男友だち




以前もブログで書いたが、今年日本に帰ったとき僕の体重は72kgになってしまった。
これは自己新記録。
タスマニアに戻ってから8kg落とし、ここ数カ月は63〜64kgの間を行ったり、来たりしている。
今は思いっきりなんでもパクパク食べているが、8kg落とすまでは、涙ながらの食事制限とエクササイズを強行した。
油コテコテの中華料理や山盛りのアイスクリームが食べたくなったとき、僕はある男の顔を思い出し、「彼をぎゃふんと言わせるまでは絶対食べないぞ」と自分に言い聞かせた。










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実家のある札幌に帰ると必ず僕は歯科医の友人に歯を見てもらう。
大人になってからはじめて僕の歯を抜いたのも彼だ。
彼とは高校を出たあと、札幌代々木ゼミナールで知り合った。
メンズクラブという中学時代から愛読していたファッション雑誌にも札幌のおしゃれ人間として度々登場した彼は僕より1歳年上で、大きな声では言いたくないが、高校時代を田舎で過ごした僕にとってはジェラシーたっぶりの目で見る存在だった。
当時全身をニコルというブランドで固めていた彼を僕はニコル先輩と呼んでいた。
周りの人達からも常に一目置かれていた彼とはじめて会話を交わした時の記憶は今でも鮮明だ。

「あの〜、ニコル先輩、ちょっといいですか?」
「ああ、いいよ。えぇ〜と君はマナブっていったっけ?」
「はいそうです。あのぉ、唐突ですがニコル先輩はどんな音楽を聞くんですか?」

彼のイメージとしてエスビス・コステロ、ジルベルト、コルトレーン、そんなアーティストを僕はいつも思い浮かべていた。
ああ、ジャズやクラッシックの知らないアーティストの名前が出てきたらどうしよう、、、そこで会話が途切れちゃうじゃないか、、、。
そんな心配をしながらニコル先輩に質問したのだ

「う〜ん、そうだなぁ〜、音楽ねぇ、、、」
悩む顔がまた渋い。
くそぉ〜、都会で高校時代を過ごした奴っているのは、どうして僕たちとこんなに違うんだろう、、、と思いながら彼の答えを待った。
「いろんなジャンルを聞くけど、一番好きなのは、、、松山千春かなぁ」
僕はあっけにとられて彼の顔を見つめ、それから吹き出してしまった。
十勝の池田町で中学時代を過ごした僕も松山千春の大ファン(札幌では内緒にしていたが)。
その松山千春ショック以来、僕たちはとても仲のいい友達になった。
まだ十代の時の話だ。

僕たちくらいの年齢になると(40代)男同士で差し向かいになっても楽しい話題がどんどん出てくるわけでないし、抱えてる会社や個人的な悩みなどは余程のことがなければ友達にもそうそう話さないだろう。
しかし十代の頃は違う。
自分の頭に浮かんだことは思考プロセスの深いところに届く前に、とにかく次から次へと口から吐き出され、自分のことを全て相手にさらけ出す。
たぶんそうすることで自分を確認し、自分を理解する相手をひとりでも多く見つけることで、この社会での自分の居場所を見つけようとやっきになる時期なのだろう。
そういう禅問答のようなことを十代の頃にとことんやりあった友人とは数年ぶりに会ってもほんの数分で会っていない間に積もった雪が溶け、顔を出した地面がかつて自分が泥んこになったものと違わないことを知り、ホッとする。

彼とは本当にふだん連絡をとり合わない。
2年ぶり、3年ぶりに話すみたいなことがちょくちょくあるが、間違いなく固い絆で結ばれている。
彼と僕がやっていることはまったく違うのだが、彼と僕には生き方に対する共通した考え方がある。
多くの男達は十代の頃宣言した「オレはこうやって生きていくんだよ」といった類のことを年をとるごとに曲げに曲げ、しまいには「オレ、そんなこと言ってたっけ?」とシラをきってみせる。
世の中のことなんてまったく知らない十代の頃の人生観なんて、世の中の荒波に揉まれたら、跡形もなく消えてしまうさ、とそれが当たり前のように多くの男達は言う。
でも、本当だろうか?
人間が一度持ったコアな部分での「オレはこう生きる」という考え方は、そんなに簡単に消え去るものなのだろうか?
若い頃に感じたものごとは、意外と本質をついている気がする。
三つ子の魂で基本的な性格を身につけ、思春期で悩み、世の中にイラつき、女の子を追いかけはじめ、くだらないことから大切なことまで好きなだけ考え、悩み抜ける十代後半から20代前半に持った「どう生きたいか」「どんな人間になりたいか」は決して青臭い考えではないと思う。
キレイごとだけでは生きていけないとオヤジたちはいう。
そう、キレイごとを押し通すのは大変な犠牲と労力を必要とするから。
彼、ニコル先輩と逢うたび、十代の頃宣言した「オレはこうやって生きていくんだよ」が変わっていないことに心から安心する。
そして、もし僕の「オレはこうやって生きていくんだよ」が変わってしまったと彼が感じたとしたら、もしくは僕自身が認めてしまったら、きっと僕は彼に会いにくくなると思う。

幸運なことに、僕の十代から続いている決して数が多いとは言えない友人たちは常に努力している人たちで、彼ら、彼女たちと会って話をするたび、僕は刺激や影響を受け、ああ、自分も止まっているわけにはいかない、と思ってしまう。

ニコル先輩は社会的に安定した地位を築いても決してそこにとどまらない。
もっといい地位、もっといい収入、人が自分をどう見るか、そんなことに彼はちっとも関心がない。
彼の関心は常に、自分の正直な心が何をやりたがっているのか、そこにある。

彼が新しく開業した「さくらさくデンタルクリニック」を僕は今年はじめて訪れた。
札幌地下鉄円山公園駅の真上にあるクリニックは彼らしくおしゃれだ。
親切で美人のスタッフに歯を見てもらい、ばっちりキレイにしてもらった。
診療時間が終わり、スタッフが帰ったあと彼にこのクリニックが出来るまでの話を聞いた。
自分の家を立てた友人の家にはじめてお邪魔するときや、ビジネスをはじめた友人のオフィスに訪れるときの感覚が僕は大好きだ。
友人の成し遂げたことを心から誇らしく思い、本当に嬉しくなる。
その日、彼と一緒にクリニックをでる前に着替えをする彼の体を見て僕は驚いた。
「くそっ、忙しい、忙しいと言いながら、めちゃ身体鍛えてるじゃん!」
72kgでカメラを持って走るたびに上下に揺れる自分のお腹を憎らしく思っていた時だけに、なおさら焦った。
そしてこのとき、オーストラリアに帰ったらすぐに体を鍛えようと心に誓った。










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彼のクリニックで歯科医として働くもう一人の友人Y君と居酒屋で合流した。
このY君とは大学時代からの友人だ。
もし僕がY君に出会っていなかったら、今この世にソーマとシオナは存在していなかったと思う。
Y君の当時のガールフレンドが僕にソーマやシオナの母親を紹介してくれたのだ。
人生、次の曲がり角に出るまで、その先は分からないものだ。
彼も僕の人生に多大な影響を与えてくれた大切な友人の一人。
こんな昔ながらの男友達と居酒屋であーでもない、こーでもないとやり、その後は真夜中の大ビリアード大会。










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大学時代、僕たちは嫌になるほどビリヤードをして過ごした。
といっても、ポケットやスヌーカーではなく、四つ玉という赤いポール2つ、白いポール2つで競いあうとても地味なゲームなのだが。

この夜、僕は本当に楽しかった。
まるで学生時代に逆戻りした感覚。
その感覚に戻るためにどうしてももう一つだけ欲しいものがあった。
それはタバコ。
僕は禁煙してもう5年以上経つがこの夜久しぶりに吸ったタバコはなかなか、いや、かなり、いや、強烈に美味しかった。
調子にのって、5本ほど吸ってしまった。
(もちろん、その後は吸っていない)
ビリヤードの台を照らすライトの下に揺れる紫の煙越しに彼らの顔を眺める。
キューが鋭く白い手玉を突き、青いチョークの粉が舞い散る。
遊びなのに、馬鹿みたいに真剣になるところも、あの頃と同じ。
年に一度、こんな夜があると、人生はとてもいいものだと、心から思えるのに。










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by somashiona | 2010-10-20 22:51 | 人・ストーリー

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