ヨハンおじいさんの唄-4



ヨハンおじいさんと出会ってから1年があっという間に過ぎ、再びシェフィールド壁画フェスティバルの季節がやって来た。

この年も僕はシェフィールドを撮りに行くと決めていたが、それ以上に今回はヨハンをきちんと撮りたいと思っていた。
ヨハンには事前に電話をし、フェスティバルの期間中に訪問する旨を伝えた。
彼はまるでクリスマスが近づいている時の子供のように僕を心待ちにしてくれた。今回はB&Bではなく、ヨハンの家に泊まる。

朝日が昇る時間にシェフィールドに到着したかった。
ホバートからシェフィールドまではよく晴れた日中のドライブでも時速100キロで車を走らせて5時間近くかかる。
深夜に出発すれば時間はさらにかかる。僕がフェラーリと呼んでいるスズキの小型車だとなおさらだ。
タスマニアの夜間の運転は街灯がない真っ暗な道を走るだけではなく、カンガルー、ワラビー、ポッサム、そういった夜行性のたぐいの動物たちがヘッドライトめがけて突っ込んでくるのでスピードを落とす必要がある。
彼らの命を助けようとハンドルを切ると、自分があの世に行く。
僕のフェラーリはCDプレーヤーどころかラジオすら壊れていて動かないので、5時間以上もヘッドライトにぼんやりと照らされる深夜番組が終わった後のテレビ画面のノイズのような路面をじっと見つめ続けなければならない。世の中の悲惨な出来事から女体の神秘まで様々なことを考える時間が山ほどある。もちろん、道中カフェもマクドナルドも開いているお店など一つもないので、スナック、コーヒー類は事前に車内に用意し、30分もたてば運転席はポテトチップスの残骸だらけになる。

日の出前にシェフィールドに到着したが、撮影場所を決めていなかったので真っ暗で何も見えない町周辺の道をただ闇雲に走り回る。
風景撮影に慣れていない僕はあっという間に過ぎ去ってしまう日の出と日没のあの美しい時間帯になると、きまって落ち着きなく無駄な動きをする。
いつも事前に撮影場所を決めていないので、一番光りが綺麗な時にどこを写すか絞り込めないのだ。
結局、いい場所を見つけた時はもうそこに欲しかった光りがない。
どうも釣りと風景写真は僕には向かないらしい。




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思うような写真が撮れなかったが、それでも気持ちのいい朝の撮影を終え、僕はヨハンおじいさんの家に向かった。
午前7時30分、この時間に寝ているお年寄りはいないだろう、と何の根拠もなく思い込んでいた。









チャイムを鳴らしても誰も出てこない。
壁画フェスティバルの期間中に訪れるとはヨハンに言っていたが、この日に訪れるとは言っていなかった。いつだってワークショップか家にいるから連絡を入れる必要はない、と彼は言っていた。
何度かチャイムを鳴らしたが家は静まり返っているだけなのでもう一度後で出直そうとドアに背を向け、数歩あるき出したとき「おおぉ〜っ、すまん、すまん、マナブ、待たんかい!」と背後からヨハンの声がした。




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「ヨハン、おはよう!ひょっとして寝ていた?」
「いやぁ〜、それが、そのぉ〜、、、いつもはこの時間、起きているんじゃが、、、は、は、はっ!」
「ごめんね、起こしちゃったんだね」
「なぁあに、今起きようと思っていたところじゃよ。とにかく、中に入んなさい、入んなさい。コーヒーじゃ、朝食まだ食べとらんじゃろ?」
「そういえばお腹ぺこぺこだ!」
「わしはその前に朝の用事を済ますよ。おっ、いけない!いっ、急がねば、、、」
と言ってヨハンはお尻をおさえながらLADIES TOILETと書いてある厠へ向かった。
その姿があまりにも可愛らしかったので「ヨハン、朝の一仕事の前に朝の一枚だよっ!さあ、トイレの前に立って、立って!」とカメラを彼に向けた。
そして「あれっ、スイッチが入っていないや。あれ、あれ、コンパクトフラッシュがもう満杯だ!」とわざとゆっくりと立ち振る舞い、ねちねちと朝の攻撃を仕掛けた。
「はっ、早くせんかねっ!きっ、緊急事態なんだよ!エマージェンシーだ!」




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家の中に入ると、ヨハンは僕のために朝食を用意してくれた。
「トースト、ウィートヴィックス、シリアル、オートミール、何がいいかね?」
「ヨハンと一緒でいいよ」
「わしはウィートヴィックスとシリアルをミックスして、それにお湯とスキムミルクを入れるのじゃが、それでよいかね?あっ、ハニーも入れてあげよう。朝は甘いものを身体が欲しがっているじゃろう」

朝一だったのでネスカフェを入れたお湯は沸かしたてだった。
ヨハンは幸せそうに簡素な朝食を食べている。
僕も幸せだった。




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ヨハンが食器を洗っている間キッチンの中を僕はまじまじと見た。
前回、ここを訪れたときはまったく気がつかなかったが、そこらじゅうに医者から処方されたクスリが置いてあった。




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(つづく)


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by somashiona | 2007-07-17 19:59 | 人・ストーリー

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