新聞の匂い




僕は鼻が利かない。
決して何かを見つけたり、判断したりする能力が低いという意味ではなく、文字通り、匂いをかぐ力、嗅覚が弱いのだ。
子供たちからは「ミスター・ノー・ノーズ」(鼻無し夫さん)と呼ばれているし、加齢臭に気がつかず、いつまでも若いつもりでいられていいと友人から羨ましがられたりもする。
とにかく、匂いに鈍感だ。

今まで食べたことがないものや、真新しい食材を目の前にすると、まずは匂いを嗅いで、一瞬なにか思考した後、それに手をつけはじめる人がいる。
僕の場合、腐った物も、食べてみて、味がおかしいと思うまで気がつかない。
匂いに敏感な人は男性よりも圧倒的に女性が多い。
どんなに素敵な男性も、匂いの方向性が(芳香性)自分の生理に反すれば、それ以上関係性の発展はない、と多くの女性が言うのを聞いた。
あるオーストラリア人の女性の友人は新鮮な匂いより、少しだけ汗臭いほうがグッとくる、と言っていたし、ある女性は彼氏の左脇からほんの少しだけ漂うワキガの香りに愛おしさを感じるとさえ言う。
僕には理解出来ない。

先日一緒にドライブをした女性も匂い敏感派だ。
彼女が男勝りの運転をするその助手席で、僕は面白い話を聞いた。
彼女が小学生だった頃、世の中で一番好きなものは新聞紙の匂いだったそうだ。
正確にいえば、新聞紙から漂うインクの匂いだったろうが、小学生の彼女にはそれはとにかく新聞の匂いなのだ。
いつでも、どんな悲しいことがあっても、新聞紙を顔に近づけ、胸いっぱいにその匂いを吸い込めば、彼女はいつだって至福のときを過ごせた。
あまりにも、あまりにも、その匂いが好きだった彼女は、ある日新聞紙を食べてみたいという思いにかられた。
小学生の彼女だって、新聞紙が美味しいはずがないことくらいわかっている。
分かっていても、それを口元へ近づけ、舌の上に乗せ、奥歯で噛み締めてみたいというおもいにどうしても抗うことができなかった。
食べてみると、やはりそれは美味しさのかけらもなかった。
この上なく素晴らしい匂いと、その味のギャップに、彼女はかなり落胆したが、それでも、新聞紙への愛が弱まることはなかった、という話を僕に聞かせてくれた。
僕はまるで、小学生だった彼女のすぐ脇に立って、その様子をつぶさに見ていたかのように、全ての様子を思い描くことができた。
今はもう十分に魅力的な大人の女性が、赤いランドセルをまだ背中に背負ったまま、両親がいない居間のソファの片隅に立って、テーブルの上で夕方のオレンジの光に照らされた新聞紙を手にとり、そこに顔を埋める様子を想像するのは、ちょっとセクシーな経験だった。













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写真はテキストと無関係です

























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by somashiona | 2013-06-07 19:07 | デジタル

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