ヨハンおじいさんの情熱
昨年の年越しはクレイドルマウンテンに滞在していた写真家の相原さんと一緒に過ごす予定でいた。
世界遺産での宴会のお供にバニーガールがいいか、それとも今回は芸者にするかお伺いを立てていたにもかかわらず、僕の仕事の予定がタイトになってしまい、相原さんとの年越しの話しは流れてしまった。
それでもその時期、仕事のためタスマニア北部で宿を探さなければならないことに変りはなく、クリスマスホリデーからニューイヤーにかけての観光シーズンのピークでどう宿を確保するか頭を悩ませていた。
シェフィールドに住むヨハンおじいさんに相原さんを紹介する約束もまだ果たしていないままだし、、、。
ヨハンおじいさん、、、シェフィールド、、、地図を開いてみるとヨハンの住む町から仕事の現場まで車で約1時間だった。
うん、これはいける!
ヨハンに電話し、泊まってもいいかと尋ねると、彼は大喜びだった。
あちこち寄り道しながらヨハンの家についたのは夜の9時を過ぎ。
ひさしぶりにヨハンの顔を見た。
満面の笑みを浮かべた彼だったが、以前より一回り小さくなったような気がした。
ヨハンは夕食の準備をし、僕を待ってくれていた。
しっかりと暖められたお皿に彼の手料理が盛りつけられ、僕たちはもくもくと食べはじめる。
一人暮らしの彼の習慣なのだろう、彼が家で食べるときは僕が横にいても必ずテレビのスイッチをいれて、椅子も身体もそちらの方に向く。
僕はひとまず話しかけるのをヤメ、ゆっくりと彼の部屋の中を見渡す。
殺風景な室内にさらに磨きがかかったと言うべきか、前回の訪問時より生活の匂いが消えている。
何か変だ、、、。
心なしか彼の姿に覇気が感じられない。
しかし、そんな心配も束の間の話し、翌朝5時には起床しなければならなかったのでもう寝ようかと思っていた時、彼はごそごそとカメラ機材を取り出してきた。
「マナブや、ちょっと見て欲しいものがあるんじゃ」
ヨハンの顔は少年の顔に変わっている。
「実はだな、カメラ買っちゃったのだよ、、、むふふ。」
「え、ニコンのいいカメラ持っていたでしょう?」
「何言っとるんじゃ、あれはフィルムカメラ、今はやはりデジタルじゃないといかんじゃろ!」彼の背後からマスターオブフォトグラフィのオーラが漂いはじめている。
「デジタルって、パソコンもっていないでしょ!」
「そういう写真とあまり関係ないものは、後で考えればいいのだ」
「関係大ありですって!」
「まあ、細かいことはいいから、ちょっと見ておくれよ、、、」
「あれっ、そんなレンズ持ってなかったよね?」
「うっ、しっ、しっ、これなんじゃがなぁ、色々と調べたのだよ。どの雑誌もとてもいい評価をしているんじゃ」
ニコンD80には新品のズームニッコール18-200mmが付いていた。
「ヨハン、すごいじゃない、これって!」
「うはははっ、なかなかいいじゃろう!でも、これだけじゃないんだ、、、」
「え、まだ何かあるの?」と彼の顔を見上げたとき、瞳がキラリと光った気がした。
「デジカメはだね、広角が決め手なのじゃよ。でな、いろいろ調べた結果これがベストだという結論に達したのじゃ」
100点満点の答案用紙を母親に見せる時の少年の顔をしてカメラバックから取り出したのは、、、。
「うわっ、それってシグマの10-20mmじゃない!なにそれ、ずるいよそんなの!」
それから約2時間、カメラ雑誌を広げておニューのカメラとレンズの解説が続いた。
彼の経済状況を考えると、このお買い物は働き盛りの人が新車を購入するのに匹敵する。
ヨハンおじいさんの情熱はまだまだホカホカだった。
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by somashiona | 2008-01-30 19:01 | 人・ストーリー