永住権はドラゴンへの道




Kojiはプロの料理人だ。
彼は僕の近所に住んでいて、僕は彼の家に時々遊びにいく。
僕はあまり人の家に遊びに行くほうじゃないので、これはきわめて珍しいケースだ。
僕も彼もブルース・リーが好きという共通の話題もあることはあるが、Kojiと会えば会話の80%がオージーには理解してもらえないディープなエロ話なので、貧乏暇なしの僕としてはどちらかというと避けて通りたいところ。
それでも彼からお誘いの電話があると熱い電灯に向かって飛んでいく蛾のように彼の家に行ってしまうのは、思わず目がハート型になってしまいそうなおいしいプロの料理を僕にご馳走してくれるからだ。






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日本へ向かうシンガポールエアラインの飛行機の中で前の座席に付いている小さな画面で見ることが出来る最新の映画に目もくれず、面白過ぎて睡眠を取る気になれない 横山秀夫氏の「クライマーズ・ハイ」を貪るように読んでいるとき、その日がKojiの誕生日であることを突然思い出した。
2年前のKojiの誕生日、彼の写真を撮ってあげると約束したことも同時に思い出してしまった。
僕は親しい友人の依頼でも無料で写真を撮ることをしない。
それは写真を撮るのが僕の仕事だし、僕が友人のフォトグラファーに僕と子供たちの撮影を頼むときだって絶対にお金を払う。
と偉そうなことを言いながら、プロの料理人のKojiには無料で美味しいものをたくさん食べさせてもらっているので、プロの技術にはプロの技術でお返しをするべきだと前々から思っていたのだ。






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Kojiは5年ほど前にオッパイの大きくて美人なオーストラリアの恋人と共に関西方面からタスマニアにやって来た。
やがてその彼女と別れ、異国の地で独ぼっちになってしまう。
この経験は僕もしているので(汗)彼の気持ちは痛いほど分かった。
日本では芸術大学の大学院を卒業している彼だが、この牛と羊がいっぱいのタスマニアで彼の専門分野を活かせる仕事などあるはずがない。
海外生活で英語がペラペラになって、帰国後はハイクラスでファッショナブルな生活をする将来を描いてオーストラリアに来たのだ、テレビドラマの英語も理解できないうちにおちおち日本に帰るわけにはいかない。
彼はそのとき通っていた語学学校のコースを終えると、オーストラリアで仕事にありつき、ビザを取れる可能性が比較的高い料理の専門学校で勉強をすることにした。
早朝や学校の授業がないときはオーストラリア人が経営する寿司屋で責任ある仕事をこなし、そこで得たお金を学費や食材、調理器具などにあてた。
タスマニアに風俗がないのが幸いしたと僕は思っている。
Koji曰く、日本では何をやっても自分で生きているという実感が持てなかったという。
怪しいセールスマンもしたし、夜は酔っぱらっていることが多かった。
お腹のまわりには贅肉がたぷたぷと付いていたが、エクササイズをするより、テレビやパソコンの画面の前で多くの時間を過ごすのが心地よかったタイプの男だ。






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日本じゃ通用しないからオーストラリアに来た、という人に時々会う。
海外で生きるということは(学生じゃなく仕事をして)日本の10倍大変だ。
本気で怒るし、本気で泣きたくなることがたくさんある。
語学で他の人より劣っている以上、そのマイナスを上回る強い武器を持っていなければならない。
コミュニケーションも高い能力が求められる。
日本じゃ通用しないから、、、といってオーストラリアに来た人間の99%はここでめった打ちにされて、ろくに英語も話せないまま肩を落として日本に帰り、日本では少しだけ知っているオーストラリア英語のスラングを使い、海外に住んでいたことを強調する。
僕が初めて会った頃のKojiと今の彼はまるで別人だ。(エロは変わらない)
しっかりとした目的を持ち、毎日プールで身体を鍛え、僕のような貧乏人に施しを与えることを覚えた。
めった打ちにされて、たくさん泣きを見て、そしてタフな人間になった一例だ。
この日、彼はついにパーマネント・レジデンシー(永住権)を正式に手に入れた。
僕のようにオーストラリア人と結婚して簡単にオーストラリアの永住権を手に入れてしまった人間を除いて、自分の実力でこれを手に入れるのは本当に大変なことだ。
普段、関西人特有の口の悪さで(関西の方、ごめんなさい。彼がそういうイメージを僕に植え付けました)僕をけちょん、けちょんに言う彼を褒めるのは癪に障るが、永住権までの長い道のり、本当に頑張ったね、と小声で彼に言ってやりたい。






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by somashiona | 2008-09-30 07:21 | 人・ストーリー

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