グローブ・コレクター


今にも雨が降り出しそうな、重く灰色の雲に覆われた午後だった。
X100を自分の体の一部にする月間は一時間でも時間があれば必ず外で写真を撮ると決めたので、気が進まない天気でも、いい写真なんか撮れっこないさと内心思っていても、自分にムチ打ち歩かなくてはならない。
ノッてない時でも、調子の悪い時でも必ず合格点の写真を撮って家に帰ること、少なくても次の何かに繋がる被写体を見つけること、こういう気持ちで写真に向き合わないと仕事でいい結果を出せない。
しかし、思ったとおりいい被写体にも巡りあえず、自分足元を見ても影のかの字も見えないほど冴えない光で、テンションは下がる一方だった。
おまけに少し雨が降ってきた。
こういう時は、とりあえず民家の塀や壁などを撮る。
どういう訳か、僕は民家、建物の佇まいにひどく惹かれる。
建築写真的観点で見ているのではなく、まるで人の顔を見るようにそれらを眺め、そしてポートレイトを撮るような気持ちで人が住んでいる場所の気配をフレームに収めようとする。












f0137354_21421580.jpg













塗装がはげた民家の家の壁を撮っていると、その家に住んでいる人が家から出てきた。
「なぜ僕の家を撮っているんだ?」と男は僕に尋ねる。
当たり前の質問だ。窓の外に自分の家に向かってカメラを向け、真剣に写真を撮っている人間を発見すれば誰だって不審に思う。
「いやぁ、壁のペンキのハゲ具合とか、窓枠や緑色のこのラインがとても素敵だったものだから、思わず夢中で写真を撮ってしまいました。もう少し続けてもかまいませんか?」こういう時はシャッターを切った理由を素直に語るのが一番。
嘘は結局バレるし、多分自分の顔も卑怯者の顔になると思うので信頼されない。
「この壁が魅力的、、、そうかなぁ、、、僕は早く何とかしなきゃとおもっているんだけど、、、」と男は言う。僕のスイートスポットを彼が理解できなくても責めるつもりはない。
「ところであんた、日本人かい?実は僕、グローブ・コレクターなんだけど」と言って彼はいろいろな話を始めるが、出てくる単語、出てくる単語すべて僕には馴染みがないもので、話の内容がつかめない。
そもそもの誤りは「グローブ・コレクター」という単語を聞いて、僕はすぐに野球のグローブを集めているイメージを頭に浮かべてしまったことだ。
野球のグローブはGloves、彼が話しているのはGlobe、そう、「Light Globe」のことで、これは電球を意味する。
「君は日本のどこ出身だ?」と彼。
「知らないと思うけど、北海道っていう北部の島だよ」と僕が言うと、「それはいい、とってもいい!」と彼は突然、電球のように顔を輝かせる。
彼によると北海道のような寒冷地は(昔)水銀やタングステンなどをミックスさせた特殊な電球を公園や建物の野外で使っていたそうだ。
今ではとてもレアな電球らしい。
彼はマシンガンのように様々な電球の話をするのだが、僕にはどうもイメージわかない。
そんな僕の顔を見て「僕の庭に置いてあるコンテナの中には僕の電球のコレクションが1万個以上あるんだけど、見てみるかい?」と言う。
もちろん、YESだ。

家のゲートを開けてもらい、彼の庭へ行く。
庭と言ってもまるでジャンク置き場のようで、廃品になった洗濯機、冷蔵庫、何かの電化製品の部品のようなものが何台も所狭しと置かれていた。
大きなコンテナのドアを開けると中は段ボール箱だらけ。
僕はまだぜんぜんピンと来ない。
ダンボールのフタを慎重に開け、まるで中から生まれたばかりの赤ん坊を取り出すように、僕が今まで見たこともないような変わった形の電球を彼は披露してくれる。
電球の中はとても繊細に出来た化学工場のミニュチュアのようで、ガラスの外から眺めているだけでも美しい。
「こんな電球、見たことないよ!」と僕が言うと「今君が手にしているのは北海道で使われていたものだよ」とニコニコ顔で彼は言う。
そして、またマシンガンのような早口で電球の話が始まる。
僕が理解できるのは20%くらいなのだが、それでも僕は楽しかった。
僕は誰かが自分の好きなことについて語っているのを見るのがとても好きだから。
そういう人の話は内容も興味深いけれど、なによりも顔がいい。
眼をキラキラさせ、頭で考えるよりも先にパッションが口や身体全体からこぼれ落ちる、そんな人の表情は美しい。
写真を撮らせて欲しい、と頼むと「じゃ、大きな電球を取ってくるよ」と彼。
そこで、僕たちはお互いに自己紹介をし合った。
彼の名前はアンドリュー。
彼が箱から取り出したのは、日本のイカ釣り漁船で使う電球らしい。
日本とアンドリューは、しっかりと美しい電球で繋がっているのだ。












f0137354_21423629.jpg













f0137354_21425378.jpg













実は彼には障害がある。
アスペルガー症候群だ。
アスペルガー症候群は広汎性の発達障害で一般的には社会性、コミュニケーション、想像性などの欠如が障害として認められる。
しかし、限定された物事について信じられないほど高い水準の興味や感心を示すことも知られている。その性質を活かして大成功を収める人も多い。
アスペルガー症候群だといわれている著名人に織田信長、坂本龍馬、ビルゲイツ、アインシュタイン、ダ・ヴィンチ、エジソン、ゴッホ、スピルバーグなどの名前があげられる。
アンドリューの場合、その関心事は電球に一直線だ。
コミュニケーションに問題があるとは思えない。

アンドリューのポートレイトを写していると幼い頃からの付き合いだという友人がやってきた。
「一緒に写真を撮ろう」と僕が言うと、一度は断られたが、最終的には友人も参加した。
アンドリュー曰く、友人の写真嫌いは有名で、この10年来で彼が写真に撮られるところを見たのはこの日がはじめてだと驚いていた。
アンドリューと友人の貴重なツーショットを撮れただけでも、アンドリューには良いプレゼントになりそうだ。

この二人の会話、科学、言語学、生物学、話の内容が半端じゃない。
ひとつの話題が次から次へとあらゆる分野に連鎖し、聞いていて本当に感心してしまった。
見せたいものがあるから家の中に入れとアンドリューが言う。
彼の部屋に入って、僕はまたぶったまげた。
いち個人の部屋とは思えない。
まるで電気修理屋さんか発明家の実験室のよう。
半分壊れかけたパソコンで今彼が手に入れたいと思っている電球の写真や、いままで彼がコレクションした電球の写真を見せてもらう。
半端じゃない、、、。












f0137354_21433814.jpg













f0137354_21432054.jpg













帰り際、アンドリューは「僕のドキュメンタリーフィルムがあるんだけど、見てみるかい?」という。
「僕のドキュメンタリーフィルム、、、それって君が主人公の映画ってこと?」と聞くと、まるで昨日の天気予報では雨が降るって言ってたよねという質問に答えるように「うん、そうさ」と彼は言った。

ポスターと映画のコピーをもらい、僕は家に帰った。
ドキュメンタリーフィルムはソーマと一緒に観た。
なかなか面白かった。
ソーマもかなり気に入っていたようだ。
映画の中で彼は「僕は障害者という言葉が好きじゃない。これは僕の障害じゃなく、違う種類の個性、違うタイプの人格なのさ」と言っていた。
そう、彼はたまらなく楽しくて、個性的な男だった。












f0137354_21435037.jpg
















ザ・グローブ・コレクターのトレーラーはここで
「The Globe Collector (Trailer)」


















人気ブログランキング」参戦中。
本気でポチッとしてねー!
↓ ↓ ↓
人気ブログランキングへ

「犬も歩けば被写体に当たる」というのはあなたのことです、と思った人はポチッとよろしく!









このブログへのご意見、ご感想がありましたらEメールにてtastas65*yahoo.co.jp
(*マークを@に変えてください)のアドレスにぜひお寄せください。
また、お仕事のご相談、依頼も大歓迎です!












by somashiona | 2012-09-12 21:52 | 人・ストーリー

<< previous page << ニューノーフォーク、朝の散歩 | 自分の顔 >> next page >>