クモとサソリ

僕は虫が苦手だ。
特にクモは子どもの頃から恐怖感を拭えずにいる大きなハードルの一つだ。
日本にいた頃は車の運転中にフロントガラスを移動する2〜3mmのクモを発見し、パニックを起こし、何度も事故りそうになった。

ここタスマニアでは「男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない。」(ひさびさにチャンドラーを読みたくなった)
そしてその優しさは、どうやらクモに対しても例外ではないようだ。

ある日、僕は食事に呼ばれ、テーブルについて、たくさんの人たちと楽しい時間を過ごしていた。
ショートパンツをはいていたのだけど、足に何かが触れたので、テーブルの下に頭を突っ込んでみると、3cmほどのクモが僕のすねの辺りを這っていた。
驚いた僕はいつもの癖で、わぁ〜!と声を出し、頭をテーブルに強打した。
楽しい会話は吹っ飛び、皆心配そうな顔をして、どうしたのかと僕に尋ねた。
「ス、スパイダー、ヒアー」と引きつった顔で僕が言うと、みな一斉に「So?(それで?)」と肩をすくめて、両手のひらを上にあげた。
隣にいた可愛らしい女性が笑顔でテーブルの下にしゃがみ、手のひらにそのクモを乗せて外へ逃がしてあげるのを見ながら、僕はこの件に関して、自分を変える必要性があると、強く思った。
その後、皆の会話は冗談まじりに、日本のサムライ・スピリットの話しになり、僕はさっきのクモよりも小さくなっていた。

この土地に生きている限り(どこでもそうだと思うが)、大の男が取り乱す姿など見せてはいけないのだ。
そして、オージーの男たちは人に涙を見せることを本当に嫌う。
父が亡くなって以来、涙腺が完全に故障している僕は、「ファインディング・ニモ」を観ても、目をうるうるさせてしまう。
それを見たオージーの友人が僕の耳元で「マナブ、ボーイズ ドント クライ」とささやく。

数日前、深夜、まさにベッドで眠りに落ちようとしているその時、何か視線のようなものを感じた。気になってベッドから起きて電気をつけると、ハンスマンスパイダーが枕元の壁に張り付いていた。
もちろん、僕の背中は凍りつき、口元からは自然と「うひゃ〜」という言葉が漏れていたが、僕は自分を落ち着かせ、台所からプラスティック容器と紙を一枚とりにいった。
さあ、これは自分に課された試練だ。
誰も見ていないところで、どれだけ自分をコントロールできるのか試すのだ!
自分自身にガッツを見せてやれ!
訳の分からないことを呟きながら、壁にまだハンスマンスパイダーが張り付いていることを祈りつつ、汗ばんだ手でベッドルームに戻った。
いる、まだそこにいる。
ハンスマンスパイダーはそのヘアリーで大きな身体に似合わず、非常に逃げ足が速い。
一度取り逃がすと2度目の捕獲はほとんど不可能。
もしもベッドルームで彼を取り逃がすと、僕はしばらくその部屋で寝られなくなるだろう。
失敗は許されない。
そして、、、、無事捕獲成功。
眠気は完全に吹っ飛び、僕はかなり気を良くしていた。
こういうことを出来るようになった自分が誇らしいのだ。(頭の中は5歳くらい)
調子に乗って写真撮影を始めた。
ふたを開けなければクリアーに写真を写せないことに気がつき、ためらいはしたものの、蓋まで開けてしまった。
カメラを持つと何でも出来きてしまうのが、フォトグラファーの特性だ。
大きさが分かるようメンタームを容器にいれ、数枚とった後、な、何と彼はもの凄いスピードで脱出してしまった。
もちろん僕は再び「ひぇ〜〜〜」と悲鳴をあげた。
先ほどの誇らしげな自分など微塵もなく、ふたを開けてしまったことを心から後悔した。
しかも、僕のリビングの絨毯はハンスマンスパイダー色。
模様なのか、ハンスマンスパイダーなのか、区別できない。
捜索活動に約2時間費やし、諦めはじめたとき運よく再び発見し、捕獲。
今度はそのまま外に持っていき、彼を逃がしてあげた。

「もう来ないでね」と呟きながら。

以前洗濯物を干しながら、同じフラット(アパート)に住んでいる女性とクモの話しで盛り上がった。
「でも、私、クモよりもサソリのほうがイヤだわ」という彼女の顔を、僕はまじまじと見てしまった。
「サソリ? そんなのタスマニアにいるの?」
「いるわよ。特にこのマウントネルソンにはたくさんいるわ」
あきらかに葉っぱ(マリファナ)のやり過ぎで、目が空ろな彼女の話しを、僕はその時まともに聞いていなかったが、その後、何度もサソリを発見し、これも僕をたいそう怖がらせた。
友人曰く、このサソリに刺されても、蚊に刺された程度のダメージですむらしい。
毒が有る無しに関わらず、これも僕にたくさんの試練を与えてくれる。
でも、こうやって少しずつ、僕はタジー(タスマニア人)に近づいていくのだろう。

「男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」



f0137354_8393943.jpg



f0137354_840597.jpg



f0137354_8402498.jpg



f0137354_8404453.jpg



f0137354_841468.jpg


ブログランキングに参加しました。
もっと多くに人に僕の写真を見てもらいたいからです。

でも、子どもと過ごす週末、取材で家を空けているときは、記事をアップしないだろうと思います。我がまま勝手ですが、僕にはそういう時間が必要なのです。

そんな僕のブログですが、みなさん、応援よろしくお願いします!


ranking banner ランキングに参加しています。クリックをお願いします!

by somashiona | 2007-04-04 08:50

<< previous page << ホバート・ショウ・デイ 写真展... | アリーとナキータ >> next page >>