6月の花嫁#3



海外に住んでいると様々なお国柄の結婚式を体験できるが、その中でも特に興味深いのが国際結婚だ。
これは正に異文化融合の瞬間だ。
国際結婚を見るたび、こうやって世界はひとつになっていくのだ、という実感を持つ。


日本人同士の結婚でさえゴールまでは山あり谷ありなのだから、国際結婚をするカップルの道のりはパリ・ダカールラリーくらい過酷だ。


僕の友人であるオーストラリア人のD君は聡明な日本人女性に恋をした。
とてもしっかりした彼女が育った家庭環境は超がつくほど純日本風で、古来日本から受け継いだ家族の鏡のようだった。
そして、家長制度がいまだにしっかりと機能している純日本風な彼女の家族はD君にとって高い、高い壁となって立ちはだかった。


「マナブさん、オトウサンにテガミをカキマシタ、チェックしてください」
彼女と出会ってから日本語を猛勉強してるD君は日本語で僕に尋ねた。
小学校6年生レベルのきちんとした文字で書かれた手紙を見て、僕は感動した。
彼の心が500%詰まっていた。


しかし、どんなに待っても手紙の返事は返ってこない。


「マナブさん、オトウサンに会いにイキマス。ナンテ言ったらイイデショウ?」
「そぉ〜だなぁ、やっぱり定番は、「お父さん、娘さんを僕にください」じゃないかなぁ」
Musume san o boku ni、、、ノートにメモし始めるD君。
「ねえ、D君、彼女のお父さんってどんな人なの?」
「アノデスネ、会社のシャチョーさんデ空手の先生デ、、、」
「おい、おい、D君、それならまずは護身術を習うことからはじめなきゃ!」


D君は彼女の両親が住む町へ1年間に4回飛んだ。
日本へ行くたび、すぐにタスマニアへ帰ってきた。
毎回、門前払いを食っていたのだ。
肩を落とした青い目の青年が、一人とぼとぼとその小さな島を歩く。
感傷に浸っていたいところだが、外国人などほとんどいないその島では目立ちすぎ。
彼女の家族に迷惑がかかる。
すぐにタスマニアへ帰らざるをえなかった。
3回目のチャレンジ、彼女のお母さんとおばあちゃんがお父さんに内緒でD君と会った。
このままでは娘は好きななった男と駆け落ちする、顔も見たことがない男と娘が駆け落ちするのは心配でたまらない、親よりも好きな人が出来たんじゃ、もうしょうがない、というのが理由だったそうだ。
お母さんとおばあちゃん、D君に会うとすぐに彼のことが好きになった。
そしてその日から、お母さんとおばあちゃんのダブルでお父さんの説得がはじまった。
お父さん、ガイジンの男と言えばお父さんの住む町でときどき見かける筋肉もりもりした入れ墨の腕でチューインガムをくちゃくちゃしながら大声で話す某合衆国の兵隊さんのイメージが強かったらしい。
お母さん、おばあちゃん、娘たちの総攻撃にあったお父さんはついにD君と会う決意をした。
会う前の夜、今までD君がお父さんに当てて送った未開封の手紙をあわてて読んだ。


お父さんの目の前に表れたのは、しっかりとスーツを着込んだ、細身の、清潔感漂う青い目をした英国風青年だった。
お父さん、ついに腹を決めた。

一度腹を決めてしまうと、お父さん、日本男児の誠意を見せるため出来うる限りのことをした。
とにかく、真心込めてD君やD君の家族と接した。


結婚式はD君が生まれ育った場所にあるとても、とても小さな教会で行なわれた。
新郎新婦の衣装からテーブルの飾り付けまで、全てが友人や家族たちによる、手作りの結婚式だ。
披露宴もまた、タイムテーブルがなく、司会進行役もいず、多くの人たちが彼や彼女たちの幸せを語る温かいものだった。
お父さん、日本から大勢の人たちをタスマニアに連れてきてくれた。
全てのスピーチは日本語訳、英語訳され皆がスピーチに笑い、泣いた。


僕はこの日、不覚にも写真を撮りながら涙を流してしまった。
花嫁さんのお父さんのスピーチで僕の涙腺が壊れてしまったのだ。
お父さん、まるで武士が戦いに臨むような清々しさと迷いのないオーラを漂わせながらマイクに向かった。
僕はその歩く姿を見ているだけで、もう胸がいっぱいになっていた。
それまで騒がしかった会場もお父さんの姿を見てシーンとなる。
お父さん、会場を一瞥するとハッキリと会場隅々まで響く声でスピーチをはじめた。
なんと、英語のスピーチだった。
D君がお父さんに会うため、日本語を猛特訓したのと同様、お父さんも同じ気持ちでD君やD君の家族のために英語の100本ノックをしたに違いない。
自分の娘を貰ってもらう親としての感謝、これから世話をかけるであろう娘を温かく見守ってほしいという気持ち、2つの国の人間がひとつの家族になることへの感慨、僕はこんな素晴らしいスピーチをいままで聞いたことがなかった。
僕はこのとき、日本人という国民が持つ心の木目の細かさと感謝の心、そして武士道を誇りに思った。
周りにいたオージーたちも皆感動していた。
スピーチが終わると割れんばかりの拍手が会場に響いた。



あれから3年、もうすぐ僕は彼ら二人と新しく彼らの家族に加わった異文化融合の結晶である小さな赤ちゃんのファミリーポートレイトを撮る予定だ。










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教会に向かう花嫁、そして彼女を見つめるご両親。






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教会の中では皆が花嫁を待っている。ブライドメイトたちとこの階段を歩きはじめれば人生の新しい扉が開く。緊張のあまり?笑いが絶えない。






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式は厳かに進められ、胸いっぱいの感動で幕を閉じた。






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ここに集まった人たち皆が二人の人生を応援してくれる。






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大泣きした後、緊張から解放され、花嫁の表情がやわらいだ。
やっと念願が叶ったのだ。






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教会での式が終わり、披露宴のパーティーに向かう途中、ホテルのエレベーターの前で新郎新婦は新婦のお父さんとばったり出くわした。
お父さん、突然D君に手を差し出す。D君もしっかりとその手を握り返し、目を閉じた。お父さんとD君が無言の言葉を交わし、心をひとつにした瞬間だ。お父さんは大笑いをして青い目をした新しい息子を迎える。






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披露宴のパーティではスピーチする人たちのユーモアに誰もが大笑いしていたが、お父さんとお母さんはひたすら自分の娘を見つめていた。






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お父さんのスピーチがはじまった。
娘の肩が震え、D君は手を胸に当てた。
僕の目は涙で視界ゼロ状態、、、仕事、仕事と自分に言い聞かせるがコントロール不能。






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お父さんのスピーチが終わると割れんばかりの拍手が会場に響いた。
それとともに各テーブルでは白いハンカチが多くに人の顔の前で揺れている。
涙の大雨・洪水警報が出されてもおかしくない状態だった。






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こちらの結婚披露宴パーティーで新郎新婦が一番緊張する瞬間はきっと二人のダンスを披露する時だろう。
音楽が流れ、新郎が新婦の手を取り会場の中央に立つ。
会場にいる全ての人たちの視線が二人に注がれる。
多くのカップルはソシアルダンスのステップなど知らないので、この日のために特訓を積むはめになる。
この二人も上手くダンスが踊れるかとても気にしていた。
心配するまでもなく、二人は華麗にフロアーを舞った。







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音楽がワルツからロックンロールに変わるとハノーヴァー朝だった二人は現代っ子にもどり、得意のダンスを激しく踊りはじまる。






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それが合図だったかのように会場にいた人たちも一斉にフロアーに集まり、大ダンス大会がはじまる。






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熱気ムンムンのフロアーでは皆髪を振り乱し、ダンスに酔っていたが






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一番爆発していたのは、、、お父さんだったかもしれない。

めでたし、めでたし。






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by somashiona | 2008-06-07 12:50 | 人・ストーリー

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