ヨハンおじいさんの唄-5



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このパワー溢れるおじいさんがクスリ漬けの生活を送っていると知って、僕はショックだった。
だが同時に、ヨハンを以前よりいっそう身近に感じた。

僕も身体が弱く、ありとあらゆるクスリのお世話になっている。
僕の心安らぐ場所はクスリ屋さんだ。
薬局に入り、色とりどりのクスリたちに囲まれると、僕は妙に落ち着く。
つい先ほどの自分よりも健康体になったような錯覚に陥り、必ず何かしらのクスリを買ってしまう。どこかに出かける時もカメラバックや洗面道具の中に少なくても3種類の強めのクスリを常備している。これをバックの中に入れ忘れただけで体調不良になる。かなり重症だ。
もし寝ている間、夢の中に神様が現れ、「お前はとても正しく、清らかに生きているから一つだけ願い事を叶えてやろう。どんなことでもいい。さあ、目をつぶって言ってごらん」と聞かれたら、僕は迷わずこう言うだろう「神様、僕に健康体を下さい。毎日、頭のてっぺんからつま先まで、どこも調子の悪い所がなく過せる身体を下さい!」
「世界に名を轟かす天才写真家にしてください!」は健康の次だ。
そして天才写真家の次もまた願い事を叶えてくれるチャンスがあるのなら、「モテモテ男になって世界中の美女とハーレムで生活させてください!」とお願いすることに決めている。


ヨハンが持っていた喘息用のスプレーと同じものが僕のポケットにも入っていたのでしばらくこの話題で盛り上がった。
喘息持ちはお互いの苦労を良く知っているので、国籍や年齢を超えて理解しあえるのだ。
病気持ちもたまには御利益がある。

「もう70歳を過ぎた。体中に故障があって当然なんじゃよ。いいかね、病気を敵にまわしちゃいかんよ。上手く付き合うんじゃ。相手をよく知って、時にはゆずるべき所はゆずるんじゃよ。そうすれば奴も優しくしてくれるんじゃ。お前さんにもそういう経験はあるじゃろうが?」

僕は自分の身体の問題を嫌っている。憎んでいると言ってもいい。
だけど最近は、この数々の健康上の問題が僕に思考や理解というものを与えてくれているのではないだろうか?と考えはじめている。苦痛や不快感の中で生きるということは注意深く行動することであり、慎重に判断することであり、そして調子のいい時はそのことに感謝することでもあるのだ。
僕は病気を抱えつつも明るく、前向きに生きる人にとても惹かれるし、病気に苦しむということを理解しない人との人間関係に限界を感じる。









朝食の後、ヨハンは僕と写真を撮りに行きたいのだが構わないか?と片方の肩にニコン、もう一方にカメラバックを持って僕に聞いた。やる気満々だ。
僕は風景よりもヨハンとの散歩を楽しみたかったし、何より彼を撮りたかったので喜んで彼についていった。




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写真を撮る時の彼はかなりシリアスだ。気軽に話しかけられない。これはもう、プロ、アマを問わず、真剣に写真と勝負する人から発せられるオーラなのでどうしようもない。そんな時は少し距離を置いて、その人の世界が一度幕を閉じるまで待つしかない。




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ヨハンはシェフィールドに住むローカルの人たちと何度も立ち話をし、その度に僕を紹介してくれた。
そして僕は挨拶代わりのポートレイトを撮った。
以前に僕のブログで紹介した「シェフィールドの男たち」がその時の写真だ。




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この小さな田舎町に多くの国籍がひしめき合っている事実に僕は驚いた。
この人たちはこの町に来てからというもの、止まった時間の中で生きているような気がしてならない。




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彼らには信じるものがあるので、世の中がどう動いていようが知ったこっちゃない、という感じだ。
一種の宗教のようだ。群れないアーミッシュというところだろうか。
そして彼らをここに引き寄せ、彼らが愛し、信じるものは、他でもないこのマウントローランドなのだ。
本当に不思議な町だ。
この山が噴火でもしたら、この町の人たちは幻のように消えてなくなってしまう気さえする。









この日一日、僕はヨハンおじいさんをゆっくりと観察した。
ヨハンも僕に彼の生活のすべてを見せてくれた。




ワークショップで作業する彼。
木に触った瞬間に職人の顔に戻る。




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彼の愛するクラッシック音楽のコレクションを僕に聞かせる彼。
彼が手書きで作ったデータベースには驚いた。
ステレオの音量を調節する彼の顔は指揮台でタクトを振る小澤 征爾さながらだった。




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僕の思い入れが強くなっていくと、彼の履く靴や椅子までが僕には特別な物のように見えてくし、食事をしている時の彼は『最後の晩餐』のような神々ささえ感じた。




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だが一度、「マナブ、お前さんはわしが小便をする時も写真を撮るんじゃな」と言われ、僕は我にかえった。




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(つづく)


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by somashiona | 2007-07-18 19:39 | 人・ストーリー

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