写真家 アンドレアス・グルスキー











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この写真を見て「あっ」と思った人は写真好きだろう。
この写真は写真家、アンドレアス・グルスキーの作品「Rhein II 」だ。
昨年11月にオークションにて写真史史上最高額の約3億3300万円で落札された。
この写真をネットの画像で見る限り、「え、なんで?どうして?これなら近所の川に行けば僕でも撮れるでしょ」と多くの人は思うに違いない。
この何の変哲もない一枚、デジタル加工が施されていて、ゴミや自転車などの余計なものはPhotoshopで全て排除されている、と聞けばなおさら真の写真ファンの怒りを煽るかもしれない。この写真の実際のサイズは190 cm × 360 cmとかなり大きく、世界に6枚しかない。(6枚もある?)
作品は写真でも絵画でもオリジナルを見なければ評価できないと思う。
この写真を目の前で見た人たちは圧倒され、不思議な世界へ引き込まれたと口々に語る。



「CONTACTS」というモダンポストを代表する世界の11人の写真家が自らのコンタクトシート(コンタクトシートというのは撮ったフィルム1本分の写真の全てのカットを一枚の印画紙に焼き付けること)を下敷きに自分の作品を語るドキュメンタリー映画を観た。
その中でアンドレアス・グルスキーが自分の作品を初期のものから語っているのが、とても興味深かく、彼の写真をもっと見たくなり、しばらくの間ネットを使って彼の作品、彼に関する記事を拾いまくった。
最初に紹介した川の写真は僕もどうもピンとこないが、それ以外の作品、例えば自然の中に人間がごく小さく点在するものや、現代社会を象徴する風景の中で目を凝らすとそこにたくさんの人間がうごめいているものなど、何度でも、いつまでも見ていたくなる作品の数々で、彼がいかに優れた写真家なのかは明らかだった。
彼は祖父も父もフォトグラファーという環境で生まれ育ったが、彼らが撮っている、いわるゆ商業写真というものに興味が持てなかったという。
彼はドイツのベッヒャー夫妻に従事し、強い影響を受けたようだ。
ベッヒャー夫妻といえばタイポロジー(分類学)という分野を写真の世界に定着させた写真家だ。
アンドレアス・グルスキーの写真には、なるほどベッヒャー夫妻の影響が色濃く見える。










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タイポロジー(分類学)という分野といえば、それを一番はじめにはじめたのはドイツのアウグスト・ザンダーだ。
未完に終わってしまったが、ドイツ人の類型を540枚の肖像写真によって構成しようとしたその作品群は写真史の中で今なお光を放っている。
このシリーズをはじめた理由を聞かれたとき、アウグスト・ザンダーは「見る、観察する、そして考えるためだ」と答えたらしい。
そう、これこそ、写真の本質だ。










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さて、話をアンドレアス・グルスキーに戻そう。
彼の写真は見れば見るほど写真の中にどんどん引き込まれてしまう。
細部を見れば見るほど唸ってしまう、そして全体も写真としての美を保っている。
彼の写真を見ていると、どんどん僕自身の撮影の際の観察力のなさを感じ、情けなくなる。
僕は誰かの写真を見るとき、隅々までじっくりと見るが、撮影のとき同じ集中力でしかも短時間に細部を隅々まで見ているとは言いがたい。










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(全てアンドレアス・グルスキーの作品)











隅々までじっくりと見るとはどういうことか?
以前大ブームを巻き起こした絵本「ウォーリーを探せ」をやったことがあるだろうか?










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写真を隅々まで見るというのは、まさにあの感じ。
全体はごみごみした絵なのだがよくよく見るとそこにいる人間たち一人一人が何か面白いこと、バカなことをやっている、そしてついに赤と白のシマシマ模様の服を着たウォーリーを見つける。
誰かの写真を見て、細部を観察して、そして撮影者がおそらく一番見せたかったであろうウォーリーを見つけた時の喜びは大きい。
それが写真の楽しみかただ。(楽しみ方のひとつだ)
それはシンプルなポートレイトでも同じ。
被写体の視線、指先、おかれている環境、洋服、光の当たりかた、細部を見れば見るほどその場の状況、その人のこと、フォトグラファーの心が揺れた理由が見えてくる。
顔は笑っているのに手が固く握られているという太宰の「人間失格」の写真みないなものは、実際よく目にする。
僕の知っている人たちで、本当の意味でのいい写真を撮る人たちは、写真の見方がやはり深い。
そこに何が写っているか、それをとことん掘り下げようとする。
どんなにパッと見が良くても、そこに何もなければそれは、「So What?(で、なんなの?)」写真だ。
この構図はああだったほうがいいとか、露出がちょっと暗すぎではとか、ましてやカメラ何?レンズは何使っているの?Photoshopのレイヤーは?みたいな話は一つも出ない。
写真を人間に例えるなら、あまりにも多くの人々が見た目のいい人間になるための努力で精一杯になるあまり、人間としての中身を置き去りにしている気がする。
どんなハンサムくんもセクシーちゃんも、話をして中身があまりにもなければ、長く一緒にいたいと思わないだろう。(えっ、思う?一晩だけならいい?)
外見に惑わされず、中身もきっちり吟味でき、できれば自分も外と中を充実させたいと思うだろう。
写真もまったく同じだと思う。
良い写真を撮るためにはアウグスト・ザンダーが言った「見る、観察する、そして考える」やはりこれが大切なのだと、しみじみ思う。
最新のカメラ機材を追いかけなくても、僕たちはいつでも素晴らしい写真が撮れるのだ、しっかりとした眼さえあれば。(欲しいけど、、、)










僕のブログでは、ときどき写真家の話をする。
批評家ではないのであくまで個人的な感想、意見であって、その見方は間違っているかもしれない。
このブログを見てくれる人たちは写真ファンが圧倒的に多いだろう。
写真を心から愛する者の一人として、写真がもっと楽しく、上手く、深くなるために、写真史に出てくる代表的な写真家の作品をじっくりと吟味することを勧めたい。
大袈裟ではなく、歴史を見れば自分の立ち位置がわかる。
ものごとすべてにおいて、わかればわかるほど楽しい。(わかってしまったが故のもがきは、幸せと思うべき)
作品を見て、感じて、考えて、それを他の人たちと自分の言葉で議論できるような、そんな写真ファンが増えるといいのにな、といつも思う。











本日の写真










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何度も同じ位置から、同じような時間に、同じような写真を写している。
真剣に撮れば美しい風景写真として成立するポテンシャルのあるポイントだが、僕はやはりそこに人間を入れたい。
この場所で毎回入れ替わり立ち代わる人間たちも、この風景の中で小さなサイズで見ると、そこには人間が持つパワーや尊厳などみじんも感じない。
それはただの点であり、地面を動くアリのようでもある。
じっくりと写真を見ると、そこに彼らの愛犬や手に持っている魚釣りの道具を発見し、はじめて人間の営みのようなものを実感することができる。
人間はこの大地の中ではお釈迦様の手のひらの上の存在であり、お釈迦様の機嫌が悪ければ平和な風景など一握りでかき消されることがしみじみとわかる。
いつまでも平和な風景が続くよう、身の程を知って生きてゆきたい。
人間がコントロールできないものには、理屈抜きで手を出すべきではない。




















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by somashiona | 2012-02-05 10:23 | 写真家

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