心に海を持つ男



先日、知り合いの女性とカフェでお茶していた時の話だ。

「もうそろそろ彼と結婚って話も出てるんじゃないの?」と僕。

「実はね、最近私たち上手くいってないのよ」と彼女は深くため息をついた。

32歳、とても綺麗で頭のいい女性だ。

「何か思い当たる原因でもあるの?」人びとは僕を、事情聴取のマブ、と呼ぶ。

「先週ね、3日間かけて彼と話し合ったの、どうすればもっといい関係が築けるかって。彼は私に何も不満はないというの、今まで通り愛しているって。でもね、私には両手の指では足りないくらい彼に不満があるの」
彼女のカプチーノのカップには赤い口紅がついている。

「もしかして、10以上の不満を彼にぶちまけたの?」
彼女と話をする時はなぜだかいつも彼女の口元に目がいく。
少し濡れているような真っ赤なルージュ。

「全部は言わないわ。3、4つよ」

「例えば?」

「もっといいセックスが欲しいって彼に言ったわ」
彼女の表情は変わらない。どうやらこれは冗談じゃないらしい。

「それって、、、何か新しい技を開発して欲しいとか、もっとアグレッシブじゃないとイヤとか、アクロバット的なスリルが欲しいとか、そういう類いのこと?」
こういう話題になると真面目な顔を維持できなくなるのが僕の弱点だ。

「ちがうわ、そうじゃないの。男の人ってすぐにそういう発想をするのね。ケミストリー(相性)の話よ」

「ケミストリーって、そんなこと今更言われたって、彼どうしようもないじゃない」
ここは男代表として、言うべきことは言わないといけない。

「そうよ、ああして、こうしてって言うフィジカルな話じゃないの。だから問題なの」と言って彼女はまたため息をつく。

「あのね、少し前まで僕の国では両親が勝手に結婚相手を見つけ、結婚式まで一度も会ったことがない人と生活を共にし、文句も言わず皆生きていたんだよ。それなのに君はあんなに優しくて、君を心から愛する男性にセックスの相性が悪いからどうにかしてくれって言うのかい?それって、あんまりだよ」
海外に住むと日本の古い時代の制度や考え方を美化してしまう傾向がある。

「本当にみんな文句を言わなかったの?見ただけで気持ち悪くなるような夫と一緒に寝て幸せだったって言うの?我慢することが幸せに結びつくの?」
彼女の目がだんだんと鋭くなる。

「いや、それはどうか分からないけど、、、。で、他になんて言ったの?」状況が不利になると話を変える作戦(母ゆずり)。

「他に何を言ったというよりも、、、この問題を彼と話し合っていて、私確信したの」

「確信って、、、何を?」

「ヒー ハズ ノーオーシャン イン ヒズ ハート」

「うはぁ〜、心の中に海がないだなんて、それってキツいよぉ」
まるで自分のことを言われたようになぜか慌てふためく僕。

「一度でも心の中に広い海を持つ男と時間を共にしたことのある女はね、いつもその海に自分の船を浮かべたいと思うの。その海に静かに漂う日を夢見るの。私の言っていること、わかるでしょ」
彼女の真っ赤な唇がさらに真っ赤に燃えているようだ。

「わ、わかるけどさぁ。そりゃ〜そうだろうけどさぁ〜。でもそれって、やっぱりキツいよ、あんまりだよぉ。」

「マナブ、どうしたの?怒ってるの?あなたの心には海があるでしょう?」

「え?まあ、水たまりくらいは、、、」










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by somashiona | 2009-02-05 07:09 | デジタル

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