タルガ・タスマニア

カシミアのお気に入りセーターを久しぶりにひろげてみる。
スウェードのワラビーシューズにコーディロイジーンズ。
エスプレッソ・コーヒーメーカーとピクニックブランケットをバックに詰める。

少しだけひんやりとした空気を胸一杯に吸い込む。
空はどこまでも高く、青い。
赤や黄色のヨーロビアンツリーに彩られたダーウェント・リバー沿いを歩けば、深まりゆくタスマニアの美しい秋を堪能することができる。

しかし、4月の6日間だけはこの静かな牧歌的風景の中に、異変が起こる。

羊たちが群れる丘陵の連なり。
その間をくねくね縫ってのびるアスファルト道路に、クラッシックカーが走る。
コナーでは車体をひっくり返りそうなくらい傾け、タイヤが悲鳴を上げる。
そのスピードは尋常ではない。
オープンカーのシートにいる二人は、ヘルメットとゴーグルをし、首から赤のスカーフをなびかせる。
見るからに品の良い、ご高齢のカップルのようだが、よく見ると、口がへの字に曲がっている。この二人、本気だ。

そして同じ道を、さらに尋常ではないスピードでフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニが疾走する。

年に一度開かれる「タルガ・タスマニア・ラリー」のシーズンだ。

1992年にスタートし、今年で第16回目を迎えるこのラリーは、世界でも珍しいオール・ターマック(全舗装道路)のレースだ。
昨年は美しいクラッシックカーから最新鋭のスポーツカーにいたる241台の車が参加し、秋のタスマニア島2000kmを駆け巡った。
毎年この時期にレースを追いかけながら、タスマニア中を巡る旅行客もいるらしい。
昼間はレースを観戦し、夜はおいしい食事とワインでレースの話しに花を咲かせる。
市街地を完全封鎖し、民家の建ち並ぶ住宅街をスピード全開で走るコースも設定されている。
自分の家の玄関の前を火花をあげたフェラーリが走るのだ。
たとえカーマニアでなくても、自宅の庭からそういったレースを観戦できるのは、楽しいものだろう。
庭に車が突っ込んでこない限りは、、、。

僕はモタースポーツに関して(というより車全般に関して)まったく関心のない男だが、そんな僕でさえもタルガ・タスマニアというイベントの盛り上がりが、ここタスマニアだけではなく、オーストラリア全体に広がっているのを近年はひしひしと感じていた。
今度こそは逃すわけにはいかないという思いで、昨年はじめて、このラリーを取材した。
昨年は日本からも7台13人がエントリーし、僕は日本からの参加者を中心にこのラリーを追いかけた。
ラリーの参加者のみならず世界中から駆けつけたモータースポーツ・ファンから多くの情報や面白いストーリーを聞かせてもらい、車には関心のない僕だが、予想に反して充実した時間を過ごした。
ボンネットを開けたレースの車を囲み、エンジンを覗き込む人たちの間には、参加者と観戦者、プロとアマチュア、男と女、子供と老人、そして国際間の垣根を越えて「好きなことは同じさ」という独特の一体感が漂っていた。
これはある意味、車に無関心な僕には入り込めない世界だったが、傍観者として僕はとてもこの空気をとても楽しむことができた。

どんな取材でもそうだが、写真を撮るからには自分自身の心に響く何かを見つけなければならない。
もちろんクライアントや読者の興味、関心を満足させるようなものを撮らなければいけないのだが、その前に自分自身が引きずり込まれるものが、僕には必要だ。
車が珍しいとか、絵になる風景がそこにある、もしくは有名人がそこにいる、それだけでは写真を撮る動機としては弱いのだ。
車のレースだからといって車にこだわる必要はない。
どんな取材対象でも、「自分の目には何が映ったか」という視点が僕にはどうしても必要だ。
これを見つけないと、自分の中でストーリーが始まらない。
冷めた目で撮ったものは、どんなに上手くても、やはり何かが足りない。
自分の中でストーリーが歩きはじめると、ただの走る車の写真であっても、そこに何かが宿る気がする。
そう思っているだけかもしれないが、、、。
しかし、思い入れは熱になる。
熱が出ないと汗も出ない。
汗をかいていない写真は、やっぱりどこかつまらない。
1/500秒のシャッタースピードの中にも熱があれば汗を感じる。
1/15秒だと違った意味で汗が出る。
冷や汗だ。
しかし、たとえそれが冷や汗であったとしても、写真には汗が欲しい。

正直な話し、僕にとって車の順位などは、どうでもよかった。
ラリーに参加するには何かとお金がかかるので、参加者は必然的に僕よりも年輩の方が多かったが、このレースで一番印象だったのは、この不良おじさん、根性の入ったおばさんたちの、何とも生き生きとした顔だった。
それはまるで少年、少女の顔。オモチャをいじる子供の顔だ。
好きなものがある、夢中になれるものが生活の中にある、という人たちが真剣に、ある意味では命がけで、それに取り組んでいる姿は「人生はいいものだ」という、しみじみとした希望を僕に与えてくれた。
もっと歳をとったとき、あんな顔でいられたらいいのに、と思った。
こういう人たちに出会うと、僕の写欲は身体の底から沸々と沸き上がる。
そのモードに入ると、何にレンズを向けても、自然と熱が上がり、汗が出る。
念のために言っておくが、僕は普段、汗っかきではない。





f0137354_1624222.jpg




f0137354_16244389.jpg




f0137354_1625135.jpg




f0137354_16251912.jpg




f0137354_16253561.jpg




f0137354_16255226.jpg




f0137354_1626103.jpg




f0137354_16263122.jpg




f0137354_16264972.jpg




f0137354_1627650.jpg




f0137354_16272825.jpg




f0137354_162855.jpg




f0137354_16493773.jpg





タルガの雰囲気、少しだけ伝わりましたか?
人物の写真はまだ出せないものがたくさんあるので、車が主体になってしまいました。
明日からタルガ・タスマニアがはじまります。
その取材のため、しばらくブログはお休みします。
楽しみにしてくれている皆さん、ごめんなさいね。

ああ、明日は午前3時起床だ、、、。
ではでは。



ranking banner ランキングに参加しています。応援のクリックをお願いします!


by somashiona | 2007-04-16 16:52

<< previous page << 羊が一匹、羊が二匹、、、 | ナショナル・ジオグラフィック・... >> next page >>