ビッグ・フォーティー、夢のフライト
この国では40歳の誕生日を盛大に祝う。
「ビッグ・フォーティー」と言うらしい。
ちょっと前の話しになるが、(だいぶ前かなぁ?いやそんなに前の話しじゃないと思う。うるさい?)僕の40歳の誕生日は盛大だった。
その頃、僕はホバートに寿司ブームを起こした革命的お店sush for sushi (お店の名前です)でマネージャー兼スーパーバイザーをしていた。
サンドライトマトロール、アボカドロールなど日本人の発想からおよそ離れたメニューの数々はグルメ写真家相原正明さんが唸ってしまうほど美味しいのだ。
僕の40歳の誕生日を知ったスタッフたちは水面下でビックパーティの準備を進めていてくれていた。
小さなお店だったがそれでも30人以上のスタッフを抱えている。
皆ナイスな奴らで超働き者だ。
お店のオーナーはバリバリのオージー、デイヴィッドとスコットの二人だ。
まだ30代前半のまったくタイプの違う二人が経営するこのお店には常に日本の音楽、ファッションが絶妙に食とマッチしたかたちで演出され、今までタスマニアに無かったまったく新しい雰囲気を醸し出していた。
そういうものに敏感なのはやはり女性だ。お客さんの80%を女性が占めていた。
お店のカウンターにはスタッフにしかわからない形で業務上の注意事項が記してある。
その中に可愛い女性が来店したらInari(イナリ)、美人であればWasabi(ワサビ)と叫びなさいという注意書きがあった。(僕が書いたのだけど)
可愛い娘はスウィート(甘い)だからイナリ、美人はホット(辛い)だからワサビだ。もちろん従業員たちはこの業務命令に従順で、誰かが「ワサビ!」と叫ぶたびにフタッフ全員が一瞬仕事の手を止め、キョロキョロと辺りを見回したものだ。
スタッフの住む小さなフラットが僕の誕生パーティの会場だった。
僕は10人くらいのアットホームなパーティを予想してパーティに出席したが、フラットの中はスタッフほぼ全員とその関係者たちで溢れんばかりの人たちだった。心のこもった言葉の数々、たくさんのプレゼント、手作りの料理、ケーキが並べられ、この日の為に僕に捧げる歌までつくって披露してくれたスタッフもいた。
こんな盛大な誕生日は生まれて初めてだった。
目頭が熱くなった。
この誕生会の数ヶ月後にお店を辞めることが決まっていたにもかかわらず、オーナーのデイヴィッドとスコットは僕に素敵なプレゼントを用意してくれていた。
ホバートからサウスウェストナショナルパークへの遊覧飛行のチケットだった。
有効期限が1年間だったので僕は1年後の41歳の誕生日に自分への贈り物として、この遊覧飛行を楽しんだ。(だんだん歳がばれていく、、、)
初めてのセスナ機。
機内があまりにも古めかしく、驚いてしまった。まるで古いフォルクスワーゲン•ビートルに乗っているよだ。この超アナログなセスナがふわりふわりと飛びはじめ、楽しい時間が始まった。
空の上からみたリシャーチ•ベイ、これは最近激しい住民運動の末、政府の開発地になるのを逃れた場所。飛行機、船もしくは数週間以上のブッシュウォークをしないとたどり着けない場所なので、名前は何度も耳にしたけれど見たのは初めてだった。なるほど、こんなにキレイな場所は開発から守らなければならない。
タスマニアは政府がもの凄い予算をかけて計画していた巨大ダム建設を激しい住民運動によって中止させたという輝かしい過去がある。このことはタスマニアの人たちだけではなく、オーストラリア人全体に自分たちの意志と力で物事を変えられる、という大きな自信を与えたようだ。なのでタスマニア人は政府のやること、政治家のいうことにとても敏感に反応し、おかしいと思えばすぐに運動を起こす。住民がしっかりとものを見極める知識や判断基準を持っているという前提で、これはとても健全なことだと思う。どこかの国の人たちもぜひ見習ってほしい。政府の言いなりになっていて、しっぺ返しを食うのは僕たちや、子供たちなのだから。
セスナはサウスウェストナショナルパーク、マラルーカの舗装されていない飛行場に降り、そこからはボートで川下りをする。知らないうちに息を殺している自分に気がつく。人が普段足を踏み入れられない自然の中に入ったとき、その環境を満喫する、というよりむしろ圧倒されて縮こまってしまいたくなるような感じにいつでもなってしまう。
知り合いの日本人が一人でここへ来たときは道なき道を歩き、川に流され、たどり着くのに2週間半かかったと言っていた。その間じゅう、靴やテントや寝袋はビショビショだったらしい。実際にここへ来ると、彼のやったことのスゴさに驚いてしまう。ちなみに彼は自衛隊のパラシュート部隊(自衛隊の中では泣く子も黙る最強部隊)に所属していた。
手つかずの美しい自然に圧倒されっぱなしだったが、このフライトでもっとも衝撃だったのは空の上から見た伐採された森の跡だった。
以前、自転車で山の中をツーリングしていたとき、森の伐採あとを見てショックを受けたと言ったが、空から見るとそういう場所が怖いほど至る所にあることに気がつく。タスマニアのイメージは豊かな森がある自然と直結している。木の伐採が問題になっているが、僕たちはその現場を普段は目の当たりにしない。しかし、空の上から見ると一目瞭然だ。美しいこの島の至る所に10円ハゲのような穴ぼこがある。これは普段の生活では絶対に見られない光景だ。こんなふうに分かりにくいところで、分からないように森を破壊しているのだ。もしタスマニアの住民全員がタスマニアを空から見たら、また違った運動が起こるだろうと思った。
タスマニアを訪れる日本人観光客は年々着実に増えている。
とても嬉しいことだ。
タスマニアの美しい自然を堪能し、新鮮な食材を使ったおいしい料理とワインに酔いしれ、ワラビー、ウォンバット、タスマニアンデビルの写真を撮って、お土産のチーズやレザーウッドハニーを買って日本に帰る。
ただ、せっかくここへ来たのならもう一歩知識を深めて欲しい。
広告やメディアは美味しいことしかあなたに教えない。
本当のことを知りたければどんなことでも個人の努力が必要なのだ。
旅行パンフレットや地球の歩き方を読んだら、その後でもいいからタスアニアについて書かれている本をもう少しだけ読んで欲しい。
僕は決して難しい問題を考えて欲しいと言っているのではない。
タスマニアが直面している問題を知ることによって、より一層タスマニアの自然を愛おしく思い、タスマニアに住む人たちを身近に感じ、テーブルの上に乗る美味しい料理に感謝できるようになると思うのだ。
そうすることによってもっとここが好きになり、何度もここに来たいと思うに違いない。
タスマニアで切られている木のほとんどがチップとして日本に運ばれ、ダンボール箱になってしまう。例えばタスマニアに来たことのある5万人の日本人がこれを意識することによって何かが変わる可能性があると思うのだ。こういう小さな意識改革が世界をもっと良い場所にしていく努力なのだと僕は思っている。
そもそも旅行の目的の一つは自分の見識を広げることだし、見識が広がれば広がるほど人生は楽しくはず。
「百聞は一見に如かず」。
でもこの時代、よほど自分の目を見開かないとその「一見」が見えてこないのだ。
おっと話しが脱線した。
忘れ難い誕生日のプレゼント。
歳を重ねることは悪いことではない。
若い頃には見えなかったことが見えるようになり、生きていることの難しさと素晴らしさを知り、自分が周りの人々、地域、自然から実は多くを与えてもらっているのだということに気づきはじめる。
タスマニアに住んで以来、僕は自然の恩恵というものを少しずつではあるが感じはじめている。ブッシュウォーキング、カヤック、マウンテンバイク、ダイビング、サーフィン、キャンプ、自然に触れる回数が多くなればなるほど自然の素晴らしさを実感する。
残念ながら日本に住んでいたときはこのことにまったくと言っていいほど関心が無かった。
お金を稼ぐことに忙しすぎたのだろう。
日本の素晴らしい自然にもっと触れておくべきだった。
自然を守ろうとすることは、自分たちを大切に扱おうとすることだと思う。
写真は全てMelaleuca, Southwest National Park, Tasmania
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by somashiona | 2007-09-15 07:53 | デジタル