フリーランスフォトグラファー三者会談
先日、マシュー、ピーターそして僕を含めたタスマニア・フリーランス・フォトグラファーの三者会談がサラマンカプレイスのとあるパブで行なわれた。
彼らは黒ビール、ゲコの僕はストローを隠せばビールに見えるジンジャエールで乾杯だ。
まあ三者会談と言ってもただ単に世間話と情報交換なのだが、、、。
マシューはオーストラリアの全国紙「The Australian」をメインに、そしてピーターも全国紙「The Age」をメインに仕事をするフォトグラファーだ。
タスマニアのニュース写真のほとんどはこのふたりから全国、全世界に発信される。
マシューの話しは以前僕のブログの「ここで」、
そしてピーターのことは「ここで」、触れているので興味があったら覗いて欲しい。
今回の三者会談のメイントピックスはマシューがバンコクで参加した写真家デイヴィッド・アラン・ハーヴィーと同じく写真家ジェームス・ナクトウェイのワークショップの報告だ。(カタカナが多すぎるなぁ、、、)
このふたりの写真家は世界のフォトジャーナリズムの頂点に立つ人間。
その達人から直接写真の手ほどきを受けるのだ、どんなことを学んだのかマシューに聴講料を払ってでも聞きたい。
約一週間のワークショップ、「オォ〜メ〜ン、こんなにハードな写真生活は今まで送ったことがなかったよ」とマシューは話しをはじめた。
参加者は約20人、ほとんど全てがプロフェッショナルなフォトグラファー。
「ニューヨーク・タイムズ」をはじめ世界のメディアで活躍し、数々の賞を受賞している面々だ。
参加者全員が完全に写真気違い、写真に人生をかけている者ばかりだ。
早朝からデイヴィッド・アラン・ハーヴィー、ジェームス・ナクトウェイの講義がはじまる。
講義の後、その日の課題が与えられ、昼過ぎから与えられた課題にそった写真を撮りに各々が街にくり出す。
町中を歩き回り、足が棒になった後、ホテルの部屋に戻り、夕食後の写真発表会に向けてフォトショップで写真を処理し、スライドショーを作る。
参加者各々がその日に撮った写真はホテルのプールサイドにある真っ白な巨大な壁にスライドショーとして写し出される。
「自分の写真がね、これほどまでにクソミソに批評されたこと、今まで一度もなかったよ、、、」とマシューは僕とピーターの顔を見て言った。
メディアの一線で働き、十分なキャリアのあるフォトグラファーたちがライバルたちのその日に撮ったホヤホヤの写真を徹底的に考え、どうあるべきかを、どうすればもっと強い写真になるのかを議論しあう。
それはもう、僕のような小心者は考えただけでオシッコちびってしまう。
横で話を聞いていたピーターはもうすでにパンツを濡らしていたかもしれない。
このワークショップでマシューが学んだ一番大切なことは、欲しいイメージが手に入るまで、諦めず、とことん撮ることだ。
言ってしまえば簡単なことだが、それをとことんやる人間は少ない。
彼らは欲しいイメージを手に入れるため、時にはカメラを持たず、何週間も被写体が心を開くまで、国境の監視人がパスポートを見せなくても自分を通してくれるまで、密入国する秘密のルートを教えてもらうまで、と辛抱強くそういった人々と接する。
どうやら忍耐ぬきに写真は語れないようだ。
マシューは彼が今回驚いたことの一つに、いまだライカで仕事をする第一線のフォトグラファーが多いことをあげていた。
デジタル時代の今は、ライカM8だ。
しかもそういったフォトグラファーのほとんどがカメラボディ−1台に35mmレンズ(35mm換算で)というパターン。
僕がデイヴィッド・アラン・ハーヴィーの写真で衝撃を受けたのは、あの動きのあるイメージをライカで撮っていると知った時だった。
ワークショップに参加したあるベテランフォトグラファーもライカでニューヨーク・タイムズの仕事をしていた。
新聞の仕事をライカで、、、?
新聞の仕事は何が起こっても対応できるよう17−35mm/f2.8、28−70mm/f2.8、70−200mm/f2.8というのが標準装備。
どんな現場でもほとんどのフォトグラファーはこれに近い装備で仕事をしている。
それをライカ1台と35mmレンズだけで勝負するなんて、本当に信じられない話だ。
デイヴィッド・アラン・ハーヴィーに関しては絞りも大体いつも同じ位置にセットしているらしい。
開放値だ。これも信じられない、、、難しすぎる、、、。
一台のカメラと1本のレンズで勝負する最大の理由は「シンプルイズベスト」、もうこれに尽きるらしい。
見ることに神経を注ぐ。最高の一瞬を逃さない。
シンプルであればあるほど、的中率が上がるという。
スポーツ写真、水中写真、接写の世界、そのシンプル装備では対応できない分野は山ほどあるが、この「シンプルイズベスト」は写真を撮るという行為の本質を改めて考え直してしまう言葉だ。
いつも上手く撮れなかったとき、もっといいレンズがあれば、、、もっと高性能なカメラがあれば、、、とついつい考えてしまうが、本当は今ある機材で十分すぎるほどいい写真が撮れるはずなのだ。
いい眼と腕があればの話しだが、、、。
フォトジャーナリズム的写真のテクニカルな部分をフリーランサー同士で語る時によく出る話題がフラッシュ(スピードライト)のことだ。
できるだけフラッシュを使わないで写真を撮ることにこだわるフォトグラファーが多い反面、難しい光りの状況で撮影を余儀なくされるフォトジャーナリズムの場合、欲しいイメージを手に入れることができるかどうかがフラッシュの使いこなしいかんで決まることが多々ある。
しかも一流のフォトグラファーはフラッシュを使っているにも関わらず、写真にこのフラッシュの光りをまったく感じさせない。
僕がプロとしてスポーツ雑誌で働きはじめたとき、自分の技量のなさを一番感じたのがフラッシュの技術だった。
アマチュアで写真を撮っている時にフラッシュを駆使しなくてはならない状況などほとんど出てこなかったので、これに関しては教科書通りの知識しか持ち合わせていなかった。
このフラッシュ、今でも悩みの種だ。
ありとあらゆることを試した。
ブラジルさんがブログで紹介しているオムニバウンスを使って弱めの光りを当てるのが長い間僕のパターンになっていたが、ここ一年くらいはそれを考え直し、ストレートの光を当て写真に芯を持たすようにしている。
(ブラジルさんはフラッシュの使い方がとても上手い)
しかし、どうしても色が不自然。アンバー系のフィルターをフラッシュにつけても不自然。
この話しを今回の三者会談で話すとマシューはニヤリと笑い僕に言った。
「マナブ、今回のワークショップで仕入れた情報なんだけど、、、」
あ、どうしようかなぁ〜、言おうかなぁ〜、もったいないなぁ〜、誰にも言わないんなら教えてもいいけどブログっていろんな人が見てるからなぁ〜、、、。
(引っぱり過ぎ?)
スピードライトの達人たち、なんと発光パネルにバンドエイドを貼付けているらしい。
バンドエイドのあの色が一番人肌とマッチすると言うのだ。
で、あのガーゼがついている部分はどうする?
フラッシュの発光パネルは中央から一番強い光りが出る。
発光パネルにガーゼがついたままバンドエイドを張ると一番強い光りがいい感じでディフューズされるのだ。なのでガーゼもついたままでOK!
ちょうど昨日は肌の露出が多いダンサーたちを撮影する仕事が入っていた。
この必殺バンドエイド・フラッシュをさっそく試してみた。
好みもあるだろうが、僕はとても好きだった。
フラッシュを使う場合は場明かり(Ambient Light)をどれくらい取り入れるかが悩みどころ。主要被写体をフラッシュの光りがギリギリ止められるくらいがいいが、周りの状況に左右されるのでこれといった法則はない。
経験と勘が頼りだ。
こんな話しをしていると本当にきりがないので、そろそろおしまいにしょう。
この三者会談、まだまだ面白い話題がたくさんあるので、いつかまた続きを話すことにする。
ご期待を!
こんな話題にマッチする写真がないので、テキストとまったく関係のないコンデジ写真を一枚。
デビッド・アラン・ハービー David Alan Harvey
http://www.magnumphotos.co.jp/ws_photographer/dah/index.html
ジェームス・ナクトウェイ James Nachtwey
http://www.youtube.com/watch?v=uP4Zat6xSrM&feature=related
http://www.faheykleingallery.com/featured_artists/nachtwey/nachtwey_frames.htm
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by somashiona | 2008-02-20 23:46 | デジタル