写真人生のはじまり



20代の頃、僕はいつも悩んでいた。
自分は何をすべきなのか?
何をするために生まれてきたのか?

誰もが通る道だ。

学生の頃、数えきれないほどのバイトをした。
これだと思う職は一つもなかった。

一人、オートバイで日本一周をした。
多くの人と出会い、多くの人生を見せてもらった。
でも、自分が何をすべきかは、まだ分からなかった。

そうこうしている間に、4年間の大学生活が終わりに近づき、まだハッキリと目標が定まらないまま、一社だけ就職活動をし、第一志望の会社にすんなり就職できた。

サラリーマン生活がはじまった。
仕事は面白く、やり甲斐もあったが、かたちに残らないサービスを提供し、他人のお金儲けのお手伝いと、自分の成績達成を気にする毎日に疑問は膨らむばかりだった。
この仕事をやるために生まれてきたのか?と自問すると、答えは100%「ノー」だ。

大学の教授が「物書きになれ」と僕に言ったのを思い出し、仕事が終わった後、夜中に小説もどきを書きはじめた。夜は気持ちが昂揚し、雄弁に愛や人生を語るのだが、朝、書いたものを冷静になって読むと毎回顔が赤くなった。
この道も僕には不可能だとあっさり悟った。

ある日、本屋でローバート・フランクの写真集『アメリカンズ』を偶然見た。
目からウロコが落ち、脳天には雷が落ちた。
その写真集の中には、僕がいつも感じているがどう表現していいか分からなかった生きることへの詩がぎっしりと詰まっていたのだ。
突然、僕の周りに何人もの天使がひらひらと舞い、雲の隙間から射し込んだ光りの中には天職を見つける女神が微笑みかけている。

これだ!
写真だ!
写真にはこういうことができるんだ!
写真なんてカメラさえあれば誰でも写せる!
写真家になろう!

この日から人生が変わった。

仕事をしている時いつも目に入っていたカメラ屋さんに直行し、そこのオヤジさんにカメラを買いたい、と言った。
どんなカメラが欲しいと言われたってカメラの知識ゼロ。
「あんた、凝り性かい?」オヤジさんは僕に聞いた。
「たぶんそうだと思う」
「じゃあこれで決まりだ。ちょうど良いコンディションのがある」
ニコンFM2だった。
フィルムの入れ方を教えてもらって、オヤジさんの言う通りにポジフィルムを3本買い、外に飛び出した。
生まれて初めての自分のカメラ。
カメラにフィルムを入れるのもはじめて。
調子に乗って3本一気に撮りきってしまった。
しかし、現像所から受け取ったポジを見てショックを受ける。
全てのコマが真っ黒。
ワンカットも写っていない。
すぐにカメラ屋に行って、オヤジに文句を言った。
「オヤジさん、このカメラ壊れてるよ!見てこれ!何にも写ってないよ!」
オヤジはポジを見て、そしてゆっくりと老眼鏡を目の下にずらしてから僕にいった。
「露出はどう合わせた?」
僕は眉間に皺を寄せていった。
「露出って、何のこと?」
「何のことって、あんた、シャッタースピードと絞りの話しだよ」
「シャッター、、、シボリ?おしぼり?、、、、????」
僕は本当に何も知らなかった。
ピントさえ合わせれば、写真は写ると思っていた。

これが僕の写真人生のはじまり。
27歳の冬だった。







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Hobart, Tasmania

長い間フォルダに入れっぱなしで忘れていた写真を見つけアップしました。
写真を見ながら何の話しを書こうかなぁ、と考えているうちなぜかはじめてカメラを買ったときの話しを思い出しました。
テキストと写真は無関係です。
悪しからず。








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by somashiona | 2007-06-21 22:20 | デジタル

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