マークとフィービー

僕のフラット(アパート)に新しい人たちが引っ越してきた。
お隣さんだ。
とても若いカップルだった。

このフラットの住人の社交場は裏庭である。
タスマニアの庭には必要不可欠な、ヒルズホイストと呼ばれる回転式物干に洗濯物を干しながら、とりとめのない話しをするのだ。
若いカップルの彼らとも、何度か言葉を交わした。
元気一杯のマークはスーパーマーケットで週3回働き、ほとんど聞き取れないくらいの小さな声で話すシャイなフィービーは今失業中らしかった。
生活できる最小限の労働をし、後は楽しむ。
タスマニアに住む人たちの典型的なライフスタイルだ。
二人ともいくつくらいなのだろう?
きっとまだ20代前半だと思う。
しばしば街で彼らを見かけたが、二人はいつだって微笑みを交わし、燃えるような瞳でお互いを見つめていた。
勝手な想像だが、きっと初めての大人の恋をしているのだろう。
どこかで偶然出会い、恋が芽生え、つきあいが始まり、はじめて異性と生活を共にする。
そんな初々しさがとてもまぶしいカップルだった。

心が惹かれる人を見つけると、すぐに写真を撮りたくなるのが、僕。
いつか彼らを撮ろうと思いつつ、そのチャンスはなかなか巡ってこなかった。

彼らが引っ越してきてから、半年もしないある日、裏庭で乾いた洗濯物をかごに入れるマークを見かけた僕は、モデルになってくれないかと聞いてみた。

「ああ、マナブ、なんていう偶然なんだろう。僕たち、今日のフラットを出るんだ。二人が初めて生活を共にしたこのフラットで、最後に記念写真を撮らなければいけないって、ちょうどさっき、フィービーと話していたところなんだよ」

さっそく僕は、部屋からカメラを持ってきて、彼らのフラットに入った。
そこには、もうすでに段ボール箱一つなかった。
がらんとした部屋の窓からは春の日差しが差し込んでいる。
普通なら得体の知れない寂しさを感じるはずの空っぽの部屋は、二人がそこにいるというだけで、温かい空気に包まれていた。

「ところでどうして引っ越すのさ、半年くらい前に越してきたばかりじゃない?」
「一緒に住む人間がもう一人増えるのさ。まだこの中にいるんだけどね。」と言ってマークはフィービーのお腹を優しくさすった。
そのマークの手に自分の手を重ね、微笑むフィービーの笑顔は、とろけるほど甘く、この世の幸せを独り占めにしているかのようだった。

「よし、それじゃあ、新しい門出にふさわしいポートレイトを撮ろう!これから親になる人間のポートレイトだからね。しっかりといい顔してくれないと、、、」
二人はすでに口づけを交わしていた。

あれから二人には会っていあない。
僕が送った写真を額に入れて飾ってあるという手紙が、一度、二人から来た。

きっとどこかで、口づけを交わし、あの燃えるような瞳で小さな赤ん坊を見つめているのだろう。






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by somashiona | 2007-04-13 03:16

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