価値ある写真を




友人のマシュー・ニュートンが写真集を出版した。
『The Forests』というタイトルのドキュメンタリーだ。
森の伐採に反対する若き活動家たちを中心に、タスマニアの森をめぐる問題に焦点を当てた作品だ。
これは彼の4年間の仕事をまとめたものだ。
彼の写真にピート・ヘイという作家がポエティックな言葉を添えている。

出版記念パーティには政治家、活動家はもちろん、芸術家、音楽家、老人、子供と多くの人が集まっていた。
何人かの人たちが素晴らしいスピーチで彼の功績たたえた。
それらのスピーチを聴きながらマシューの顔を見てた僕は、思わず涙を流しそうになった。







彼はフリーのフォトグラファーだ。
ABCテレビのカメラマンもしているが、根っからのフォトグラファーなのだ。
ドキュメンタリー、それこそ彼が身も心も捧げている分野だ。
オーストラリアのメディアは全国紙ジ・オーストラリアンを中心としたマードック系、メルボルンの全国紙ジ・エイジを中心としたケリー・パッカー系に分かれる。
タスマニアでのマードック系の仕事はマシューがこなし、パッカー系の仕事はもう一人の僕の友人ピーターが担当するというのがタスマニアにおける報道写真の構図だ。それにローカル新聞社のフォトグラファーが加わる。大きい仕事が入りマシューがAP通信の仕事を受けてしまった場合やピーターがロイターの仕事を受けたときなどは新顔の僕がジ・オーストラリアン、ジ・エイジもしくは他の通信社の仕事をするのだ。節操のない僕の性格は仕事にも反映しているようだ。
なので記者会見、裁判所の前、事件、事故、現場で僕たちは顔を合わせるおなじみのグループというわけだ。
タスマニアで報道系の写真の仕事をするのは難しい。大きな事件など起ころうものなら、普通ならチームを組んで追いかけなくてはいけないようなことを、全て一人でやってのけなければならないからだ。全国紙や通信社が配給する写真でその事件のハイライトを見れるかどうかはこの二人の腕とガッツにかかっているのだ。
そういうとゴルゴ13みたいでカッコいいなぁ、と思う人もいるだろう。
しかし報道系のフォトグラファーはとても孤独な仕事だ。
いつでも一人で決定し、動かなくてはいけない。
いい仕事をして当たり前。
小さなミスをしようものならデスクからも読者からもガンガンとクレームがくる。
玄人好みの渋い写真を撮っても誰からも褒められることがなく、ピンの甘い写真を紙面で使われると同業者やアマチュア写真家から陰口を叩かれる。
土砂降りの中なん時間もびしょ濡れの重い機材を気にしながら被写体を待ち、ブッシュファイヤーの中ちりちりと燃える自分の髪の毛の音を聞きながらすすだらけの顔で目の前の惨事を撮らなくてはいけない。
心も身体も、摩耗する。
本当に消耗する。
ほとんどのプロは仕事以外ではカメラを持たなくなるのが普通だ。






マシュー、ピーターそして僕の3人は2ヶ月に一度くらいの割合でパブに行く。
(といっても僕はゲコなので毎回ジンジャエールなのだが)
もちろん話題はいつだってフォトグラフィー。
しかし考えてみるとテクニック的な話しをした記憶はあまりない。
いつだってどうやって写真をより多くの人に見せられるか、どんな問題を追いかけるか、こんなトラブルにはどう対処するか、というような話しだ。
数々の修羅場をくぐっている彼らの話しは最高に面白い。







パーティで彼の本を購入してから、僕と友人のピーターはしばらく埠頭を一緒に歩いた。
お互いマシューの功績に対する感動で胸が一杯なのだが、会話があまり弾まない理由は他にもある。
ジェラシーだ。
僕たちはいい友人だがフリーランスのフォトグラファーとしてはライバルでもあるのだ。
マシューが写真集を出版するのは今回で2度目だ。
僕にはその経験がない。
ピーターにもない。
写真集はフォトグラファーの夢だ。
いい写真を撮る人は世の中にたくさんいる。しかし、それをまとまった形あるものにし、より一層世に広めていくという作業をする人はそう多くない。写真集も写真展もある意味ひとつの物語だ。繋がりのない単発の写真を30点見るより、ひとつのテーマに沿った30点の写真を見る方が心に響くし、メッセージもより伝わる。しかし、そういった大河ドラマを作るのはお金も時間もかかるし、それ以上に相当の強い意志と執念のようなものが無いと実現しないものだ。








ピーター「マシュー、いい顔してたね」

僕「うん、フォトグラファーの顔だったよ」

ピーター「やっぱり、価値ある写真を撮らないとなぁ、、、」

僕「そうだよなぁ、なんでも撮りゃいいってもんじゃないね」

ピーター「マナブ、価値ある写真って一体なんだろう?」

僕「ピーター、、、女体かなぁ、、、?」

ピーター「マナブ、、、いつもそこにたどり着くんだね、君は」









サンプルの写真を送ってくれたマシューのメールの最後にこう書いてあった。

「そうそうマナブ、今月の終わりにバンコクに行くんだ。デイヴィッド・アラン・ハーベイとジェームズ・ナクトウェイのワークショップに参加するんだよ。楽しみで待ちきれないよ!」


デイヴィッド・アラン・ハーベイはライカをぶらさげてナショジオの仕事をこなす伝説的フォトグラファーで、ジェームズ・ナクトウェイは筋金入りの戦争フォトグラファーだ。


マシューは彼らから何を学ぶのだろう?


僕はすでにマシューから多くを学ばせてもらっている。




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もっとマシューの仕事を見てみたい人はここで










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by somashiona | 2007-11-19 17:24 | 人・ストーリー

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