たくさん幸せになりなさいっていった。何が自分を幸せにするのか、どんな状態なら幸せなのか、はっきりと分かる人になりなさいっていったわ」と語気を強めるコニー。
朝仕事に行く前に鏡に映る自分の顔を見て、夜寝る前、ベッドの中で枕を抱えて、コニーはいつもそんなことを自分に言い聞かせているのかもしれない。












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写真はシドニー、ゲイ&レズビアン・マルディグラ・パレード2008
今年のマルディグラパレードは今夜行われる。
さぞかし盛り上がることだろう。














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by somashiona | 2010-02-27 08:24 | 仕事

アスリート犬





昨年の真冬、子供たちとアプリコットを連れて散歩に出かけた。
ロアーサンディベイの海岸にある遊歩道は愛犬家たちのお気に入りの散歩コースらしく、5分も歩けばあらゆる種類の犬が見れる。
どのワン子ちゃんたちもお行儀がよく、すれ違う際には鼻をクンクンさせ相手の匂いを少し嗅ぎ「それでは良い一日を」と言ったか言わなかったか僕には分からないが飼い主がリードを引くとすぐに自分のポジションに戻り(飼い主の左側)再び散歩を続ける。
まだ若いアプリコットにはそれが出来ず、ワンちゃんたちとすれ違うたびに大喜びで飛びつこうとし、そのたびにソーマに叱られる。








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この日、気温はかなり低く、普段は穏やかな海も波がしぶきを上げ、掻き揚げる砂のせいで空同様、海の色も曇っていた。
そんな寒さや波のしぶきなどものともせず、もの凄いスピードで走り回る黒ぶちの犬が一頭いた。
(すんません、犬の種類分かりません)
その身のこなし、体についた美しい筋肉たるや、アスリート系の犬としか言いようがない。
その一挙一動を僕たち親子はただただ惚れ惚れして眺めていた。








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惚れ惚れしてみていたのは僕や子供たちだけではなかった。








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ワンちゃんを見るとすぐに追いかけたがるアプリコットもこれは自分とは遥かに次元の違う世界だと悟ったようで、ただただじぃ〜っとこのアスリート系の犬を眺めていた。
まるで「わたしにもこんなふうに海岸を走り回れる日が来るのかしら、、、」とでも言いたげに。








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そしておもむろに天を仰いだかと思うと、悲しげに海を背にしたので子供たちはあわてて「大丈夫だよ、大きくなったらアプリコットだってあんなふうに走れるよ」と慰めていた。
シオナは慰めプリンセスだ。
ダディも時々慰めてもらう。








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波が打ち寄せる遊歩道の端に目をやると、一頭の犬と飼い主が見つめ合っていた。
ワンちゃんの目、何かを待つ目だ。
このワンちゃんの体にも美しい筋肉がついている。
アスリート系に違いない。
突然飼い主が手に持っていたテニスポールを海に向かって投げつけると、このアスリートのワンちゃん、まるで弾丸のように灰色の冷たい海の中に向かって飛び込んでいった。








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まるでそれが至上の喜びであるかのように、飼い主がボールを投げるたびに何度でも海に飛び込み、飼い主にボールを渡すと「まさか、これで終わりって言わないよね?」という目で飼い主を見つめ続ける。








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寒さに弱い僕たち親子とアプリコットは「自分たちは絶対にそんなことしないけど、でも、ほんとすごいよね〜」と感心してその様子を眺めていた。








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「な〜んだよ。そんなこと、僕にだってきるさ!」とすぐに挑戦しないと気が済まないタイプの人が世間にはいるが、ワンちゃんにも時々そういう輩がいるらしい。
アスリート犬のダイビングを見つめていた黒い小型犬が我慢できなくなり海に向かって勢いよく走り出した。








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海水に前足を入れたとたん運悪く襲ってきた大きな波が彼を飲み込み、驚いた黒ちゃんは飛び上がって僕たちの方へ戻ってきた。
びしょ濡れでがたがた震える黒ちゃんを見て、ソーマは「ばっかだよなぁーもー」といってアプリコットの背中を撫でた。








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by somashiona | 2010-02-19 21:13 | ソーマとシオナ

おかしいのは、僕の方?






久しぶりに日本に帰ったとき僕がとても驚いたことは、電車の中の人たちが皆、本当に皆、携帯電話をいじっていることだった。
昔はスポーツ新聞や漫画を読んでいる人が多かったのに。(浦島太郎)
最近、オーストラリアで暮らしていて驚いていることは誰も彼もがFacebookやTwitterをやっていること。
こういう世界のことはよくわからないのだが、これらもmixiのようなソーシャル・ネットワーク・サービスのカテゴリーに属するのだと思う。
誰かと新しい出会いがあると携帯電話の番号を交換するのと同時に必ずといっていいほどfacebookのアドレスを聞かれる。
自分はやっていないというと、あたかもそれが当たり前のことのように、じゃすぐに入って「友達に追加」しておいてね、と言われる。
友達ってどれくらいいる?と聞けば人はfacebookに登録している友達の数を言うかもしれない。
多い人は何百人単位だ。
友達と言える人などほんの数人しかいない僕は、友達の数など聞かれたときは顔を赤らめ、もじもじ君になってしまう。

僕は一週間誰とも話をしなくてもまったく平気だ。
さすがに今の生活でそれを実現するのは難しいが、昔はそんなことがよくあった。
1週間暗室にこもって黙々とプリント作業をするというようなことが。
僕はボォ〜っとしている時間が好きだ。
車で遠出するときも音楽やラジオはいらない。
目の前を流れる風景を見ながらひたすら考え事をする。(夢想する)
歩くときなどは特に耳にイヤフォンやヘッドフォンなど絶対に付けたくない。
街のざわめき、林の中で風が木々の間を駆け抜ける音を聞きたい。

今、人々はどうしてこんなにいつも外からの情報に漬かっていたいのだろうか?
どうしていつでも誰かと繋がっていたいのだろうか?
広く浅く垂れ流される外からの情報より何十年もかけて書かれた一冊の本を読む時間、自分の心の奥底で眠っている声に耳を傾ける時間の方が楽しくはないか?
そういうことをするには自分一人の静かな時間が必要だと思う。

僕が普段使っているgmailにBuzzという新機能がついた。
FacebookとTwitterを合わせたような機能というだけでなく、自分の居場所さえも人々に発信できるという。
iPhoneなどでBuzzを使えば人々は僕がどこで何をやっているのか常に追いかけられるらしい。
これって便利なのか?
これは僕には首輪を付けられているとしか感じようがない。
ストリートでスナップショットを撮るとプライバシーが、肖像権が、人権が、と人々はすぐに鬼のような顔になるのに、自分たちに首輪を付けられることに危機感を感じないのは一体どういうことなんだろうか?
自由だ、自由だといいながら人と繋がっていなければ安心できない状況に不自由を感じないのはどうしてか?

という僕も一種のソーシャル・ネットワーク・サービスであるブログをやっているし、今日のテキストなどまさに長めのつぶやき(twitter)だ。
実生活でもFacebookやTwitterをこれ以上無視していると社交や仕事に支障が出る状況に陥っている。
こういう矛盾が自分の立ち位置をあやふやにする。
ああ、世の中どうしてこんなに複雑なのだろう?

あれ、ひょっとして、おかしいのは、僕の方?














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テキストの内容と写真は無関係
写真は自宅で煙草をふかすトニー。

















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by somashiona | 2010-02-16 07:29 | デジタル

新聞ポートレイトができるまで






新聞に掲載される一枚を撮るためにどれだけ追い込むか。
これが今日のお題目。

シドニーの新聞社からタスマニア在住の作家デイヴィッド・オーウェン氏のポートレイトを撮るよう依頼される。
新しい本を出版したらしく、そのブックレヴューで使う写真だ。
仕事でポートレイトを依頼されたときに最初に僕がやることはその人についての情報をできるかぎり収集すること。
撮影の時は会話のキャッチボールが大切なので、話のきっかけをいくつか用意しておくとコミュニケーションがスムースになるし、グーグルのイメージ検索で事前に被写体の顔が分かると絵作りのイメージもしやすい。
グーグルで見つけたデイヴィッドさんの写真は鋭い眼光のものが多く、笑顔の写真は一つも見つけれなかった。
彼はとても魅力的な顔をしていると思った。
彼が今回出版した本「シャーク」は、サメが長い間人々から敵視され続けた故に今は絶滅の危機に瀕している、というような真面目な内容だが、それだけに今回のポートレイトではなにかジョークを盛り込みたかった。
新聞写真ではあるが、少しでもそこにクスッと笑ってしまう部分やお茶目な要素を盛り込みたいと思った。
しかし、こういうことばかりは本人に直接会ってみないと何が出来るか分からない。
お茶目な要素などとんでもない、と怒りだす人だってたくさんいるのだ。
実際そういう人もたくさん写してきた。
幸いなことにデイヴィッドさんは僕のやりたいことに賛同してくれたし、いい写真を作るための努力を惜しみなくしてくれた。

「シャーク」という本の紹介なので彼のポートレイトには海や水にまつわるものがやはり必要だろうと最初に思った。
最初に頭に浮かんだイメージは大切にすべき。
彼の自宅付近で撮影することになっていたが幸い彼の自宅は海のすぐそばだった。
撮影の1時間前にロケハンをした結果近くにあった桟橋以外の場所は撮影地として考えられなかった。
ここでの写真がこの日一番大切な写真になるだろう。

彼の家にお邪魔してすぐに撮影を始めた。
新聞の仕事を依頼されたときは使用するワンカットのために6枚から12枚の写真をすべてキャプション付きで送る。
キャプションはフォトショップのインフォメーションの中にアサイメント名、いつ、どこで、だれが、どうした、と撮影者の名前を必ず書き込み、jpegでピクセル数は小さくせず圧縮で1MB程度の重さにし、1枚ずつ分けて送る。
このやり方はどの新聞社、どの通信社でも暗黙のルールのようだ。
写真を縦で使うのか、横で使うのか、大きく使うのか、小さく使うのか、売り出されるまで僕にはまったくわからない。
だから、どんなパターンでも対応できるような写真を撮っておかなければならない。
選ぶ人に出来るだけたくさんのチョイスを与えるのだ。
家の中では1、2カ所で撮ろうと決めていた。








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僕は人を撮りはじめるときほとんどの場合「笑わないでください。でも目に力をください」とはじめる。
初対面の相手から「じゃあ笑ってくださいねぇ」とか言われても普通は自然な笑顔など作れる訳がない。プロのモデルじゃないのだし。
「笑わないでください」と言っておきながら笑えることを僕は言い続ける。
被写体になってくれている人が思わず笑ってしまいそうになると「ダメ、ダメ、こらえて、真剣な顔が欲しいんですから」などとやっているうちに距離がだんだんと近づいてくる。
折りたたみ式の小さなライトスタンドにキャノンのスピードライトを1灯付け、傘を使って光をディフューズする。
こういう取材でいつも持ち歩くライトスタンドManfrotto 001JBは僕のような仕事をするフォトグラファーの必需品だ。とても小さいのだが高く伸ばせるし、安定性もある。
ライトを使って撮っているときも、自然光の美しさを忘れてはいけない。








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本の紹介と作者、芸がないなと思っても定番の写真は必ずおさえておくべきだ。
















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会話を進めながら撮っていくうちに被写体が少しずつ素に近づく。
念のためにモノクロも撮っておく。
オーストラリアの新聞はカラー印刷のページでもモノクロが写真として効果的であればファッション雑誌のようにモノクロ写真を使う。
彼の背景には奥様が描いた絵を使わせてもらった。
そうすることによって彼にとっても奥様にとっても意味のある写真になるだろう。

最初の部屋の撮影で出来ることはやり尽くし、家の中の他のロケーションを探しているとき奥様が「この棚にはこの本を書くために彼が集めた資料が詰まっているのよ」と言った一言に僕は反応した。
開けてもらって中を見たとたん、ここが第二のロケーションだ、と思った。








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次はあらかじめロケハンをしておいた桟橋。
ちょうど夕暮れ時でかなり強い西日がほぼ真後ろから差し込んでいる。
普通に写せば被写体は適正露出で背景がかなりオーバー、これじゃわざわざ桟橋に来た意味がない。
背景が適正露出なら、もちろん被写体は真っ黒だ。
スピードライトをカメラに付けてフィルライトとして使うが写真自体のインパクトに欠ける。
ここに来る前にディヴィッドさんの息子さんが子供の頃に遊んでいたサメの人形を見つけたので持ってきてもらった。
彼のポケットに僕が入れると彼はにやりと笑った。








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この桟橋の写真、ちょっと作り込む必要があると思った。
メディアで写真を使うとき、自然な状態の写真はかえって不自然に見えるときがあると僕は時々思う。
徹底的に作り込まれた広告写真であふれる世の中、自然な状況の写真はインパクトがないだけでなく、不快にすら見える時がある。
ここは作り込んだ方が面白いと僕は思った。
彼の左後方から差し込む西日が本当に強い。
この西日と対角線上の彼の右側にスピードライトを置いて撮影したかったが、桟橋が狭くてライトスタンドを立てられない。
仕方がないので彼の正面に三脚を立てそれにトランスミッター付きのカメラを設置する。
僕が右手にスピードライトを持ち、その腕を伸ばして彼に向かって光を飛ばす。
シャッターレリーズを持ってこなかったのでカメラのタイマーを使う。
ところが、何度光を飛ばしても被写体は真っ暗。
ISO200のF8.0、この距離から光が届かないはずがない、、、?
スピートライトをTTLにして使っていたので正面から当たる強い西日をスピードライト側が読み込んでしまい発光量を自動的に抑えてしまっているのだ。
しょうがないのでスピードライトを西日の対角線上ではなく、被写体の少し手前に持ってきて光を飛ばした。
これは僕の作りたかった光ではなかったが、撮影の時間がかなり長くなってしまったのでこれ以上もたもたしたくなかった。
後で冷静に考えてみると、スピードライトをTTLではなく、マニュアル発光にすれば簡単に解決した問題なのだが、本番の撮影では被写体の心の模様と絵作りに神経を集中しているのでテクニカル的なことに頭がまわらない時がある。
こういうことは僕にとって未だに大きな課題の一つだ。








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さて、あなただったらどの写真を選んだだろうか?
















実際に新聞で使われたのは、、、、。








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かなり大きな写真で使ってくれた。
このようにして、新聞で掲載される一枚ができあがるという、長い、長いお話でした。



















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by somashiona | 2010-02-13 22:11 | 仕事

虎の穴アドベンチャー2011(仮案)





今日は写真マニア向きの話題。

自分の写真のレベルを上げるには、ひたすら撮って、ひたすら反省し、より多くの人に見せ、より多くの良い写真を見るしかないだろう。
だが他のフォトグラファーと撮影を共にすることによって、もしくはフィールドの違うフォトグラファーたちと情報を交換することによって自分の技量を上げられることもある。
その素晴らしい具体例が2008年に僕が取材で体験したアドビ・ライトルーム・アドベンチャー・タスマニアだったと思う。
世界中から分野の違うフォトグラファーが集まり、毎日数枚の自信作を吐き出し、それらの作品をオークションというかたちをとって一般の人にプリントで写真を買ってもらう。
こういうことを日本で出来ないだろうか?
自分たちの手で実現させられないだろうか?
僕がもしこういう企画を練るのなら、、、

まずはこのイベントのタイトル。
「フォトブロガー、虎の穴アドベンチャー2011」こんな感じ。

参加者をフォトブロガーたちに呼びかける。
定員は10~20名。
例えば、エキサイトブログ、人気ブログランキング、日本ブログ村といった場所でこのイベント用のサイトを作る。
参加したい人は自信作20点をこのイベントのサイトに出展する。
この作品を見た人たちがぜひこのイベントに参加してほしいフォトグラファーに投票する。
フォトグラファーはプロ、アマ、ベテラン、初心者を問わない。
しかし、イベントでの撮影はデジタルカメラに限る。

このイベントのために世界から各分野の著名なフォトグラファーをスペシャルゲストとして招待する。
例えば、風景写真の相原さん、モノクロ写真のマイケル・ケンナ氏、エディトリアル部門からはナショナルジオグラフィックのスティーブ・マッカリー氏、ファッションフォトからマリオ・ソレンティー氏、アートフォトの杉本博司氏などなど。

こんなメンバーが例えば沖縄の小さな村のホテルに集合する。
この村で写真を撮る、それだけが共通のテーマでもいいのだが、このイベントは虎の穴、一筋縄ではいかない。
無理難題を参加者に押し付ける。
有名無名に関わらず。
6日間のこのイベントのスケジュールは以下のおとりだ。


月曜:風景写真
火曜:人物写真
水曜:スティルライフ(静物写真)
木曜:モノクロ写真
金曜:フォトショップ & 筆記試験
土曜:オークション


フォトグラファーはそれぞれ自分の得意分野の被写体やフィールドがある。
スタジオフォトグラファーにスポーツをとりなさいと言っても無理があるし、スポーツフォトグラファーにライトを駆使して静物写真を撮りなさいと言っても無理があるのだが、このイベントは何ていっても虎の穴、不得意分野にも積極的に挑戦することによって目から鱗が落ちるような発見をしてもらい、それを自分の分野にフィードバックさせるのだ。

そういう意味では月曜の風景写真でほくそ笑んでいた相原さんが金曜のフォトショップで泣きべそをかくのもフェアというものだ。

月曜から木曜までの撮影は想像がつくだろう。
では、金曜のフォトショップは何をやるのか?
今の世の中、画像処理の知識はそれを自分の写真で使うにしても使わないにしても欠かせない。
参加者全員に同じ3つのRAWファイルが手渡される。
ノーマルの画像があれば露出の厳しい画像もあるし、色かぶりのひどい画像もある。
とにかく、それらの画像をよく吟味し、最善だと思える調子に整え、最終的にJPEGにしてからA3+のペーパーにプリントする。
同じRAWファイルから十人十色のプリントが作り出されるだろう。
RAWファイルをぱっと見て、どんな手を打つべきか考えるそのプロセスというものは、ほとんどの人が自分なりのパターンを持っているはず。
それだけに、他人の思考プロセスを知ることは、時に大いに参考になる。

筆記試験は実用的な知識をおさらいするためのもの。
自分の分野の撮影では常識なことも他の分野のプロは意外と知らないもの。
そういうそれぞれの分野ならではの「なるほどね~」的部分が出題される。



問い12、スピードライトの問題。
室内のソファに黒いブラウスを着た色白の女性が座っています。
ソファの後ろには大きな窓がありそこから美しい湖が見えます。
旅行雑誌の記事のためにあなたはここで絵になる一枚を撮らなければなりません。
壁は白ですが天井はかなり高く、焦げ茶色の木の板です。
カメラのISOを200にしたとき彼女はf4.0 1/30秒が適正露出であり、窓の外はf4.0 1/3200秒が適正露出のようです。さて、あなたはスピードライトをどのように設定し、どこに光を向けて写すでしょうか?



問い23、色温度の問題。
家具のカタログのためにNYの近代的マンションの室内を撮るよう指示されました。
1週間のアメリカ東海岸滞在中多くの場所を撮影するためストロボはモノブロック2灯しか持っていません。
これはタングステンのモデルライトが使えます。
さて、案内された室内は大きな窓があり自然光がたっぷりと差し込みます。
しかし、室内の主要な照明はタングステンです。
この部屋の窓の反対側には大きな裸婦の油絵が飾ってあり、これがこの部屋の印象を引き立てますがこの絵は蛍光灯によって照らし出されています。
この部屋をナチュラルな状態で写すために、あなたはどのように色温度を整えればいいでしょう。
ちなみにあなたのカメラバックにはシアン、マゼンタ、グリーンのライト用のフィルターが入っています。
後でフォトショップでレタッチするという答えはなしです。




このような問題が約50問、答え合わせのときは皆、目から鱗の連続だ。
こういう問題は答えが一つじゃないところが面白い。
君はそういうが、僕ならこうやるよ、というような様々なアプローチが議論されるだろう。
また、こういう集まりでは自然体でいれる人ほど得るところが多い。
キャリアがあるから何でも知ってる、というような態度は鼻につき、参加者たちから多くの情報を得るチャンスを失うことになる。



参加したフォトグラファーたちは毎日夜の9時までにその日に撮った写真の中からベストなものを3枚選び、A3+のペーパーにプリントし、主催者に提出しなければならない。
エプソン、キャノンなどのプリンターの設計者たちが会場に置かれたたくさんのプリンターにつき、最善のプリントを作るためのアドバイスを与えてくれる。
参加者たちは他のフォトグラファーたちのプリントを自由に見てもいいし、質問をしてもかまわない。
技術的なことに関する質問をされた場合でも参加者は必ず素直にすべてを話さなければいけないというルールがこの合宿にはある。
撮影のアプローチ(使った機材、被写体を選んだ理由、光の読み方などなど)から画像処理(どんなRAW現像をしたか、シャープネスやノイズ処理のかけ具合、トーンカーブの調整、白飛びの処理、レイヤー、マスクの効果的な使い方など)、プリントにいたるまで、そりゃーもう、誰にでも、何でも聞いていいのだ。





参加者Aさん「相原さん、三脚にはクイックシューを付けてませんが不便じゃないですか?」

相原さん「き、君ねぇ、そんなこと僕には当たり前なの、そんなことでめんどくさがっていてはプロにはなれないの」

主催者「ピ、ピ、ピィ~」(笛の音)「参加者は質問に正しくお答えするよう、よろしくお願いしま~す」

相原さん「ちぇっ、、、」 


(フィクションです。実際の相原さんのキャラクターとはまったく無関係です。)




参加者Bさん「エクスキューズミ~、マリオさん、地元のご老人さんたちを撮っているとき叫びまくってましたが、あれは何か戦略なのでしょうか?」

マリオ氏「ヘイ ユ~ 写真はノリなの、リズムなの、だからミーは沖縄に来る前に何度もipodでハイサイおじさんを聞いたの どぅ~ゆ~あんだ~すたんど!それを歌いながら撮るのが沖縄でポートレイトを撮るライトウェイ(正しいやり方)なの ゆ~がれっと?」

主催者「、、、」





このイベントには沖縄の観光局、主要な航空会社、カメラメーカー、ソフトメーカー、カメラ雑誌、その他写真に関わる会社がスポンサーになっている。
毎日の模様は逐一ウェブで紹介され、この模様を追いかけている読者たちはイベント期間中写真の生きた知識を膨大に得るだろう。
それぞれのフォトグラファーがその日プリントした作品はウェブサイトにもアップされ、人々はそれらの作品に星を最高で5つまで付けることが出来る。
イベントの最終日には誰の作品が一番人気があったのかを僕たちは知る。
写真を見るのは写真マニアだけではない。
写真にまったく関心のない人たちの心をどんな写真がとらえるのかを知ることは、フォトグラファーたちだけでなく、写真を使いお金を生もうとする人みなに必要だ。
専門知識は時として大切なものの邪魔をする。


もちろん、販売もするので気に入った作品があれば、日本中から、世界中からオーダーすることが出来る。
そのプリントが出来上がるまでの詳細な情報も入手可能なので、お気に入りのフォトグラファーと同じ機材、同じソフト、そして同じプロセスで読者も作品作りが出来るようになる。
そういうことに安心と喜びを感じる人はたくさんいるし、そういう人がいるからこそこういうイベントにスポンサーがつくというものだ。

参加者が20人だとして毎日60点の素晴らしいプリントが出来上がることになる。
4日間の撮影で240点の素晴らしい作品たちが生み出されるのだ。
最終日、土曜日の午前中、参加者全員がホテルの大きな会場に集まり、4日間で撮った自分の作品や経験について発表する。
そこでの質疑応答の内容は日本の写真史に長く残る貴重な言葉となる。
それぞれの作品を会場内に展示する。
そして、夕方には作品のオークションがはじまる。
作品を購入するため、そして憧れのフォトグラファーと話をするためにこの小さな村に全国から写真ファンが大勢押し寄せる。
カメラメーカーやソフトメーカーからの品々がプリント購入者に手渡されるサプライズもある。





お客Cさん「うはぁ~、ナチュレアさんの作品買ったらさ、もちろん立派な樹の写真だけどね、アドビがPHOTOSHOP CS4をつけてくれた~。もう一粒で2度おいし~、ナチュレアさん、アドビさん、もうサイコ〜」


お客Dさん「そんなの甘いよ~、俺なんてさ、マナブッチ~のしょぼい作品をお情けで買ったらさ、キャノンがEos 7Dを付けてくれたよ~。やっぱり人助けはするもんだよねぇ~。でもさ、そのあとにマナブッチ〜のやつ、自分で自分の作品買うから7Dを付けてくれってキャノンに泣きついてやんの。かっこ悪いったらありゃしないよ。まだ30D使ってるしさ」





オークションの売り上げは無償で宿泊や食事を提供してくれ、嫌な顔一つせず親切に村中の案内をしてくれた村の人々に還元される。

観光局、スポンサーとなった会社はプリントされたすべての作品のコピーライトを作者と共用する権利がある。
広告、雑誌、様々なメディアで自由にこれらの作品を使ってもいい。
このイベントのギャラは参加者に支払われないが、参加者はどこから来ようとも交通費、食事代、宿代などいっさい負担する必要がない。
ウェブから写真を購入した際、その代金は作者に直接支払われる。

このイベントの効果でこの村はその後写真の聖地として有名になる。
フォトグラファーを目指す人はこの村の神社でお守りを買い安心するが、この村の土をカメラバックに持ち帰った外国人フォトグラファーが空港での検疫に引っかかってしまうという事件も後を絶たない。





あっ、だめだ、こんなこと書いているときりがない。
こういう話はもう、終わりなく広がっていく。

でも、皆さん、面白そうだと思わない?









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写真はタスマニアの小さな町、リッチモンドで出会ったローカルの少年たち。

















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by somashiona | 2010-02-11 18:21 | デジタル

女性ファン感謝デー





僕の家に遊びにきた人たちは服を脱ぐはめになる、という言伝えが古くからある。(出だしから大袈裟)
ただの噂だと思っている人もいるだろうが、実際何人かの犠牲者がいることは確かだ。
 

では、どうして服を脱ぐはめになるのだろう?


僕はスタジオフォトグラファーではないのでストロボやスピードライト(海外では一般的にスタジオなどでライトスタンドに立てて使うパワフルな人口光をストロボといい、カメラの上に付けて使ういわゆるクリップオンタイプのストロボのことをフラッシュ、またはスピードライトという)を使った照明機材の扱いにあまり慣れていない。
では全く使わないのかといえば全然そんなことはなく、かなりの頻度でストロボやスピードライトを使うので、スタジオ出身ではない僕はなんちゃってライティングを時々練習しておかなければならない。

撮るものがStill Life(静物)なら時間のあるときに自宅に簡易スタジオを作り、こつこつとやるのだが(実際には仕事を受けた前日に慌ててテストする)僕の仕事は95%以上が人物撮影なので、やはり練習は人を使ってやりたい。
僕の家に純粋で罪のない友人が訪ねてくると「ねえ、ちょっと時間ある?」とはじまる。
ライティングのテクニックなどちきんと学んだことがない僕は、いつも実験に実験を重ねる。
モデルになってくれた友人には初めは丁寧に「あ、ごめん、もう少し右側を見て」「少しうつむき加減でおねがい、うん、そうそう」とやるのだが、だんだん白熱してくると「だめ、だめ、まだまだ目が弱ーい、僕の体を突き抜けるような視線が欲しいのー」とか「もっと膝曲げるのーもっとー、そのまま、そのまま、動かない、動かないー」と気がつけば思いっきり命令口調。
モデルも知らないうちに一緒になって熱くなる。
ライティングのテストなので見たいのは顔や体にできる光と陰だ。
なので、はっきりいって服は邪魔。
もちろん最初はそこまで頼むつもりはないのだが、最終的には「もうさ、服脱いじゃおうよ、ねっ」ってことになってしまう。








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数年前にタスマニアで行われたアドビ・ライトルーム・アドベンチャーの取材の後にLightroom 2を購入して以来、僕はほとんどフォトショップを使わなくなった。
以前はほぼ毎日使っていたこのソフト、操作はショートカットキーを多用した。
ライティング同様、フォトショップも時々フィルターなどのいろいろな効果をテストしておかないといざというときに困る。
今回久しぶりにフォトショップで画像を加工してみた。
しかも、かなり大袈裟に。
完全なお遊び。
フォトショップは明確なイメージなしに使うと一度やりだしたら最後、止まらなくなる。
レイヤーがどんどん増えるにしたがって元画像の姿が変わっていくのは確かに面白いし、イマジネーションも刺激される。
しかし、これにはまると時間と写真のリアリティがどんどん失われていく。
練習ならともかく、仕事で使うときはさじ加減を誤ってはいけない。
久しぶりのフォトショップ、ショートカットキーだけでなく基本的な操作の多くを忘れてしまっていてかなり焦った。

今日は「タスマニアで生きる人たち」女性ファンのための感謝デー。
力強い男性の肉体美を堪能してくれただろうか?
せっかくフォトショップを使っているのだから顔だけ僕のものにしようと思ったが、やめといた。

そんなわけで、モデルになってくれたHくん、これで君は有名人だ!
またよろしくね!








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by somashiona | 2010-02-06 17:42 | デジタル

丘の上の花嫁とタスマニア物語








丘の上の花嫁さんが僕にメールをくれたのはかれこれ1年くらい前になる。
思い出の写真をタスマニアの自然の中で撮りたい、フォトグラファーをネットで探しまわっているうちに僕にたどり着いたらしい。
以前僕がブログにアップしたウェディング写真「あの丘でウェディング」がとても気に入ってくれたようで撮影を僕に依頼してくれることになった。

タスマニア在住のカップルなのでメール以外にもカフェなどで何度かお会いし計画を進めていったが、結局季節や諸般の事情で一年後の撮影となった。
ウェディングの仕事をするときいつも感じることだが、花嫁さんになる女性のウェディングに対する情熱は花婿さんのそれに対し8:2の割合で圧倒的に強い。(どうやって計算したかは聞かないように)
そのウェディングの様子が自分の歴史として記録されるウェディング写真に対する思い入れは想像に難くない。
その熱意が話し合いをするたびにひしひしと僕に伝わってくるので、僕も何か特別なことをしてあげたい気持ちになる。
(そういう意味では商売下手、涙)
撮影の3日前まで「あの丘でウェディング」の丘で撮影することになっていたが、撮る側の僕としてはやはり毎回違ったことにチャレンジしたいという欲もあり「タスマニアらしい風景の中で写真を撮ってほしい」というキーワードについて考え続けていた。
みなさんは映画「タスマニア物語」をご存知だろうか?
1990年に公開された日本映画。
田中邦衛、薬師丸ひろ子、根津甚八、それと誰かなぁ、、、あ、すっごく若い緒形直人なんかが出演している映画だ。
一流の会社を辞めたあとタスマニアで暮らし、絶滅したとされているタスマニアンタイガーを探す父に少年が会いにいく、といったストーリーだったと思う。
たぶん、タスマニアを一般の日本人に知らしめたのがこの映画だったのではないか。
実際、タスマニアに旅行や移住で来た人にその理由を聞くとこの映画が心に残っていたからだ、という人が多い。
映画に出てくる風景はまさにタスマニアそのものだった。
憧れる人はたくさんいるだろう。








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そして、ふと思った、タスマニア物語のロケ地で写真を撮れないものかと。
以前、僕が集中的にモノクロフィルムで風景写真を撮っていたときのお気に入りの場所はハミルトンという小さな町。
ここの風景は夏になるとラクダ色の丘が女性の体の曲線のように柔らかく連なり、そんな女性の裸体を見たときのような写欲全開モードになる場所だ。
タスマニア物語のほとんどのシーンはこのハミルトンで撮影されたと聞いたことがある。
その場所こそ、タスマニアらしい風景というアイディアにピッタリではないか!
そのことを丘の上の花嫁さん(ちょっと長い名前だが)に告げると、翌日にはそのロケ地に使われた牧草地のファーマー(牧場主)の連絡先と撮影の許可が僕のメールに送られて来た。(もの凄い段取りの良さと熱意)
ホバートから車で1時間ちょっと走らなくてはならないが、ロケ地を見ずに3日後の本番の写真を撮るわけにはいかない。
そんな訳で丘の上の花嫁さんを手に入れた幸運な男性の仕事が終わった後の午後6時30分にホバートを出発し、3人でロケハンに出かけた。

ハミルトンの町に近づいた7時半頃、すでに最高の光が丘の上に降り注いでいた。
僕は車の窓から興奮気味に丘を撮った。
車を止めて撮りたいところだが、暗くなる前にロケ地を見たいのでそんな余裕はない。
そんな状況で撮ったのがスライドショー前半で出てくる風景写真たちだ。








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勝手に柵を開けて牧場に入っていい、と言われたようだが、だだっ広い牧場の中、自分たちが車を走らせている場所がタスマニア物語のロケ地かどうか全く検討がつかない。
それでも、写真を撮るには十分美しい場所だったのでテストシューティングをかねて絵になりそうなスポットで二人を撮った。
すでに太陽は丘の向こうへ隠れ、カメラのISOは200から400へ、400から800へと待ったなしで変わる。
普段の撮影ではよほどのことがない限りISO800以上は使わないが、この時はあまりの暗さにそうも言っていられなかった。
特に二人が走るシーンでは写真の女神様に祈りながら撮った。
ウェディングドレスを着る前のテストシューティングと言ってしまえば気持ちは楽になるのだが、撮れるときにはいつも本気で撮っておかないと後悔するはめになることを経験から知っている。後でその光、その状況で撮れる確約などどこにもないので気を抜くわけにはいかない。
テストシューティングの絵が本番を含めたすべての絵の中で一番よかった、なんてことがよくある話だ。
結局、高いISOで撮ったこれらの写真たちも彼らの貴重な一枚になった。








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日が完全に沈み、牧場の中は真っ暗になった。
映画で使われた田中邦衛の住んでいた家も見つからず、果たして僕たちは映画のロケに地いるのかいないのか分からぬままヘッドライトに照らし出されるでこぼこの路面を車で走らせ、牧場の最後のゲートを出たときに遠くからヘッドライトを上へ下へと振りまきながら走ってくる車が見えた。
ゲートでその車を待つと、車の中から出て来たのがこの牧場主アーチャーさんだった。



僕たちが見て回った場所が映画のロケ地なのか聞いてみたが、この広い土地の中、僕たちの説明と彼の説明が同じ場所のことを言っているのか全く検討がつかない。
僕たちが見て回った場所も十分綺麗だったが、僕が想像していた丘とは少し違った。アーチャーさんに辺り一面が見渡せる広い、広い、丘のある土地を所有していないか、と聞いてみるとニヤリと笑い「最高の場所がある」という。
本番の日に映画のロケ地で撮影する前にその「最高の丘」へ案内してもらう約束をし、その夜はホバートへ戻った。








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撮影本番の日、アーチャーさんとはベストな光が来る2時間ほど前に彼と出会ったゲートで待ち合わせした。
待ち合わせの間、丘の上の花嫁さんを何カットか撮った。
彼女の顔からは押さえきれない微笑みがこぼれ落ち、「うれしい、本当にうれしい」という言葉を何度も口にした。
そんな風に思っている人を撮れるなんて、僕だって本当にうれしい。
アーチャーさんの案内でロケハンした場所から車で約20分の違う場所へ移動した。
丘の上の道なき道を登ったり、下ったりしている間、僕の胸は高鳴っていた。
いいぞ、いいぞ、ここならいいものが撮れる!
アーチャーさんが連れて行ってくれた丘の頂上はボバートのマウントウェリントンから北のマウントフィールド、だけでなく360度見事に見渡せる「最高の丘」だった。

アーチャーさんにお礼を言って撮影を開始。
丘の上は遠目からは柔らかく美しいが、実際そこを歩くとそれはもう大変だ。
タスマニアの夏、草の中のどこかには確実に毒蛇が潜んでいる。
なんと言う名前か忘れたが細く小さい針のような草がそこら中にあってそれがジーンズや靴の中に侵入し体に刺さる。針の先端はちょうど釣り針のようになっているため一度刺さると引き抜こうとしてもなかなか抜けない。
普段着の僕ですらそうなのだからウェディングドレスをきている丘の上の花嫁さんはもう大変。
ウェディングドレスにトゲトゲの草がまつわりつくだけでなく、小さなバッタが至る所に張り付いていた。
それでも二人は僕の提案を受け入れ、何でもやってくれた。
いい写真を作るには写される側の努力も必要。
写す側、写される側が一体となったとき何かが生まれる。
僕たちの仕事はいかにその一体感を作れるかだ。








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空の向こうから真っ黒な雨雲が押し寄せてくる。
ここで雨が降ったら一巻の終わり、真っ白なウェディングドレスは目も当てられなくなる。
天気予報も雨が降ると言っていた。
3日前にロケハンをした場所は捨て、この丘にしぼって撮影することに決めた。
丘の上で移動している間は風景も撮る。








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ポートレイトの仕事とはいえある程度の枚数を納めるときは被写体やその時の撮影にまつわる何かを積極的に撮るように心がける。
その方が出来上がった写真たちにストーリーを持たせてくれるからだ。
結婚式の写真に指輪やケーキ単体の写真が織り交ぜられているのと同じ感覚。








撮影が一段落し、来た道を戻ろうとするが分からなくなる。
車が踏みつけた草の跡があるだろうと思っていたのに、それが分からない。
心配したアーチャーさんが戻って来てくれた。


他にもいい場所があるけど見てみる?と言ってくれたので喜んで彼についていった。
一面黄金色の麦畑。
(そういえば「ライ麦畑でつかまえて」のサリンジャーさんが亡くなってしまった)
ここで穫れる作物について説明してくれるアーチャーさんの手、服、表情、彼もまた堪らなくいい被写体だ。








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そして、タスマニア物語で田中邦衛が住んでいた家にも連れて行ってくれた。
当時の説明をうれしそうにしてくれる彼は車の中から次々と思い出の品を出して僕たちに見せてくれる。








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彼もあの映画に出演したらしい。
僕は全然覚えていないが、かかってくる電話を受ける役だと言っていた。
説明を受けながらも撮れるところではできるだけ撮る。








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気がつけばアーチャーさんはアシスタントになっていた。
フォトグラファーは何でも味方に付けてしまう習性がある(汗)。
撮影で使われた家は映画のために建てられたものだった。
一見完璧な普通の家だが実は煙突のレンガがレンガ模様の壁紙だったりと至る所が偽物、なので人が住むわけにはいかず、長い年月を経て家の中は荒れ放題になっていた。








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たぶん、この映画に関係した人がこの家の中を見ると胸が痛くなるだろう。
もちろん、アーチャーさんの責任でも、誰の責任でもない。


家の中を見た時間はもうかなり暗くなっていた。
最後にこの家を利用して今までとはちょっとタイプの違う写真を撮った。
どちらかといえば自分のポートフォリオのための写真を。








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すべての撮影が終わった後、雨が降り出した。








このアーチャーさんの土地、僕のお気に入りの撮影地の一つに加えられた。
今度は丘の風景写真を撮るためにここに来よう。
そして、できれば超カメラシャイなアーチャーさんを撮ろう。









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by somashiona | 2010-02-04 11:46 | 仕事

丘の上の花嫁




はじめての試み、スライドショー。
タスマニアの美しい丘と素敵なカップル。

音が出るのでご注意を!

























Mac iMovieで作ってみたものの、なかなか思うようにいかない。
お気に入りの音楽(ライクーダ)に合わせて作ったのにYouTubeでは著作権プロテクト機能のため使えなかった。(当たり前か!)
結局、音はコピーライトフリーのものを使うしかなかった。


もっと大きな写真をもっと感動的に見せたいのだけど、、、。
スライドショーの達人、誰か知りませんか?


この撮影の裏話はまた後ほど。



















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by somashiona | 2010-02-02 22:48 | 仕事

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