家族が増えた!




「ダディ、4月18日は絶対に空けておいてね。仕事も入れちゃダメだよ」
1ヶ月以上も前からソーマに言われていた。
普段お願いごとを滅多にしない子だけに、彼に何か頼み事をされるとイヤとは言えない、、、というか、今回はお願いされなくてもその日は空けておくつもりだった。
なぜなら、ソーマと同じくらい僕がその日を楽しみにしていたからだ。

18日の朝、彼らの家につくとソーマが玄関に飛んできて僕に抱きついた。
顔には満面の笑み。
もう待ちどうしくてしかたがない、といったふうだ。
シオナはいつもと変わらない様子で朝食のシリアルを食べていた。
「ドキドキしないの?」と聞くと「全然平気」と答える。
なんだこいつ、父親よりクールじゃないか、、、。
彼らのマミーはどうだろう、、、?うん、珍しく興奮気味。
ソーマ、シオナ、マミー、そして僕という久しぶりに勢揃いした豪華オリジナルメンバーで車に乗り込み、目的地へ向かった。
そこは彼らの住むニューノーフォークから車で約1時間半の場所だ。
子供たちと彼らの母親は6週間前に一度訪れているが、僕は今回はじめて。

目的地へ着くとあの声が聞こえてきた。






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僕たちの姿を見た彼らはワン、ワン、キャン、キャンもう大騒ぎ。
ドック・ブリーダーを訪れるのは初めての経験だったので、ワンちゃんたちの多さに僕は驚いてしまった。
しかし、子供たちも母親もたくさんのワンちゃんたちには眼もくれず、このあたりにいるはずのブリーダーを探しはじめた。
なぜなら、今日は子供たちやマミーが6週間待った1匹のワンちゃんを迎えに来たからだ。






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ブリーダーのピーターが一匹のパピー(子犬)を連れて来た。
生後10週間目のオーストラリアン・ラブラドゥードル。
名前はもう決まっている。
「ヘロォ〜、エイプリコット、ハウア〜ユ〜!」
と言いながら子犬に近づく子供たちや母親の声が普段より3オクターブ高い。
エイプリコット、いや日本語の発音でいこう、エイプリコットはアプリコットのこと。
子供たちが苦労して決めたこの子犬の名前だ。
ちなみにアプリコットは女の子。

ピーターがアプリコットを地面に置いた。
子供たちの眼が輝く。
待ちこがれたアプリコットに触れる。
しかし、、、






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アプリコットがしっぽを振りながらソーマやシオナに飛び跳ねてくるが、子供たちはどう反応していいのか分からない。
甘えてくるアプリコットに思わず身をよじり身体を背けてしまう彼らを見て僕は目が点になってしまった。
な、何だ、大丈夫かこいつら、、、。
そんなソーマとシオナを横目に黒猫のタンゴ君が余裕でアプリコットと挨拶をかわす。






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ピーターは笑いながら子供たちに近づき、レクチャーをはじめてくれた。
レッスン1は優しいスキンシップの方法だ。
やさしいスキンシップは僕の得意技だが、ここはピーターに任せることにした。






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アプリコットのお腹を上に向けて寝かせ、グッドガールと小さな声で囁きながら耳、お腹、手足をさすってあげる。
クールだったシオナの口元はもう緩みっぱなしだ。






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次にリード使って歩かせる方法。
これには僕たち全員が驚いた。
リードをつけると犬は自然に歩き出すものだと信じ込んでいたからだ。
リードをつけて歩き出そうとするとアプリコットはイヤ、イヤと言わんばかりに頭を振り、まったく歩き出そうとしない。
その鼻先にチキンの骨をちらつかせ、アプリコットを誘導するピーター。
僕たちの眼からはパラパラと鱗が落ちていた。







そもそも数ヶ月前にシオナが言い出したらしい、犬を飼いたいと。
僕は子供のときに2匹の犬を飼っていた経験がある。
雑種のタローとマルチーズのラナ。
なので犬のいる生活の良さや子供たちに与えるいい影響は知っているつもりだった。
しかし、彼らの母親にそれとなく提案しても答えはいつも「冗談じゃない」だった。
「頻繁に旅行に出るのに、そのときは誰が面倒を見るの?」
僕の今の環境では犬は無理なので、飼うとしたら子供たちの住む家だ。
なので彼らの母親に無責任な話を押し付けるわけにはいかない。
ちなみに彼らの母親は一度も犬を飼ったことがないのだ。
シオナが欲しいと言い続け、ソーマが本やインターネットで犬のことを調べはじめた。
マミーも一緒に犬の情報を見ているうちにだんだんと話にノッてきた。
マミーが犬を飼うことに反対する大きな理由は抜け落ちる犬の毛が苦手だからだ。
そんなこと一度愛犬を手に入れたらちっとも気にならなくなると僕は知っているが、愛犬を手に入れたことがない人にとっては赤ちゃんのウンチが気にならない母親同様、理解に苦しむことらしい。
動物アレルギーをもつ夫のための盲導犬を作って欲しい、それがオーストラリアでラブラドゥードルが誕生したきっかけだ。
名前の通りラブラドール・レトリーバとプードルがもとになっているらしい。
(厳密には親犬種として6犬種の血統が認められている)
僕はまったく知らなかったのだが、このラブラドゥードル、オーストラリアで今もっとも人気のある犬といわれている。
ラブラドゥードルの存在を知った子供たちの母親は犬を飼うことを具体的に考えはじめた。
幸運にもオーストラリアで一番大きいラブラドゥードルのブリーダーがタスマニアにいるということを知り、彼女は子供たちとそこを訪れた。
その時出会ったのが生後4週間だったアプリコット。
ソーマ、シオナ、そしてマミー、一瞬でアプリコットに恋をしてしまった。
それ以来、子供たちの家ではラブラドゥードルや犬全般に関する勉強、情報収集を毎日欠かさず行なっている。
家族の一員になるのなら徹底的に愛してあげたい、という思いと同時に家族の一員として責任感のある犬になって欲しいと考えているからだ。
言い出しっぺはシオナだったが、情報収集のスペシャリスト、ソーマも、あれほどまで反対していたマミーもアプリコットを迎えにいく日にはすっかり犬大好き人間になっていた。
ピーターや奥さんのリズからさらに詳しいアドバイスを受けた後、これからアプリコットが暮らすことになる子供たちの家へと僕らは車を走らせた。






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子供たちが住む家のバックヤードでアプリコットはしっぽを振り走り回った。
ソーマもシオナも最近まれに見ぬほどの極上な笑顔。
子供たち、ブリーダーから指示された通りの餌をアプリコットに与える。
小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか、一瞬で餌をたいらげてしまう姿を見て皆大はしゃぎ。
そして、「これで足りているのかなぁ、もっと食べたいんじゃない?」とシオナが言うと、「太り過ぎはアプリコットの健康に良くないって本に書いていたじゃない。それ以上食べさせたらダメだよ!」とソーマ。
「そういえば、まだ水をあげていなかったわねぇ」とマミー。
初の餌タイムから白熱した論議が繰り広げられる。






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甘えてくるアプリコットにビビっていたのは最初だけ。
ソーマ、アプリコットにこれからはじめるトレーニングのことを真剣に説明している。






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そして飽きることなくピーターに教えてもらったリードをつけて歩く練習を繰り返す。






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アプリコットが家にくる前にソーマとシオナが固く約束し合ったこと、それは、、、
•アプリコットをとりあって喧嘩しない。
•大きい声を出したり、アプリコットを興奮させるようなことをしない。
•遊んだら必ず眠らせる時間を作る。
•餌をあげた後は必ず外へ連れて行き、根気よくトイレを教える。

その中で一番難しいことはアプリコットを休ませ、眠る時間を作ってあげることだと思っていたが、僕やマミーがそれを言う前に自分たちでその時間を作っていた。
でも、やっぱりアプリコットのそばにいたいので、、、






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こんなふうに自分たちもアプリコットになりきって時間を過ごす。

前日、興奮のあまり睡眠時間が少なかったソーマとシオナ。
アプリコットが初めて来た家で、一人で寝るのは心配だというソーマとシオナの主張をマミーは受け入れ、マミーの寝室でみんな一緒に寝るということで話がまとまった。
子供たちの強い要望でこの日僕は彼らの家に泊まることになった。
僕が寝るのはシオナの部屋の小さなベッドだ。
壁にたくさん貼ってあるバレリーナのポスターはシオナの憧れ。
カーテンから漏れる月明かりでそれらを眺めているうちに、僕はあっさりと眠りに落ちた。






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翌朝、ドアの向こうでは子供たちがバタバタと廊下を走る音がかなり早い時間から聞こえはじめ、やれやれと言いながら僕はベッドから立ち上がったが、アプリコットがしっぽを振っているのを見た途端、寝ぼけ顔に笑顔が広がるのを抑えきれなかった。






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ソーマとシオナはさっそくリードをつけて歩くトレーニングをはじめている。






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昨日同様、バックヤードで遊び回り






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水を与え






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ごく親しい友達にしか教えない家を囲っている樹々の中にある秘密の隠れ家にもアプリコットを招き入れ






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トランポリンの上でアプリコットを休ませるシオナの表情には愛情が溢れていた。







アプリコット、散歩に初挑戦!
リードをつけて歩く練習を家の中でたっぷりとしたソーマとシオナはアプリコットの堂々とした歩きっぷりを信じて疑っていなかったが、通りを走る車の音、近所から聞こえる犬の泣き声に怯えアプリコットはひぃ〜ん、ひぃ〜んと僕が画像処理に追われ泣いているときと同じ声を出している。
ソーマがアプリコットの鼻先にいい匂いのする食べ物をつけ、やっと彼女は歩き出した。
樹々はタスマニアの秋の夕日でオレンジ色に染まっている。
日没まで最後の数十分の輝きだ。






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週末、子供たちと別れる時、少し長めのハグとキスをするのだか、これからはその儀式にアプリコットが仲間入りだ。
当然、「タスマニアで生きる人たち」のレギュラーメンバーになる。
皆さん、よろしくね!
ワルテル、ソーラ、ライバルは君たちだぁ〜、ワン、ワン!






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by somashiona | 2009-04-20 23:09 | ソーマとシオナ

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