シングルマザー その1



出された課題は『シングルマザー』だった。


母一人で子供育てるというイメージ以外は浮かばない。
3週間も前にこのテーマを与えられていたにも関わらず、まだ写すべき被写体を見つけていなかった。
というより意識的にやらなければいけない事リストから除外していたのだ。
気が重くなるような大切な事柄を先へ先へと引き延ばす、まったく悪い癖だ。
「世界ぐずぐずだらだら協会」名誉会員の称号は決して伊達じゃない。


締め切りまであと3日。
その年、僕がとっていた「フォトジャーナリズム」というクラスのファイナルアサイメントだった。
いわゆるクラスの卒業制作作品だ。
今まで出された課題は苦しみながらもなんとか無事提出し、高得点を維持してきたが、結局はこのファイナルアサイメントの善し悪しで全てが決まる。
モノクロフィルムを使用し、最低10枚の8x10のプリントを使い、ドキュメンタリーを作らなくてはいけない。
クラスの友人たちに連絡をすると、ほとんどの人たちがもうプリントを終えていた。
まずい、、、。



シングルマザーの知り合いは誰もいず、知り合いに電話をかけまくりシングルマザーを紹介してもらおうと思ったが、当てにしていたこの作戦は見事に空振りに終わった。
まずい、、、まずすぎる、、、。


パニック状態に陥っていた僕が考えついた作戦はあまりにも幼稚だった。
カメラとノートを抱えフラットを出た僕はハリウッド通りを1日中何往復もし、女性一人で子供を連れて歩いている人片っ端に「エクスキューズ ミー、あなたはシングルマザーですか?」と聞きまくった。
当時、ハリウッドはかなり怪しい人間がうごめく街だったが、客観的に考えると僕もその怪しい人種の一人だったのかもしれない。


声をかけた人たちは軽く50人を超えていた。
突拍子もない質問に笑う人もいれば、失礼な事を聞くな!と怒る人もいた。
その場で写真を撮る事に関しては多くの人の同意を得られたが、家の中に上がり込んで朝から晩まで写真を撮る事に関しては皆ノーといった。
当たり前だ。
ハリウッドで見知らぬ東洋人を家に入れるなんて正気の沙汰じゃない。


夕方ちかく、通りの片隅に僕は座り込んでいた。
足が棒になり、撫で肩の角度がさらに強まり、目もどんよりとしているのが自分でも分かる。
そんなとき、黒人の女性が男の子を連れて僕の目の前を通り過ぎた。
もう声をかける気力もなく、しばらく彼女たちの後ろ姿を見つめていたが、ハッと我に返り、この二人を追いかけた。


事情を説明し、とりあえずこの二人を撮り始めた。
もう、深追いしなくてもいいから、路上の二人を撮ってこのアサイメントを終わらせよう、と覚悟を決めていたのだが、周りは既に暗くなり始め、フラッシュを持ってこなかった僕はISO400のTri-xの感度を800にしても、シャッタースピードを1/30以下にしても撮影困難な状態に陥っていた。
泣きそうな顔をしている僕を見て彼女はこう言った。
「明日にすればいいじゃない?朝、家に来ればいいのよ」
彼女の周りにきらきらと光る無数のエンジェルが笑いながらひらひらと飛んでいるのが僕には見えた。(ような気がする)


翌朝の7時前 、教えられた住所に僕は立っていた。
ハリウッド通りのはずれに建つボロボロの安ホテルだった。
家じゃない、、、やられた、、、騙された、、、と正直僕は思った。
早朝にもかかわらずジャンキーがゲードの前で寝転んでいる。
ヤクの打ち過ぎでろれつの回らない英語でタバコをくれたらゲートを開けてやると彼は言った。
ヘビースモーカーだった僕は財布を家に忘れてもマールボロとジッポを忘れることはない。
ホテルに入ると、階段に数人の男が転がっている。
ひとり眼光の鋭い男が「何の用だ?」と僕に聞くので彼女の名前を言うと「その廊下の突き当たりだ」と言った。
やはり彼女はこのホテルに住んでいるのだ!
紙切れに書かれた部屋番号のドアをノックしてもしばらく返事がなかった。
心の底では一刻も早くこの怖いホテルから出たかったが、彼女と子供を撮らずして帰るわけにはいかない。
5分ほどたってもう一度ノックすると「誰なの、、、?」と言う声が返ってきた。
僕の名前を言うとしばらくの間をおいて「Come in!」と彼女が言った。








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by somashiona | 2008-03-20 15:18 | B&W Print

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