写真家サム・エイベルの一枚がすごい理由



久しぶりに写真の話をしたいと思う。
といっても、極めて個人的な見解なので「馬鹿言ってんじゃねーよ」と思う人は聞き流してほしい。


ナショナルジオグラフィックマガジンを代表するフォトグラファーの一人、サム・エイベルの写真について語りたい。

彼は静かな写真を撮るフォトグラファーとして世界中のトップフォトグラファーから一目置かれている。
フォトグラファーというより、詩人といったほうが近いかもしれない。
彼は自分の写真にほとんどスピードライト等の人工光をまったく使わない。
多くの人は気づかないかもしれないが、ナショジオの写真の殆どはとても巧妙にスピードライトが当てられた写真だし、フォトジャーナリズムの仕事でスピードライトを使わないのはかなり勇気のいることなので、これには少し驚く。
彼は2台のカメラに28mmと90mmの単レンズ付け、すべての仕事をこなす。(これも勇気がいる)
フィルムは常に一種類しか持っていなかったそうだ。(信じられない。例えばこれがもしデジカメなら、僕はISO400のjpeg以外は使いません、と言っているようなもの)
撮影方法を限り無くシンプルに切り詰め、ひたすら最高の一瞬を待つ。










写真家サム・エイベルの一枚がすごい理由_f0137354_1917299.jpg











彼の作品の中で最も繰り返し雑誌等に登場するのは、洋ナシとカーテンを前景に配したこのクレムリン宮殿の写真だろう。
僕もこの写真は大好きだ。
これを特集記事の中で使うナショジオの編集者たちも偉い。目がある。写真を分かっている。
しかし、アレックス・ウェブウィリアム・アルバート・アラードなどのナショジオやマグナムのエリートフォトグラファーたちが最も評価するのは、サム・エイベルがカウボーイを撮った一枚なのだ。
彼自身もこれはかなりお気に入りの一枚らしい。


とにかく、じっくりと見て欲しい。










写真家サム・エイベルの一枚がすごい理由_f0137354_19181720.jpg











この一枚、確かに素晴らしい写真だが、写真を愛する多くの人には???かもしれない。
なぜこの一枚が世界のエリートフォトグラファーの心を掴むのか?
それはこの写真の中には単独でも十分成立する素晴らしい間合いとドラマを持った3つの物語がレイヤーとなって重なりつつも、なおかつ一枚の写真として深く、奥行きがあり、調和のとれた美しい作品として成立しているからだ。
サム・エイベル本人がこの写真を撮ったときの意識や思考を順番に説明している。
まず最初に緑のきれいな地平線とその上にのしかかる雲が彼の目を捉えたらしい。
そして口に何かをくわえた赤いシャツの男、写真として絵になる絶好の被写体が現れた。
左横のデニムのジャケットを着た男をフレームに入れることで、赤シャツの男の存在感を際立たせる。
と、普通なら、ここでカシャリとシャッターを切って満足するところだが、彼は違う。
2番目のレイヤーとなるカウボーイたちがフレームに飛び込む。
メインの被写体の二人の間に上手く入ったところでカシャリ、といきたいところだが、天才はまだ待つ。
そして、きたー!マルボロのコマーシャルに出てくるような男が馬に乗って現れた!
普通なら、ここで興奮のあまり手ぶれしそうなくらいの勢いでシャッターをきるところだが、彼はここでカメラのアングルを少し下に傾け、馬の顔やカウボーイが地平線の上に出るようにするのだ。
そうすることによって、この馬に乗ったカウボーイが全体の絵の中に滲み込まず、はっきりと存在感を主張し、絵としてのバランスもより良いものにしてくれる。
最後にサムさんが悩んだのはフレーム右横にある赤いバケツをどうするかということだった。
彼は敢えてこの赤いバケツを入れることにした。
なぜなら、そういう一見余分なものに思えるような偶然が逆に写真にリアリティをもたせ、写真がなおさら写真らしくなるからだ。
こうやって、一枚のコンプレックス・レイヤー・ディープ・フォトグラフィーが生まれるのだ。

「んな訳ないじゃん!全部タダの偶然に決まってるじゃん!そんな能書き、あとで考えたんだよ!」と思ったあなた、それは完全に間違い。
人を撮るフォトグラファー、とくにフォトジャーナリズムとして被写体を追いかけるフォトグラファーは実に多くのことを一瞬で考え、恐ろしく多くのことを一瞬で見ている。
僕のような無名フォトグラファーのレベルでも、そういうことはかなり訓練させられたし、意識して撮っている。
そして、そういう事を意識して撮っているフォトグラファー、そこまで気を配って撮っているフォトグラファーの写真は見ればすぐに分かる。
最初に上げたアレックス・ウェブやウィリアム・アルバート・アラードもそういうフォトグラファーの代表格だ。
身近なところ、僕の友人の中で、そういう目で写真を撮り、いつも僕を唸らせてくれるフォトグラファーはブログ「愛すべきパリの人々」のdauphineさん。
彼女と一緒に写真を撮りながら歩いたことがあるが、体中に目が付いているような人だった。
(なぜか、ずっと男性だと信じ込んでいたので、目の前に現れたdauphineさんが女性だったときの驚きは言葉で表現できません)


と、今日は久しぶりに写真の話。
最近、どこもかしこもフォトショップでねじ上げ、丸め込んでしまったような写真ばかり。
厚化粧をすればするほどリアリティがなくなり、撮影者がそこに立ち、感動したであろう気持ちが共有できなくなるばかりなのに。
ポートレイトの修正ソフトの広告を最近良く目にする。
修正前と後の写真を見せているのだが、ほとんど冗談のようだ。
修正後、肌がすべすべになり、顔の輪郭がシャープになり、唇や目が鮮やかな色になる。
そんな半分アニメーションのようなポートレイトをどうして欲しいと思うのだろう、、、?
ソーシャルネットワークが便利になればなるほど、本当のコミュニケーションの意味を忘れてしまう人がいるように、最近は写真も、どんどん写真の持つ本当の良さから離れてしまっているような気がする。
サム・エイベルの写真のように、ものごと、じっくりと、何層もレイヤーを重ね、深く、細かな部分までじっくりと見ていきたいものだ。


あ、こんな凄い写真の後に、僕の写真は恥ずかしくて載せられません、、、。




あ、そうそう、以前僕のブログで紹介した日本中のお城と銅像を撮る友人のブログ、かなりハイペース更新しています。
内容も僕的にはかなり面白いと思うので、まだ見ていない方、ぜひ覗いてみてください。
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by somashiona | 2012-04-12 20:38 | 写真家

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